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2021年度一橋大学関西・中部合同アカデミア シンポジウム「地政学的リスクとESG投資:米中の戦略的競争の狭間で」

2022年7月1日 掲載

気候変動・再生可能エネルギーや人権、ガバナンスなどが投資判断の重要な要素として注目されるようになる一方、それらは米中関係を中心とした戦略的関係の中心的テーマとして浮上してきている。企業から見ると、米国、中国とも重要な市場でのビジネスの機会をどう捉えるかは大きなテーマだ。また、両国が戦略的に対立するなかで、ESG(環境・社会・ガバナンス)の原則を組み入れた投資は、収益創出の新たな機会であると同時に、「経済安全保障」に象徴されるように地政学的リスクへの対処という側面に注意を払う必要性も喚起する。そこで、本アカデミアでは、日本企業はどのように行動すればよいのか、また日本にとってのチャンスと危機とは何かについて、国際政治や国際金融、日本産業界の視点から議論を行った。

画像:秋田 浩之氏氏

秋田 浩之氏
日本経済新聞社本社コメンテーター

画像:本田 桂子氏

本田 桂子氏
コロンビア大学国際公共政策大学院客員教授、多数国間投資保証機関(MIGA)元長官

画像:和田 照子氏

和田 照子氏
一般社団法人日本経済団体連合会国際経済本部長

画像:秋山 信将氏

秋山 信将
一橋大学大学院法学研究科、国際・公共政策大学院教授

※役職は取材時点のものとなります。

モデレーターを務めた秋山教授の司会挨拶の後、一橋大学理事・副学長の大月康弘教授が「多くの方に事前参加登録をいただいた段階で成功と受け止めている」と参加者へ感謝の意を表し、開会挨拶を行った。

続いて、「国際投資環境の新たなトレンドとしてのESGと米中対立:日本にとってのリスクと機会」と題して、パネル・ディスカッションの第1部に入った。

ESGの概念や背景とは

秋山教授が上掲の本テーマについて述べたうえで、各パネラーにテーマを設けてコメントを求めた。まず、本田氏にはESGの概念や背景について尋ねた。
本田氏は、SDGs(持続可能な開発目標)やその前に制定されたMDGs(ミレニアム開発目標)の実現には財源が必要であるが、国連はMDGsが制定された2000年にはFDI(海外直接投資)がODA(政府開発援助)の2倍に達していることに着目。「財源確保を民間の力に頼るべく主要な機関投資家や金融機関に向け、2004年にESG投資を呼びかけたことが発端となった」と説明。一方、国連は、民間金融機関との議論の中で、投資家にもミッションがあり、MDGs達成を目的として一部の資金をまわしてもらうことが不可能なこと、また、ESGといった非財務ファクターが企業価値算定や投資判断に反映されていないことを理解して、ESGといった非財務ファクターが企業価値にどう影響するかをふまえて投資判断をするというESG投資を提唱した。その後なかなか進展しなかったものの、気候変動問題がクローズアップされるようになると、世界最大級の資産運用会社のブラックロックが国連の提言に呼応し、世界の投資家はESGのリスクや将来の事業機会を勘案して投資を行う流れができたと解説した。しかしながらまだ不明確とされるESG投資の定義について、本田氏は「ESGのリスクと将来の事業機会を投資判断に織り込むとともに、投資先とのエンゲージメントを通じて企業価値を高めるもの」と自身の解釈を述べた。

大国間の戦略的競争の状況

次に、秋山教授は秋田氏に大国間の戦略的競争の状況について尋ねた。
秋田氏は「国家間は分断の動きが強まっている」と指摘。枢軸国と連合国が分断して第二次世界大戦が起きた。大戦後、今度は共産圏と自由主義国との分断が続き、1989年のベルリンの壁崩壊で世界は一旦、一つになったようにみえた。しかし、十数年で再び分断。「世界は分断がノーマルな状態」と言及した。そのうえで、現在ロシアは欧州方面だけでなく極東においても米国に対抗すべく軍事拡張をしており、日本にも影響が及ぶ可能性を説明。一方の米中においては、ハイテクや海洋の覇権争いから、互いに信用できず生理的に拒否するレベルにまで対立は高まった、と指摘。その原因の一つとして、中国・武漢から広がった新型コロナウイルス感染症により米国に多大な損害が広がっていることを挙げた。

