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【一橋大学創立150周年記念シンポジウム】「非財務インパクトを企業価値に結び付けるサステナビリティ経営の実践」

2025年10月2日 掲載

2025年7月28日(月)、千代田区の一橋講堂にて一橋大学創立150周年記念シンポジウム「非財務インパクトを企業価値に結び付けるサステナビリティ経営の実践」が開催された。世界的に浸透しつつあるサステナビリティ経営だが、一方で欧米を中心に逆風も強まっている。そうした経営を実践するうえで重要なのは、そこで生じる非財務インパクトを適切に測定・評価し、企業価値に結びつけること。本プログラムでは福川裕徳経営管理研究科長の開会挨拶から始まり、サステナビリティ経営の現状の取組をめぐる課題や今後進めていくべき施策について、基調講演とパネルディスカッションが行われた。

画像:足達 英一郎氏

足達 英一郎氏
株式会社日本総合研究所 フェロー

画像:梶 昌隆氏

梶 昌隆氏
味の素株式会社 理事 IR室長

画像:山我 哲平氏

山我 哲平氏
株式会社みずほフィナンシャルグループ サステナビリティ企画部 担当部長

画像:古布 薫氏

古布 薫氏
インベスコ・アセット・マネジメント株式会社 運用本部日本株式運用部ヘッド・オブ・ESG

画像:瀧澤 徳也氏

瀧澤 徳也氏
EYジャパン株式会社 マネージング・パートナー/マーケッツ 兼 EY Japan チーフ・サステナビリティ・オフィサー

画像:早瀬 慶氏

早瀬 慶氏
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 EYパルテノン ストラテジー パートナー

画像:福川 裕徳

福川 裕徳
一橋大学大学院経営管理研究科長

画像:加賀谷 哲之

加賀谷 哲之
一橋大学大学院経営管理研究科教授

第1部:基調講演

基調講演①:非財務情報と企業価値をめぐる研究の潮流

加賀谷 哲之 一橋大学大学院経営管理研究科教授

画像:講演の様子01

加賀谷教授は前提として、環境・社会問題の深刻化、経営の短期志向化、法規制の変化、財務情報の有用性低下などを背景とした、サステナビリティ経営の重要性について改めて強調。一方で、サステナビリティ活動が業績にポジティブインパクトを与えているという因果関係の証明は困難であり、納得感の高いエビデンスが得られていないという課題を挙げ、それが環境・社会問題の解決と稼ぐ力の両立を困難にしていると述べた。

そのうえで、サステナビリティの実現のためには、ESGバックラッシュなどの動向に惑わされることなくステークホルダーの意志を冷静に見極めるべきだとし、ロンドン・ビジネススクールのアレックス・エドマンズ教授が掲げるラショナルサステナビリティ(合理的な持続可能性)というコンセプトを紹介。サステナビリティを局所的な対症療法ではなく経営のコアに充て、自社のパーパスに基づく本質的なサステナビリティ課題に取り組むことなどが重要になってくると述べた。加賀谷教授は多様化する投資家への対応や損益計算書への数字の織り込み方など具体的なプロセスを紹介しながら、企業はコミュニケーションにおいて価値創造ストーリーの解像度を上げていくべきであり、そのためには自社の強みや比較優位性などのマテリアリティを整理して、サステナビリティ経営を実践し得る組織体制や文化を醸成するとともに、サステナビリティに関する意志や知見を共有して浸透させていくことが大切だと結論づけた。

基調講演②:サステナビリティ経営をめぐる金融市場の現状

足達 英一郎氏 株式会社日本総合研究所 フェロー

画像:講演の様子02

足達氏は、近年サステナブルファイナンスが浸透してきた背景として、①地球社会の健全性・持続可能性の喪失による市場リスク(システマティック・リスク)②地球社会の健全性・持続可能性に無頓着な企業による信用リスク(個別リスク)③感度の高い企業がもたらす収益機会の可能性の3点を挙げた。サステナブルファイナンスの現状として、世界的なピークアウトと資金流出が生じているファクトデータを提示し、その要因として実体経済に対する各ステークホルダーの反応の弱さを指摘。他方で、別の観点に立つと、将来的な気象現象の激甚化や社会秩序の混乱が引き起こす物理的なリスクや、環境規制や環境制約に対応する行動が、企業評価を左右するという新しい潮流も生まれてきていると語った。金融セクター側の課題としては、社会を変える野心度を高めていくこと、測定評価でイノベーションを起こすことの必要性を強調。さらに、サステナブルファイナンスと短期志向の投資家を結ぶ施策や、若年層に向けた金融経済教育の可能性などに言及した。

第2部:パネルディスカッション

第2部では加賀谷教授がモデレーターを務め、味の素株式会社の梶昌隆氏、株式会社みずほフィナンシャルグループの山我哲平氏、インベスコ・アセット・マネジメント株式会社の古布薫氏、EYジャパン株式会社の瀧澤徳也氏とディスカッションを行った。

まずはパネリスト4名が、企業担当者、コンサルタント、研究者としての、および金融市場の観点から、サステナビリティ経営の実践と動向についてプレゼンテーションを行った。

画像:講演の様子04

そして、加賀谷教授からは、
◆非財務インパクトと企業価値を結び付けることをどう理解しているか
◆結びつけるにあたって課題となっていることは何か
◆サステナビリティを解像度高く理解してもらうためにどのような取組が必要か
といった議題が提示された。

それに対する意見交換では、サステナビリティや企業価値の定義から始まり、投資家の多様性やファイナンスによるソリューション、非財務インパクトの可視化や情報開示のポイント、トレードオフの課題、企業のパーパスやエンゲージメント、マテリアリティの重要性、人材育成と、多岐にわたる闊達な議論が展開された。

画像:講演の様子05

最後に、非財務インパクトを企業価値に結びつけるにあたっては、各社が長期的に取り組むべき課題を絞り込んで可視化し継続的に取組を進めていくこと、また、大きなネットワークの中で協働して実現していくことが重要であり、社内はもちろん社外のステークホルダーの共感が欠かせないと結論づけた。さらにパネリスト4名が、さまざまなステークホルダーに寄せる期待を述べ、ディスカッションが終了した。

閉会の辞

画像:講演の様子06

最後に登壇したEYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社の早瀬慶氏は、閉会の挨拶として、持続可能な世界をつくっていくことは経営と一体であり、サステナビリティは経営理念や原理原則そのものであると語り、一人ひとりがサステナビリティを自分ごととして捉え、ともにより良い社会・地球をつくっていきたいと結んだ。