「第14回一橋大学関西アカデミア」で議論された関西企業に活気を取り戻すための戦略
2017年夏号vol.55 掲載
今回で14回目となった「一橋大学関西アカデミア」が、2017年2月18日(土)に大阪市の大阪国際会議場で開催された。「関西企業の活性化戦略を考える」と題した今回のシンポジウムは、関西企業の実情を多角的に考察し、議論する場となった。経営史の専門家、経営・組織マネジメントや中小企業政策の研究者、そして多くの関西企業と接点を持つジャーナリストなど、多彩なゲストを迎えたシンポジウムをレポートする。
竹原 信夫
産業情報化新聞社代表取締役・「日本一明るい経済新聞」編集長
本多 哲夫
大阪市立大学大学院経営学研究科教授
延岡 健太郎
商学研究科教授・イノベーション研究センター長
宮本 又郎
大阪大学名誉教授・大阪企業家ミュージアム館長
岡室 博之
経済学研究科教授(現・研究科長)
中野 聡
副学長
民の力で発展を遂げた関西経済の活性化を「民の一橋」のシンポジウムで議論する
前回と同じく、大阪市北区中之島にある大阪国際会議場が会場となった第14回の関西アカデミア。「関西企業の活性化戦略」をテーマとする今回のシンポジウムは、約200人の方々が参加する熱気あふれる議論の場となった。
会の冒頭、開会の挨拶を行ったのは中野聡一橋大学副学長。国立大学でありながら、民間企業に多くの人材を輩出してきた一橋大学は、「民の一橋」という側面を持っている。一方で、関西地域は明治の時代から民の力で発展を遂げてきたため、両者の間には響き合うものがあると語り、今回のシンポジウムで新たな知見が生まれることに大きな期待を寄せた。
その後、今回のシンポジウムで総合司会も務めた岡室博之一橋大学大学院経済学研究科教授(現・研究科長)が問題提起を行った。大阪府の人口推計データを紹介し、東京や名古屋と比べて高齢化がいっそう顕著な大阪は、今後、人口減少が予測されると語った。また、製造業統計でも、1980年からの30年間で事業所数が約半数に減っている点を指摘。在阪企業の多くが本社機能を東京に移管してきた点にも触れながら、関西経済の"地盤沈下"に警鐘を鳴らし、この日の議論から有用なヒントを得たいという考えを述べた。
外部から多様な人材を受け入れてきた大阪企業家の精神から学ぶべきもの
基調講演には、大阪大学名誉教授であり大阪企業家ミュージアムの館長でもある宮本又郎氏が登壇した。歴史家である宮本氏は、江戸時代に繁栄した大阪が、幕末維新の時期に人口が減少し、活力を失った時期があり、江戸中期には5%に達していた人口の全国比率が3%に落ち込んだというデータを紹介した。
その衰退期をどのように乗り越え、大阪が明治期から現代にいたる産業発展を遂げたのか。宮本氏はその歴史を解き明かしたうえで、この都市の企業家たちが持つ精神について特徴を挙げた。一つは、古いものを壊しながら新しいものをつくり出す環境順応力。もう一つは、外部から受け入れた企業家・人材が成功する大阪の商人と街の開放性。宮本氏はマイナス面にも触れ、大量生産・大量販売に向けた商品開発には強みがあった一方、かつてとは異なり近年では文化・学芸・教育を軽視しがちになったのでは、とも指摘して、基調講演を締めくくった。
経営戦略、地域経営、中小企業政策の専門家が参加したパネル・ディスカッション
基調講演に続き、岡室教授が司会を務めたパネル・ディスカッションが行われた。パネリストとして参加したのは、延岡健太郎一橋大学大学院商学研究科教授・イノベーション研究センター長、産業情報化新聞社代表取締役で「日本一明るい経済新聞」の編集長である竹原信夫氏、大阪市立大学大学院経営学研究科の本多哲夫教授、基調講演を行った宮本又郎氏の4人。
