一橋教員の本
増補 決闘裁判 :ヨーロッパ法精神の原風景(ちくま学芸文庫)
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山内進著 |
著者コメント
本書は、もともと2000年に講談社現代新書として出版されたが、新たに「増補 法と身体のパフォーマンス」を付加したうえで、ちくま学芸文庫として出されたものである。著作の「エピローグ」でアメリカンフットボールのスーパースターを被告人とした「シンプソン裁判」を取り上げているが、追跡する警察とカーチェイスを繰り広げるほど元気だったO.J.シンプソンもつい最近がんで死亡したという。最初の出版から四半世紀ほどたっているという時の経過が感じられる。しかし、現代との関係性を含めて、私の基本的認識は変わっていない。「増補」で記したように、つい最近も、トランプ前大統領の法律顧問をしていたジュリアーニ元ニューヨーク市長が大統領選の選挙結果に抗議する大集会(2021年1月)で「さあ、決闘裁判をしよう」といって物議をかもしたほど、「決闘裁判」という言葉は生きている。私たちからすると奇妙な「司法取引」というアメリカ合衆国の司法制度も依然として盛んなようで、その根底にある当事者主義を理解するには「決闘裁判」という中世ヨーロッパの法制度を知っておくことが必要である。非常に西洋的な「決闘裁判」について多くを知ることはまた、それとは異質な日本の法制度あるいは法文化を考えるうえでも有益であろう。この面では、今回の増補版に、日本法制史の研究者である本学の松園潤一朗教授による「法と力をめぐる比較法制史の面白さ」と題された、学問的で、それこそ面白い「解説」が加えられている。こちらもぜひ読んでいただきたいと思う。