グローバルトレンドに対する経済界や企業の見方

次に、秋山教授は和田氏に、本田氏と秋田氏が話したようなグローバルトレンドについて、経済界や企業はどう見ているのかについて尋ねた。
和田氏は、「企業活動は引き続きグローバルに展開されながらも、両氏が説明したような状況に直面し、体が引き裂かれるような難しい舵取りを強いられているのではないか」と所感を述べた。また、経団連は1991年に「経団連企業行動憲章」を制定して以来、企業に責任ある行動を要求。最近はSDGsの達成に向け"Society 5.0 for SDGs"を掲げるなど、先端技術による社会課題の解決を求めていると説明。「ESG投資への目線だけでなく、従業員や顧客、地域社会などさまざまなステークホルダーの期待に応えるべく企業の意識も進化している」と話した。米中関係については、「いずれの市場も企業にとっては最重要であり、きめ細かい目配りがなされている」と言及。経済安全保障については、日本の脆弱性を克服しようとする国の動きに呼応し、企業としても早急に動くべきとの問題意識が共有されているが、「経済団体としてどう取り組むべきか悩んでいる」と話した。

"パーシャル・デカップリング"が進む

次に、秋山教授はこうした新たな潮流が国や企業の行動にどのような変化をもたらすかについて質問した。
本田氏は、2015年には、MDGsが未達成であったにもかかわらず、国連はさらに分野を増やし目標値も高めたSDGsを批准し、民間も巻き込み、かつ、同年には「パリ協定」も採択され「これほどの動きが起こることに感銘を受けた」がその後は衰退。近年の分断化の動きに対しては、北朝鮮を含む193か国が加盟している国連があり、「是々非々で議論していくことが現実的」との認識を示した。
ここで秋山教授は、視聴者からの質問を取り上げ、米中分断と言いつつ投資額や貿易高は過去最高となっている状況をどう見るか、また米中間のガバナンスモデルの競争についても含めた議論を秋田氏に求めた。
秋田氏は、まず「世界で協力すべき脱炭素化も、太陽光パネルやリチウム電池など(の経済安全保障)を巡って米中対立を強めるリスクがある」と指摘。そのうえで、バイデン大統領が発表した「インド太平洋戦略」における米中の共存的競争関係を引き合いに、「強く結びついている経済関係が断絶することはないだろう」と言及した。一方、ガバナンスは「米中は互いの性質が信用できないと言っているに等しいので、人格が変わらなければ仲直りできない人間同士のようなもの」と指摘。したがって、経済の"パーシャル・デカップリング"が進むとの見解を示した。
次に、秋山教授は和田氏に、企業にもたらしている変化について、さらに敷衍(ふえん)しての説明を求めた。
和田氏は、「SDGsや国家間分断の諸問題はサプライチェーンに凝縮されて現れる」と指摘。温室効果ガス排出量削減や、人権への配慮、経済安全保障といった諸問題をすべて踏まえたサプライチェーンの再構築が企業において課題となっていることを説明した。

リスクの見極め自体がリスクに

以上の話を受け、秋山教授は「米国と中国は異なったルールやガバナンスを持つなか、企業は二つの異なる社会のOSに適合した組織運用が迫られているのではないか」との所感を述べ、第1部の最後として新たな国際環境におけるリスクと機会についての意見を求めた。
本田氏は、軍事リスクのエスカレートや、イデオロギーを超越したはずのビジネスがどこかで動かなくなること、特にグローバルで一体化した金融市場の国力による強弱といったリスクを指摘したうえで、「いろいろな国との関わりのなかで成功してきた中国は簡単にサプライチェーンを切ったりせず、イデオロギーの多様性も受け容れられるのではないか」との考察を示した。
秋山教授は、エネルギー輸出国であるロシアからの供給リスクに言及。次にコメントを求められた秋田氏は、「このデカップリングがどこまで進むかは分からない」と発言。「デカップリングは政策ではなく生理的な拒否反応から始まっているので、嫌いな人をどこまで嫌いになるかは本人に聞いても分からないのと同じだ」と例えた。また、ある米国のIT企業経営者に質問したところ「あらゆるシナリオにフレキシブルに対応するしかない」と回答されたことを披露した。
和田氏は「私もリスクの見極め自体が難しくなっていることがリスクと考えている」とコメント。秋山教授の「二つの異なるOS」とのコメントに対し、「共通するOSの領域はたくさん残されており、そこを機会とすべくインテリジェンスを高める必要がある」と指摘。日本企業が中国市場進出に躊躇するなか、「欧米企業がどんどん展開し、日本企業には"やらないリスク"が大きい」と話した。これを克服するためには、インテリジェンス能力とあらゆるリスクに備えた選択肢を戦略的に用意する必要があると言及。さらに、「OSの設計に日本がどう関わるかを意識すべき」とも指摘した。

