一橋教員の本
「微重力思考」のすすめ : 真の学問融合へのアプローチ
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中山俊秀, 藤原武男編著 ; 佐藤主光 [ほか] 著 |
著者コメント
「微重力」とはどういう状態か想像できるでしょうか?重力は地面に張り付いた状態、無重力が地面から遠ざかっていく状態とすれば、微重力はその中間にあたります。地面の近くをふわりと浮かんでいるのをイメージしてみてください。では浮いているのは誰でしょうか?専門分野の研究者であり、それを学ぶ学生です。微重力では彼等は自分の専門分野という重力から少しだけ解放されているのです。ふわりと浮かぶことで専門分野という壁を越えて、お隣さん、つまり他の分野の研究者や学生と顔を合わせることができます。そこで異なる分野の間での交流(コミュニケーション)が生まれます。既に「学際的」と呼ばれる五分野間での共同研究があるだろうと思われるかもしれません。しかし、従来の学際的な研究はそれぞれが重力=専門分野で地面に引き寄せられたまま、分野間にある壁の隙間から互いの手を握った感じです。ここでは手=分析手法だけ協力しても目線=課題意識があっていないのです。専門分野の壁を超える程度に宙に浮いて、目が合えば、互いに課題を共有できます。再び重力の力で地面=専門領域に戻っても、共有した課題意識で自分の研究を続けることができます。これが「微重力思考」です。この本は四大学(現在、三大学)連合の活動の一環として全く異なる分野の研究者は会合を重ねて意見交換と試行錯誤を積み重ねて至った境地を述べています。それぞれの専門分野から離れるわけではなく、しかし、同じ課題を見据えて互いに協力するということです。その具体的な成果がコロナ禍における政府の対策への検証です。新型コロナの感染拡大はまだ記憶に新しいところですが、営業の自粛など行動制限を含めて政府の対策がこれでよかったのか考えなくてはならないところがあります。新型コロナという感染症(病気)の話なのだから社会科学は無関係というのは全くの誤りです。コロナ禍は医療の現場に留まらず社会・経済に大きな影響を残しました。社会科学にはもっとできることがあったかもしれません。また、専門分野という壁を越えて協力していたら状況はもっと早く改善していたかもしれません。本書の中では「微重力思考」に観点からこうした振り返りをしています。本書を読めば皆さんも自分の周りの壁=専門分野を越えて宙に浮く感じが分かるでしょう。(佐藤主光)