一橋教員の本
経済学原理 第4巻
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アルフレッド・マーシャル著 ; 西沢保, 藤井賢治訳 |
訳者コメント
マーシャル『経済学原理』第4巻は、翻譯の最後の巻である。『経済学原理』は、大きく第1編から第6編という構成になっているが、この第4巻は、第6編(第1章から第13章)と付録であり、訳者の「解題」と索引を含んでいる。翻訳の第3巻は『経済学原理』第5編で、需要と供給の均衡、価値、価格を扱う静学的均衡論であり、第6編は、その理論的基礎の上に展開される国民所得の分配というより具体的な問題である。分配の予備的考察、労働の稼得、資本の利子、利潤と企業能力、土地の地代、そして最後に経済的進歩の影響、進歩と生活基準という構成になっていて、とくに最後の方は有機的成長論という色彩が強い。
「分配の予備的考察」の最初の方に、次のようにある。「高い賃金を支払われている労働は一般に能率が高く、したがって費用的には高い労働ではないという事実に絶えず一層の注意が払われるようになった。この事実は、我々が知っている他のどんな事実よりも人類の将来に大きな希望をもたせるものである」(第4巻、10-11ページ)。マーシャルは、「富の増大よりも生活の質」の向上を求めて、経済学研究を始めた。第6編の最終章は「生活基準との関連で見た進歩」であるが、進歩と「生活の質」、’wellbeing’ の向上というマーシャルの福祉の思想がよく出ているように思われる。(西沢保)