続いて「日本および日本企業の選択」をテーマに第2部に入った。

日本にとって最悪なシナリオ

秋山教授は、「第2部は日本国や経済界は何をすべきかに絞って議論を進めたい」と発言し、まず秋田氏にコメントを求めた。
秋田氏は、「日本にとって最悪なシナリオは、米国主導の経済通商圏が弱まり、アジア太平洋が中国主導の経済圏に移っていくことだ」と指摘。「中国市場に依存した企業が利益を上げることは良いとしても、対豪州のように経済依存を逆手に取って要求をエスカレートさせる中国のやり口には不安がある」と話した。その中国は米国が抜けたTPP(環太平洋パートナーシップ)への加盟を申請しており、米国内の分断が自由貿易を否定している現状を踏まえて、日本は米国をアジア太平洋に引き留め、この地域の経済秩序を赤く染めないように手を尽くすことが大切だと言及した。
この話を受け、秋山教授は「フォロワーの国々にとって、中国が提示するモデルは安直であっても政府がコントロールしやすく採用しやすいものになっているのではないか。日本は欧米と組んで対抗していくモデルを提示しフォロワーを引き付けていくチャレンジが必要」とコメントした。

経済のレジリエンス強化と経済安全保障

和田氏は、「企業が持続可能であるためには、人口が減少し縮小している日本市場から海外市場に広げること、国際社会に求められる製品・サービスの開発においては品質だけでなくSDGsなど社会課題の解決につなげる付加価値が必要なこと、さらに競争力を高めるには国際標準づくりへの参画が求められる」と指摘。「国も企業も国際標準づくりにおける存在感はトップレベルではない。これをどう高めるかが課題」と言及した。
本田氏は、「この150年は歴史上最も世界経済が成長した時期に当たるが今後、日・韓・中・イタリア・ポルトガルをはじめ人口減少国が続出するなか、従来のような成長は期待できない」と話し、「成長することで覆われていた問題が露呈してくる」と推論。また、世界的なルールづくりで日本が主導権を取ることで有利になるとの論調に対し、「そんな甘いものではない。ルールづくりを主導するヨーロッパ諸国は大変な思いをして行っている。日本にそれができるかが試されている」と指摘した。
秋山教授は、和田氏と本田氏の指摘を確認したうえで、日本における経済のレジリエンス強化や経済安全保障などの政策づくりについて秋田氏に尋ねた。
秋田氏は、「日本の経済安全保障政策は多少のエマージングテクノロジーへの投資という攻めの要素もあるものの、大半は重要な技術や情報が流出しないための守りの施策に終始している」と説明。また、「米国や他国と組んでTPPを構成し、国際ルールに中国を従わせるシナリオが完全に崩壊し、次善の策として二国間交渉に移行し経済安全保障もQUADやEUに広げる枠組みづくりに動いている」と解説した。そのうえで「米国内で自由貿易がNGワードとなっているなか、ASEANや中東、アフリカにとって自由貿易抜きの枠組みにメリットがないことは明白で、(対中国を意識した場合に)大きな難題がある」と指摘した。