延岡教授は、関西企業の衰退が叫ばれる中でも、生産材を取り扱うBtoBの事業を展開する企業が好調を維持している点に着目。それらの企業に共通しているのが、顧客とともに課題解決に取り組める「共創の能力」と「稼ぐ能力」を有している点であるという持論を展開した。共創の能力は、相手の懐に入り込んで心を開いて対話する、多くの関西の人々が持つ「本音で語る」という感覚から生まれるものであり、関西企業の強みになっている。また、稼ぐ能力は顧客に対して大きな付加価値を提供しており、その結果は企業の営業利益率に表れているという。
年間約5000人の中小企業経営者を取材し、活力ある企業の経営手法やユニークなビジネスを紹介している竹原氏は、大阪で成功を収めている企業家に見られる特徴について語った。竹原氏によれば、業種や業態、企業規模にかかわらず、活力のある企業の経営者には共通点があり、それは「あいうえお」で表現できるという。
「"あ"は明るさ、"い"は意志の強さ、"う"は運がいいと思い込むマインド、"え"は縁を大切にする姿勢、"お"は大きな夢。どれも元気な会社の経営者さんが持っているものです」(竹原氏)。本多教授は、地域経営論と中小企業論を専門とするスペシャリストの立場から、大阪市内の区役所と中小企業の協働によるコミュニティ活動を紹介。大正区や港区、平野区、東住吉区、東成区、西淀川区、生野区などで開催されたイベントや企業訪問、工場見学といった活動は、地域の住民が地元企業と触れ合うことで楽しさや親しみやすさを感じられるだけではなく、企業側の活性化にもつながっているとの調査結果を述べた。
その後の質疑応答では、まず司会の岡室教授が各パネリストに質問。延岡教授は、関西企業がなぜ共創の能力を持つのかという質問に対し、関西は、建前社会でなく本当に大事なことを追求する傾向があるとコメント。その大事なこととは、もちろん顧客への対応であり、最も優先されるべきものとして考えられていると答えた。竹原氏は、大阪の経営者が持つ「とんち力」はどのようにして生まれたのかという質問に、大阪にやってきて、ゼロからスタートした経営者たちは、知恵を出すしかなかったと回答した。そうした事例を、メディアも一体となって広めていくことが、関西をもう一度盛り上げるためにも必要なのではないかという意見も加えられた。また、外部からの人材を受け入れる場所や企業活動の場をつくり出すことの重要性についても議論され、最後に、経営感覚が求められる時代に入った大学にとっても多くの示唆を得られたとの中野副学長からの謝辞により、シンポジウムは閉会した。
第14回一橋大学関西アカデミア シンポジウム「関西企業の活性化戦略を考える」
日時 | 2017年2月18日(土) 13:30~17:30 |
---|---|
会場 | 大阪国際会議場 |
主催 | 一橋大学 |
協賛 | 大阪ガス株式会社、オムロン株式会社、関西電力株式会社、 小林製薬株式会社、塩野義製薬株式会社、住友生命保険相互会社、 住友電気工業株式会社、株式会社富士通マーケティング、株式会社村田製作所(順不同) |
プログラム
開会挨拶・大学紹介 | 中野 聡 一橋大学副学長 | |
---|---|---|
総合司会・問題提起 | 岡室 博之 一橋大学大学院経済学研究科教授(現・研究科長) | |
基調講演 | 宮本 又郎 大阪大学名誉教授・大阪企業家ミュージアム館長 | |
質疑応答 | ||
パネル・ディスカッション | パネリスト | 竹原 信夫 産業情報化新聞社代表取締役・「日本一明るい経済新聞」編集長 |
本多 哲夫 大阪市立大学大学院経営学研究科教授 | ||
宮本 又郎 大阪大学名誉教授・大阪企業家ミュージアム館長 | ||
延岡 健太郎 一橋大学大学院商学研究科教授・イノベーション研究センター長 | ||
司会 | 岡室 博之 一橋大学大学院経済学研究科教授(現・研究科長) | |
質疑応答 | ||
閉会挨拶 | 中野 聡 一橋大学副学長 |
(2017年7月 掲載)