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データ・デザイン・プログラムによる「新しい学び」のチャレンジ

  • 経営管理研究科・商学部教授鷲田 祐一
  • 経営管理研究科・商学部教授島貫 智行

2021年12月22日 掲載

2021年度から設置されたデータ・デザイン・プログラム(DDP)。厳正な審査に合格した一期生31名とともに活発な活動を開始している。開始から約半年が経過し、いくつかの成果が見えてきた。プログラム責任者の経営管理研究科・商学部の鷲田祐一教授と副責任者の島貫智行教授が、DDPの現在位置について対談した。

画像:2019年度 HFLP-Aコースの講義風景

データ・デザイン・プログラム 鷲田教授(左)、島貫教授(右)

学生たちが常駐できる専用教室の設置

画像:伊藤邦雄一橋大学名誉教授

教室の壁にホワイトボードを設置。
学生は自由に動き回り、意見を出し合うことで、
授業が活性化される

島貫:DDPが実際に始まってみて、最大の特徴はどのようなものでしょうか。

鷲田:何よりも目に見える最大の特徴は、国立東キャンパスのマーキュリータワー5階に設置したDDP専用教室だと思います。通称「DDPスタジオ1」と命名したこの部屋は、両側面の壁をすべて巨大なホワイトボードとして自由に文字や絵を書けるようにしました。さらに、丸みを帯びたデザインの自由に配置できる机を多数導入し、学生たちが自由な席配置で学習できる環境をつくりました。しかもこのDDPスタジオ1には、DDP生31名がいつでも入退室できるカードキーシステムを導入し、DDP以外の一般講義などには使用しない設定にしましたので、DDP生は授業がない時間でも気軽にやって来て好きなだけ学習に打ち込めるようになっています。カーペットやカーテンなども明るい雰囲気のデザインに変更しました。また、31名全員に、ちょっとした私物を保管しておける小さなロッカーも設置しました。

島貫:理系大学の研究・実験室のような運用をしているわけですね。その教育的な効果はどのようなものでしょうか。

鷲田:一期生は2020年度入学生であり、ちょうどコロナ禍のためにほとんどの講義がリモート授業になってしまうという1年を過ごした学年です。入学以来ほとんど新しい友人が作れなかったという学生もいます。2021年度に入り、本学は少しでも対面での講義機会を増やそうと全学的に努力を重ねていますが、それでも何か具体的なきっかけがないと学生同士が交流する機会は急には増えないものです。そんな彼らにとって、この常駐型のDDPスタジオ1は、まさに学生同士がリアルに交流できるとても良い機会を提供しているように思います。また、私たち教員と学生の交流という意味でも、気軽に立ち寄って議論したり打ち合わせしたりできる環境があることで非常に大きな効果が出ていると思います。昨年度はパソコンの画面を通じてでしかコミュニケーションできなかった学友や教員と、リアルかつ身近に接することができることのメリットを、教員も学生も再確認しているところです。

島貫:学生たちの利用状況はいかがですか。

鷲田:講義がない日でも、だいたい毎日誰かがいて、1人で、あるいはグループで学習している姿をよく見ます。当初想定していた通りの利用状況が実現できていると思っています。またDDPは四学部横断型のプロジェクトなので商学部生だけではなく、経済学部と社会学部の学生も在籍しています。他学部の講義を履修している学生にとっては、まさに学部を横断して一緒に予習復習をするのにちょうど良い環境のようです。

情報とデザインをつなぐ Project Based Learning

画像:伊藤邦雄一橋大学名誉教授

企業とのコラボレーションでPBLを実践する。
授業は学生主導で行われる。

島貫:講義の内容については、どのような特徴がありますか。

鷲田:DDP一期生はすでに今年度までに、「AI入門」「データ・統計基礎」「プログラミング実践」「情報科学基礎」という4つの講義を受講しています。これらによって、RやPythonなどでの簡単なプログラミングを経験し、かつ社会を支えている各種情報システムの基礎的な仕組みを理解したと思います。そして秋冬学期には「2年次ワークショップ」という演習型の講義も開始しました。「2年次ワークショップ」では、株式会社日本総合研究所と株式会社博報堂DYメディアパートナーズ、そして多摩市役所から具体的な課題を提供してもらって、チームに分かれて、それぞれの課題を解決するための調査分析やアイデア開発に取り組んでいます。いわゆるPBL(Project Based Learning)ですね。また11月に開催された一橋祭に出品するために、学生たちがストーリーと絵コンテをつくって「未来シナリオ -自由な学びを叶える大学の姿-」というショートウェブアニメの作成と、3Dプリンタで一橋大学の校舎や三角屋根の旧国立駅舎の模型を作成したりしました。