専門能力や語学力を備えた人材育成の必要性

秋山教授は、秋田氏の話に「米国内が分断しているなかで国際社会とエンゲージメントを深めるのは難しく、日本の思惑にも乗ってこないだろうと悲観的にならざるを得ない」と応じた。しかし、そのなかでも企業は競争に勝ち残るために、社会課題の解決やルールメーキングに関わる必要性はあるとして、和田氏に、日本企業の取り組みやルールづくりへの意識について発言を求めた。
和田氏は、SDGsのナンバーに則した取り組みを公表している企業が増えている現状を鑑み「地に足をつけた取り組みが進んでいると感じる」とコメント。ルールづくりへの参画については、「企業内に経験の蓄積がなく、経済界としても考えあぐねているのが現状」と話した。
秋山教授は、日本が先端技術を持っていてもイニシアチブを取れないことへの疑問を述べたうえで、本田氏にコメントを求めた。
本田氏は、アップル社に部品を供給している日本企業が数多くあることから「こうした勝ち馬に乗っていくことを続けていくのは一つの戦略」とコメント。日本市場が縮小し、ルールづくりでの主導権を取るための後押しが効かなくなっていることを指摘。また、国際組織で有効に振る舞える専門能力や語学力を備えた人材育成の必要性や、それによるインテリジェンス能力の向上といった課題を挙げた。
この指摘を受け、秋山教授は「大学人として耳の痛い話」とコメント。また、「外務省に出向した際にインテリジェンスやスペシャリストの重要性を感じた」と話した。加えて、日本発の先端技術が世界標準を取れてこなかったことに関し、国や企業が原因を分析し対応策を講じる必要性に言及した。

多角的な情報収集の必要性

続いて秋山教授は、それぞれのコメントへの感想など自由な発言を求めた。
秋田氏は、中国市場から撤退できないと考えている欧米企業が圧倒的に多いことから「困っているのは欧米企業も同じ」とコメント。そのうえで、「日本企業だけが過剰反応して中国市場を失うことや、その逆に中国に依存しすぎてケガをすることを防ぐためにも欧米企業と密な意見交換が不可欠」と指摘。ジャーナリストとして、豪州やシンガポール、インドなどの識者の話が非常に参考になると自身の経験に照らして多角的な情報収集の必要性に言及した。
秋山教授は、日本のアパレルチェーン大手が米国の税関で輸入差し止めを受けた措置につき、同社はサプライチェーンにおけるデューデリジェンスなどを行ったうえでウイグルとの関わりを否定していたものの、米国に認められなかったことに言及。「米国の恣意的な部分も含め、デューデリジェンスやインテリジェンスをどこまで広げるかはコスト負担を含め大きな問題であるが、やっていくしかないのか」と和田氏に意見を求めた。
和田氏は、「やっていくしかないし、各社ともできる範囲で取り組んでいる」としたうえで、「国際機関など第三者の調査機関を使い、問題をクリアしていることを説明することが有効」と話した。経済産業省がILO(国際労働機関)を通じて人権リスク調査を行うことを公表するといった動きにも言及した。
秋山教授は、和田氏の話を受け、SDGsと地政学的リスクのインターセクション的な国際的第三者機関の意義について本田氏に話を向けた。
本田氏は、ESGの探求はサプライチェーンの先端まで届いているとしたうえで、企業がどこまでやるかは世の中の平均相場的なレベルと、顧客や特定国の市場が求めるレベルという二つのレベルがあると考察。したがって、「ILOがお墨付きを与えたからと言ってステークホルダーが認めるかは別問題」と指摘。加えて、「企業は顧客の求めるものやリスクについての情報を収集し、企業体力などによっては、リスクヘッジできない領域や市場は諦めるという選択も必要」と言及した。

情報の等価交換原則

次に、秋山教授は視聴者からの質問を取り上げ、秋田氏に日本はインテリジェンスをどう強化すべきかを尋ねた。
秋田氏は、「国家間のインテリジェンス協力には、情報の等価交換原則がある」としたうえで、「日本は欧米諸国には収集しにくい中国や北朝鮮といった漢字文化圏の機微な情報を優位に集めるなどして、対等のポジションをつくる必要がある」と指摘した。
秋山教授は、「国も企業も同様に『ここと付き合う必要性がある』と思わせることが肝要」と応じた。
和田氏は、「経団連が欧米企業との意見交換の場をつくってはいるものの、そこでは表層的な議論にとどまり、真の突っ込んだ情報は相対関係でなければ得られない」と指摘。「機微な技術の情報交換サークルにも、自社が該当する技術を保有していなければ加わることは難しい」とコメントした。
秋山教授は、「日本の経済安全保障政策に欠けているのは日本の競争力向上の視点」と指摘。「先端技術への投資や大学の資金といったところにエッジの利いた施策が必要」と所感を述べた。

