一橋教員の本

エドワード・サイード : ある批評家の残響

エドワード・サイード : ある批評家の残響

中井亜佐子
書肆侃侃房 2024年1月刊行
ISBN : 9784863856127

刊行時著者所属:
中井亜佐子(言語社会研究科)

著者コメント

 エドワード・サイード (1935-2003)はイギリス委任統治領パレスチナに生まれ、アメリカ合衆国を拠点に活動した文学研究者・批評家です。アクティヴィストとしてパレスチナ解放運動に深く関与し、パレスチナ問題にかんする著作も数多く残しました。2023年はサイード没後20年にあたる年でしたが、奇しくも、現在のイスラエルによる過酷なパレスチナ政策の出発点となったオスロ合意から、ちょうど30年でもありました。

   本書は「批評家」としてのサイードの仕事に焦点を当てて論じたものです。サイードが好んで論じた作家、思想家のなかからジョセフ・コンラッド、ミシェル・フーコー、レイモンド・ウィリアムズをとりあげ、それぞれの書き手の著作をサイードがどのように読み、受容し、批評したのかをたどることによって、彼にとって批評とはどのような営為だったのかを探ろうとしています。サイード自身の著作としては、主著と目されることの多い『オリエンタリズム』(1978年)のほか、初期の理論書『はじまり』(1975年)、もっとも先鋭的な論集『世界、テクスト、批評家』(1983年)、パレスチナ関連の著書『パレスチナ問題』(1979年)、『パレスチナとは何か』(1986年)など、1970年代から80年代のテクストを中心に扱っています。

   サイードの著作は、きわめて抽象度の高い理論的なものであっても、彼がかかわっていたパレスチナの現実の問題のなかから生まれています。イスラエルによるガザへの激しい攻撃が続く現在、サイードを読みなおすことによってパレスチナの歴史の一端を学ぶとともに、文学や思想がどのように現実の問題に関与しうるのか、考えるきっかけにしていただければ嬉しいです。



Share On