創立150周年記念事業 一橋大学と社会をつなぐ講座シリーズ 令和6年度一橋大学アカデミア「日本企業の経営とイノベーション」
2024年12月26日 掲載
2024年10月12日(土)、愛知県名古屋市の栄ガスビルの会場とオンラインのハイブリッドで、令和6年度一橋大学アカデミア「日本企業の経営とイノベーション」が開催された。プログラムは、大月康弘理事・副学長の開会挨拶で始まり、岡室博之大学院経済学研究科教授による趣旨説明のあと、講演が続いた。昨今喧伝されている日本企業の国際競争力の低下やイノベーション能力の低下について、応用経済学と経営学の立場から、精緻なデータ分析と事例研究によって客観的に検証し、日本企業のさらなる発展・成長の可能性についての講演とパネル討論が行われた。
権
赫
旭
氏
日本大学経済学部教授
清水 洋氏
早稲田大学商学学術院教授
大月 康弘
一橋大学理事・副学長
西野 和美
一橋大学副学長
岡室 博之
一橋大学大学院経済学研究科教授
大山 睦
一橋大学大学院経営管理研究科教授
第1部 講演
①権 赫旭 日本大学経済学部教授
「生産性と日本経済」
権教授は、一橋大学経済研究所の深尾京司特命教授、専修大学の金榮愨(キム ヨンガク)教授との共同研究の結果をもとに「生産性と日本経済」について報告を行った。
はじめに、日本・韓国・台湾の1人当たりGDPの推移比較を紹介。日本は、2010年に台湾、2020年に韓国に追い抜かされており、国際通貨基金(IMF)の予測では、2024年以降、日本と台湾・韓国の所得格差の拡大が予想されていると述べた。また、日本経済が長期停滞に陥った原因として、1990年以降の全要素生産性(TFP)上昇の停滞と、2000年以降の資本蓄積の停滞を挙げた。
そして、TFPを決定する要因は、①規模の経済、②新しい企業の参入、③ICT投資/無形資産投資、④自然選択、⑤ビジネス効率性であると説明。それぞれについて、データを用いて日本企業の現状を用いて説明した。
②大山 睦 一橋大学大学院経営管理研究科教授
「マネジメント、生産性、規模拡大」
大山教授は講演の趣旨として「良いマネジメントを考える」(こと)を掲げ、生産管理や人的資源管理を適切に行うことが、本当に企業に良いことをもたらすのかについて、データを用いて確認していくと説明した。
まず、参加者に向けて『事実に基づいた経営―なぜ「当たり前」ができないのか?』(ジェフリー・フェファー /ロバート I.サットン著 東洋経済新報社刊)を参考に、一般に広く信じられているが事実に基づく検証がなされていない経営の手法が数多く存在していることを明らかにし、「良いマネジメント」についてデータで客観的に把握することが大切だと述べた。
続けて、一橋大学が内閣府経済社会総合研究所と協力して行っている組織マネジメントに関する調査について解説を行った。2016年度から2020年度にかけて、製造業、飲食小売業、卸売業、情報通信サービス業、道路貨物運送業、医療業を対象に行った調査の結果、マネジメントスコアと生産性の指標には正の相関関係があることが判明したと報告。生産管理と人的資本管理の仕組みを整えて実行することは、生産性向上と企業成長の鍵になることが証明されたと結論づけた。
③清水 洋 早稲田大学商学学術院教授
「経営資源の流動性とイノベーション」
清水教授は、日米の大企業の年齢と稼ぐ力の推移を表したグラフを表示。アメリカ企業の収益力は、設立してから約50年でピークに達し、その後も大きく低下することはないのに対し、日本企業は約13年でピークに達し、その後は徐々に低下するという違いを浮き彫りにした。
この現象の一因として、日米企業間の新陳代謝の違いを挙げた。アメリカ企業は新しい企業の参入が活発で、収益が低迷すると市場から迅速に撤退する。これに対して、日本企業では長期にわたり株式の持ち合いが行われており、利益率が低くても存続する可能性が高い時期が長い傾向にある。日本企業は長期的な視点で事業を見ているという指摘もあるが、そうであれば100年を超える企業はもっと利益率が上がっていてもよいと述べ、アメリカ企業と日本企業の事例を比較しながら、日本企業のイノベーションについて問題提起をした。すなわち、アメリカ企業は利益が高い分野を深掘りして競争力を維持する一方で、日本企業は利益率が下がっても同様の事業を継続する傾向にあり、経営資源の流動性の低さがイノベーションを阻害していると指摘した。ただし、日本企業が経営資源の流動性を上げると、技術開発の減少や破壊的なイノベーションが多くなるという問題が生じる可能性があるため、これまでの強い雇用保護とのバランスを再考する必要があると述べて講演を締めくくった。
第2部 パネル討論
大山 睦 一橋大学大学院経営管理研究科教授
権 赫旭 日本大学経済学部教授
清水 洋 早稲田大学商学学術院教授
[モデレーター]
岡室 博之 一橋大学大学院経済学研究科教授
日本企業発展の要は、人材の流動性と人的資本への投資
パネル討論では第1部の講演を踏まえ、「日本企業の経営とイノベーション」をテーマに岡室教授が登壇者3名に質問を投げかけ、一人ひとりが見解を述べた。それぞれの質問「日本企業の生産性が低下している要因は何か?」 「企業はどのようにすれば良いマネジメントを行うことができるのか?」「経済社会的ショックを抑えつつ人的資源管理を行うためにはどうすればよいか?」「現在の日本企業の強みと弱みについてどのように考えるか?」「日本企業のイノベーション能力は低下したのか?」「日本企業の今後の発展の鍵はどこにあるか?」に対し、熱い議論が交わされた。
全体の質疑応答・まとめ
続けて、会場やオンラインの参加者から寄せられた多数の質問に登壇者3名が回答した。「ゾンビ企業の撤退促進」「スタートアップ企業の創出」「従業員のモチベーション向上」「ICT投資」などをテーマとした質疑応答を通じて、活発な議論が展開された。岡室教授は最後のまとめとして、経営資源の適切な配分が重要であり、そのための政策的な介入が求められると提言した。
西野副学長から、まずは参加者、登壇者に向けて謝辞が伝えられた。続けて、講演のまとめとして、日本企業の国際競争力の低下と、それに伴う生産性向上の難しさ、企業のマネジメントや資源・人的流動性に関する議論がなされ、日本企業が抱える課題が再び浮き彫りになったと話した。
最後に、尽力いただいた如水会への感謝と、今後も一橋大学アカデミアの活動が継続されることに言及し、2025年度に開催される一橋大学創立150周年記念イベントへの参加を呼びかけ、本講演を締めくくった。
プログラム
開会挨拶
大月 康弘 一橋大学理事・副学長
趣旨説明
岡室 博之 一橋大学大学院経済学研究科教授
第1部 講演
権 赫旭 日本大学経済学部教授
大山 睦 一橋大学大学院経営管理研究科教授
清水 洋 早稲田大学商学学術院教授
第2部 パネル討論
大山 睦 一橋大学大学院経営管理研究科教授
権 赫旭 日本大学経済学部教授
清水 洋 早稲田大学商学学術院教授
モデレーター
岡室 博之 一橋大学大学院経済学研究科教授
全体の質疑応答・まとめ
閉会挨拶
西野 和美 一橋大学副学長