島貫:企業や地方自治体からのプロジェクトは具体的にはどのような内容ですか。

鷲田:まず株式会社日本総合研究所から提案していただいた課題は、17種類あるSDGs(Sustainable Development Goals)に関する意識・行動の中で、10年後の日本の生活者の中で、しっかりと定着するものはどれか、逆になかなか定着しないものはどれか、を予測するためのモデルをつくりたい、というものです。これに取り組むために、学生たちは国勢調査や全国消費実態調査などの国の統計調査と、学生たちが独自に作成するSDGs意識・行動調査を組み合わせて、今後の意識・行動の変化を予測するモデルの構築にチャレンジしています。次に株式会社博報堂DYメディアパートナーズからは、サブスクリプション型動画配信サービスの市場予測をするためのモデルを試作したいという課題をいただきました。そこで学生たち自身のメディア接触・利用実態とサブスクリプション型動画配信サービスの利用実態について日記型の詳細な調査を実施し、その結果をもとにコンテンツがヒットする予兆になるような情報を突き止めることにチャレンジしています。うまく予兆が見つけられればモデル化につながると思っています。多摩市役所からは、本年度に市制施行50周年を迎えた同市の未来シナリオを一緒につくりたいという課題をいただきました。そこで市の職員の皆さんと学生たちで、一緒に未来シナリオづくりのワークショップを実施しました。現在、その結果をもとに、行政施策のヒントになるたくさんのアイデアを考案しているところです。

島貫:実際の社会課題を解決するプロジェクトに参加することを通じて、情報技術とデザインをつなぐ体験ができているようですね。

2022年度は、まさに正念場になる

島貫:2022年1月には二期生の選考が実施されますね。新たに30名の新2年生を迎えると、2022年度にDDP生は61名になります。さらにその翌年も約30名が追加されて、最終的には約90名の大所帯になる予定です。2022年度にはどのようなチャレンジを予定していますか。

鷲田:2022年度までには、同じくマーキュリータワーに「DDPスタジオ2」を、2023年度にはさらに「DDPスタジオ3」を設置予定です。3Dプリンタも簡易なものではありますがすでに3台が稼働しています。今後もいろいろな面白い機器や什器の導入にチャレンジしたいと思っています。大学の4年間でしか体験できない学習環境を提供できるように努力していきます。

画像:伊藤邦雄一橋大学名誉教授

スタジオには、3Dプリンタや
最先端のIoTディバイスが設置されている

島貫:講義内容はどのように展開していく予定ですか。

鷲田:2022年度には3年生になる一期生は、さらに「デザインの基本」「メディア&サービスデザイン」「デザイン思考とデザイン経営」「特別講義(社会課題の解決)」という4つのDDP講義が受講可能になります。これらの講義は、通常の選択科目としてDDP生以外にも広く開放されており、実は「特別講義(社会課題の解決)」を除き、2021年度から開講開始しております。いずれの講義も人気が高く、多くの学生が履修しています。

島貫:一期生はこれらの講義を受講することで、DDPが意図したすべての知識体系を学ぶことになりますね。今までの本学の講義にはあまりなかったような内容が多いですね。

鷲田:そうですね。特に「デザインの基本」は、多摩美術大学の永井一史教授をアンカーパーソン(非常勤講師)として迎え、多摩美術大学で実施されているデザインに関する基礎的な教育のエッセンスを本学の学生にも教えるというユニークなものです。また「デザイン思考とデザイン経営」の講義では、デザインという要素を、単に色や形という概念を超えてどのように企業経営に活かしていくのかというテーマを考えていく内容です。従前から、本学では理論と実践の間を行ったり来たりすることで実学を身につけていくということを特徴にしてきましたが、個人的には、それでもどうしても、学生たちの多くが、いわゆる分析思考に偏りがちな傾向が強まってきているように思っています。「優秀である」「社会に役立つ」とはつまり「分析思考的である」というような考えですね。たしかにそれは間違ってはいないのですが、それだけではなかなか創造性が発揮されないという別の問題も発生します。そのような新たな問題にも果敢にチャレンジする姿勢を持った学生が育つことを願っています。

島貫:イノベーションを実現するためには、科学的な分析で得られた知見を自分なりの視点で組み立て直して新しい社会モデルを創造する、という姿勢が不可欠ですね。一期生が3年生になると、本学の教育の最大の特徴である後期ゼミへの所属も開始されます。DDP生がどのような後期ゼミに所属するのかは現時点ではまだ分かりませんが、後期ゼミの先生のもとでの深い学習と、DDPでの新しい学習がどのような相乗効果を発揮するのかも楽しみですね。2022年度はDDPにとって正念場になりそうですね。

鷲田:まさにその点が非常に重要だと思います。学生の視点に立って負担にならないように配慮しつつも、この1年で発揮してくれたような強い知的好奇心を、引き続き3年生になっても発揮してほしいですね。従来の経営学・経済学・社会学などの各学問領域にも、情報とデザインの力で新しい視点をどんどん持ち込んでくれるような活躍を期待しています。