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一橋大学がソニー、パナソニック、富士通、資生堂と共同で、 デザイン組織の共通評価指標を検討・作成

一橋大学は、経営管理研究科内に設置した「データ・デザイン研究センター」において、ソニーグループ株式会社クリエイティブセンター、パナソニック株式会社デザイン本部、富士通株式会社デザインセンター及び株式会社資生堂クリエイティブ本部と共同で、社内デザイン組織の活動や成果を共通の視点で量的に評価する指標を検討・作成しました。

背景:

日本は、大企業を中心に、社内にデザイナーを雇用する制度(インハウスデザイナー制度)が普及していますが、そのような社内デザイン組織(デザイン部等)は、他の部門・部署と職能が大きく違うために、組織活動の成果が量的に評価しにくいという課題を抱えています。このような組織活動評価の難しさは、デザイナー人材の雇用や処遇、あるいは企業経営に対するデザイン機能の事業貢献の計測評価という観点とも深く関係しています。このような課題を解決しデザイン経営を促進していくためには、企業を横断する形で、デザイン組織の活動を共通の視点で量的に評価する手法の開発が求められます。一橋大学は、「データ・デザイン研究センター」において、ソニーグループ株式会社クリエイティブセンター、パナソニック株式会社デザイン本部、富士通株式会社デザインセンター及び株式会社資生堂クリエイティブ本部と共同で、そのような手法の開発を進めています。

具体的な取り組み:

一橋大学「データ・デザイン研究センター」では、ソニーグループ株式会社クリエイティブセンターが、社内で試作し運用してきたデザイン組織の客観評価のための大規模社内調査の仕組みを原案として、パナソニック株式会社デザイン本部、富士通株式会社デザインセンター及び株式会社資生堂クリエイティブ本部でも同様の社内サンプル調査、検証を行いました。調査対象は、事業部等、デザイン組織から見たステークホルダーです。回収できたサンプル数は、ソニーが134サンプル、パナソニックが136サンプル、富士通が115サンプル、資生堂が80サンプル、4社合計で465サンプルでした。

これらのデータをもとに、因子分析という手法を用いて、デザイン組織の評価としてどのような要素が高い説明力を持つのかを検証した結果、「商品開発力」「情報の提供」「ブランドの一貫性」「アウトプットの速度」「コスト」の5要素が抽出されました。この中で最も重要な要素は「商品開発力」と「コスト」でした。さらにこの結果を用いて、社内他部門の所属員によるデザイン組織への満足度を推計するための式を、重回帰分析手法で導出したところ、次の式のようになりました。

デザイン組織への社内他部門での満足度(%)=
0.478×「商品開発力」スコア+0.15×「コスト」スコア+0.246

この結果についての決定係数及びその統計的有意性を検定したところ、決定係数R2=0.425(水準1%以下で有意)であるとの結果を得ました。この決定係数とは、この重回帰式が実際の現象をどの程度再現できているかの「あてはまり」を測る指標とされており、0から1の間の値をとり、大きいほど現実の再現性が高いと考えられます。今回の結果は、決定係数としては高いものとは言えませんが、有意性の検定については良好な結果を得られましたので、調査自体の正確性及びその分析結果の妥当性については、一定の成果を収めたと考えられます。

なぜ決定係数がこのようにあまり高くなかったのかについては、この5要素それぞれの重要度及び重回帰分析による推計式が、参加4社によって、それぞれの企業戦略を強く反映し大きく違っていたからだと考えられます。つまり、ソニー、パナソニック、富士通及び資生堂では、それぞれの企業内でデザイン組織への期待や評価のポイントが大きく違っているということを示しています。したがって、同様の調査に参加する企業がもっと増えて多様な企業戦略が反映されれば、重回帰式及びその決定係数の質は向上していくと考えられます。

これらの分析結果を受けて、一橋大学「データ・デザイン研究センター」としては、元の調査項目、調査方法及び導出された5要素とその重回帰式を用いて、各企業におけるデザイン組織のパフォーマンスを評価する指標(Key Performance Indicators: KPI)が策定できると結論づけました。このKPIを用いることで、自社のデザイン組織が、どのような内容によって、どの程度の社内満足度を獲得できているのか、そしてそれは他社と比較してどのような水準なのかを相対比較することが可能になると考えられます。社内デザイン組織を持つ幅広い企業が、量的経営指標として広く活用することで、デザインを経営や事業に貢献するリソースとして活用出来ることが可能になると考えられます。

今後の展開:

今回の結果をさらに深く分析し、事業部ごとにどのような違いがあるのか等の理解を試みるとともに、他にも活用に足る指標があるかどうかを探索する予定です。また、デザインが企業経営に貢献できる分野は、主に「ブランディング」と「イノベーション」である(2018年経済産業省・特許庁「デザイン経営宣言」より)と考えられますが、今回の結果によれば、「ブランディング」よりも「イノベーション」の方が優位でした(「商品開発力」の方が「ブランドの一貫性」よりも重要との結果より)。このことがどのような意味を持つのかについて、さらに検証を進めたいと考えています。
他方、このKPI研究に参加していただける企業をさらに増やすことで、結果の質的向上も目指したいと考えています。

一橋大学「データ・デザイン研究センター」について:

⼀橋⼤学(東京都国⽴市)が、2019年に経営管理研究科内に設置した研究組織であり、デザイン経営やデータ・サイエンスを含む情報学に関する教育プログラムの開発並びに当該分野に関する研究活動を⾏なっている。

お問い合わせ先:

一橋大学総務部広報室
E-mail:pr1284@ad.hit-u.ac.jp
TEL:042-580-8032 FAX:042-580-8016

⼀橋⼤学データ・デザイン研究センター
E-mail: sba-hddrc@hub.hit-u.ac.jp
URL: https://hddrc.net/

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