日本人のコミュニケーション特性

次に秋山教授は、「コロナ禍となって広まったオンラインコミュニケーションやデジタル化への取り組みについて、日本は取り残されるのではないか」との視聴者の指摘を本田氏に振った。
本田氏は、「日本のオンラインコミュニケーションが遅れているかどうかの知見はない」と断ったうえで、「オンラインでは特定事項のやり取りに限定する傾向があり、食事やゴルフを共にしながら広く情報交換する日本人の強みは活かせないだろう」と指摘。また、そうしたオンラインコミュニケーションにおいて、秋田氏が指摘した情報の等価交換原則が個人間でも生じているとすれば、個人に特定の情報が蓄積する仕組みを考える必要があると言及した。また、日本がコロナ禍での"鎖国"を解いたことにつき、「日本人のコミュニケーション特性からも開国は必要」と言及した。
秋山教授は、「日本の鎖国は大きな損害をもたらす」と指摘し、続けて「リスクを把握する情報を丹念に拾い集める、オープンソースとしてのインテリジェンスの蓄積が重要」とコメントした。福島原発事故の調査に携わった際、リスクを認識する人がいても対応できなかったことを引き合いに、「情報を謙虚に扱うことを考え直す必要がある」と話した。

中国に対する負のイメージ

次に秋山教授は、高校生視聴者からの「日本で中国に対する負のイメージが高まっているのはなぜか」との質問を取り上げた。民主主義をベースとしたポジションの重要性という見方があるなかで中国に対する負の印象がある一方、若年層はニュートラルな見方をしていることを秋田氏に質問した。
秋田氏は、「国家体制と国民を分けて考えている」と回答。「中国の現状変更への動きや人権問題などネガティブな動きは共産党体制によるもので、批判の対象にする一方、個人としての中国人は分けて考えている」と話した。「中国に4年間住み、中国人には懐が広く、素晴らしい人々がたくさんいることも知っている」と付言した。
次に秋山教授は、企業がポリティカルリスクを取るうえでの貿易保険機関などの期待値についての視聴者からの質問を、本田氏や和田氏に投げかけた。
本田氏は、「戦争や内乱、政府の契約不履行(含む政府による支払い)などをカバーする仕組みはあるが、レピュテーションリスクまではカバーしておらず、サプライチェーンの人権リスクなどは別問題」と指摘。和田氏は、日本が投資協定を結んでいる国に対しての紛争解決手段の存在に触れ、国として当該国を拡大していく意義について言及した。

自律性が日本全体に通じる問題

最後の質問として、秋山教授は「未来のリーダーを育てるうえで、よりアグレッシブな学びのために教える側が志すべきものとは?」と本田氏に投げかけた。
本田氏は「素晴らしい質問」と前置きし、「残念ながら50代より30代、30代より10代が生活していくことに厳しくなる時代であることを理解し、生き延びる術として会社などに依存することなく自らの人生を切り拓くことを一人ひとりが考えられる教育を自分も受けたかった」とコメントした。
最後に秋山教授は、「本田氏が指摘した自律性は日本全体に通じる問題」と指摘。「インテリジェンスも、企業のイノベーションもすべてに自律性が問われている。地政学的変動のなか、生き延びるためにはそれぞれが自律的に考え、丹念に情報を集める必要がある。そうして進める外交は投資と同じで、長期的な積み重ねのうえでリターンを得るもの。こうしたレスポンシビリティが問われているのではないか」とまとめ、本セッションを終了した。

画像:オンライン議論の様子

概要

日時

2022年2月12日(土)12:00〜14:00

開催方法

オンラインによるセミナーとして開催

プログラム

司会挨拶

秋山信将 一橋大学大学院法学研究科、国際・公共政策大学院教授

開会挨拶

大月康弘 一橋大学理事・副学長

パネル・ディスカッション

第1部 国際投資環境の新たなトレンドとしてのESGと米中対立:日本にとってのリスクと機会
第2部 日本及び日本企業の選択

パネリスト

秋田浩之氏(日本経済新聞社本社コメンテーター)
本田桂子氏(コロンビア大学国際公共政策大学院客員教授、多数国間投資保証機関(MIGA)元長官)
和田照子氏(一般社団法人日本経済団体連合会国際経済本部長)

モデレーター

秋山信将