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HIAS Healthによる第3回「医療経済短期集中コース」が提示した大学の役割

  • 医療政策・経済研究センター(HIAS Health)センター長佐藤 主光
  • 経営管理研究科荒井 耕

2021年3月5日 掲載

社会連携プログラム「医療経済短期集中コース EBPMで考える医療経済」

2020年11月下旬、大学院経済学研究科及び社会科学高等研究院 医療政策・経済研究センター(以下、HIAS Health)の社会連携プログラム・第3回「医療経済短期集中コース EBPMで考える医療経済」がオンラインで開催された。本コースは、エビデンスを重視する経済学を含む社会科学の知見から医療・介護の政策・実務の現場に貢献することを目的として、社会人を対象に、週末2回(11月20〜22日及び28・29日)にわたり集中的に実施する高度職業人専門プログラム(リカレント教育プログラム)である。

講義では「科学的な根拠に基づいた政策立案(EBPM:Evidence-based Policy Making)」を軸に、データに基づいた医療・介護に関わる政策・経営の実態把握と分析、効率化に向けた手法等を紹介。座学(基調講演・講義)のほか、演習・グループワークといったアクティブ・ラーニングを通じて、内容への理解を高めるとともに自治体や医療関係者など、異なるバックグラウンドの参加者間の交流・関係構築を促して、政策立案と現場の連携につなげる契機とすることが主目的である。

HQでは、実際のプログラム内容や参加者の反応、開催後の手応えなどについて、HIAS Healthセンター長の佐藤主光教授(経済学研究科)と、「医療機関の管理会計」について講義・演習を担当したHIAS Health研究員の荒井耕教授(経営管理研究科)にお話を伺った。

オンラインで参加する受講者の写真

オンラインで参加する受講者の様子

受講生によるグループワーク報告の写真

受講生によるグループワーク報告

コロナ禍において医療を取りまく多様なステークホルダーが参加

佐藤主光教授の写真

医療政策・経済研究センター(HIAS Health)センター長
佐藤主光教授

医療経済短期集中コースは、「社会に対して成果を発信する」というHIAS Health設立時のミッションを具現化するものとして企画された。これまでに3回実施されているが、佐藤センター長によれば、「参加者として想定しているターゲットには3つの層がある」という。

「事務職員の方を含めた病院関係の方。製薬会社の方。そして地域医療構想などに取り組まれている自治体の方。実際に開催してみて、3回ともそれぞれの層からバランスよく参加していただいています」(佐藤センター長)

3回目となる2020年度は、コロナ禍という状況のためオンラインによる開催となったが、参加者についてはさらに裾野が広がり、医療を取りまく多様なステークホルダーが集まった。

「今回は、病院関係の方がおよそ1/4で、県庁・市役所などの自治体の方、製薬会社や医療機器メーカーなどの関係者、さらには健康保険組合・看護協会の方など、多種多様な分野の方々に集まっていただきました。医療関係の講座としては、非常に珍しいケースではないかと思います」(荒井教授)

時代環境の中で重要性が高まった、医療機関の管理会計

荒井 耕教授の写真

経営管理研究科 荒井耕教授

第3回の医療経済短期集中コースでは、グループワークのテーマが3つ設けられた。「医療保健政策の政策評価」及び「費用効果分析」の2テーマでは、表計算ソフトを用いた実技が行われ、荒井教授が担当した「医療機関の管理会計」ではバランスト・スコアカード(BSC)の導入・活用についてグループワークが行われた。荒井教授は、参加した方々の反応から、この時代環境の中でいかに管理会計が必要かという認識が広まったという手応えを感じたそうだ。

「医療業界は、BSCを十分に活用しきれていないという現状があります。特に個々の医療機関においては、数値目標について『年度で少し変える程度』という認識にとどまっていたのではないかと。しかし、コロナ禍に象徴されるように経営環境が大きく変化する中、最初から戦略を分析し直し、BSCに反映させていく必要があるのだ、ということを今回のコースで感じていただけたようです」(荒井教授)

医療機関の関係者は、自らの組織を非営利ととらえ「管理会計は必要ない」と考える傾向にある。だからこそこの短期集中コースでは、「管理会計の必要性を認識してもらうことに注力した」と荒井教授は語る。

国・自治体・個々の医療機関各レベルでの意思決定に貢献する

また、今回の短期集中コースを経て、医療経済について大学が果たす役割は、「研究・教育の双方にまたがっていることが改めて分かった」と荒井教授は語る。国家または医療圏レベル(県や市町村などの自治体)の医療提供体制を構築する政策担当者及び個々の医療機関の経営者が意思決定を行う際に、大学が果たす役割は大きい。

「政策担当者がどのような医療提供体制を敷くか、経営者が自らの医療機関をいかに有効に機能させるか、それぞれに何らかの意思決定が必要となります。その際の根拠を提供することが、研究面における大学の役割と言えるでしょう。現状では、個々の医療サービスの価格を設定する際の基準を、国は把握していません。その結果、収益が見込めないサービスは回避しようという判断を、個々の医療機関が行いがちです。この状況を是正するには、医療サービスのコスト情報や診療科ごとの採算情報を、国が把握しなければならない。そこで国のための原価計算の仕組を、我々大学の研究者が提供していく必要があるのです。

また、国家・医療圏・個々の医療機関を問わず、意思決定担当者の教育研修を行うことも、大学に求められている役割と考えています。適切な管理会計を構築し、運用するには、そもそも管理会計を深く理解しなければなりません。その機会を提供するという意味では、今回の短期集中コースもその一端を担っているのです」(荒井教授)

人生100年時代、社会人の知識のアップデートに欠かせない取組

第3回の短期集中コースを終えて、佐藤センター長、荒井教授それぞれの手応えはどのようなものだったのだろうか。2人に感想を伺うと、アウトプットする立場でありながら、逆に得るものも大きい試みだったというのが共通の認識のようだ。

まず荒井教授は、そもそも講演・講義などで大学・医療関係者と接する機会が多いのだが、短期集中コースの参加者はその範囲にとどまらないため、緊張感を持って臨んだと語る。
「製薬業界、機器メーカー、健康保険組合、看護協会、コンサルタントなど、普段の講演対象とは違う方々に集まっていただきました。多様な領域の方に管理会計について聞いていただき、関心や問題意識を持ってもらえたことは、私にとっても大きな収穫でした」(荒井教授)

佐藤センター長は、前項で荒井教授が触れていたように、大学として社会に貢献できるという手応えを改めて感じたと語る。
「しかもその貢献は、今回のような医療経済に限りません。我々が蓄積してきた知見は多分野にわたりますので、金融、経営、地方創生などについても短期集中コースを開催する価値はあると感じています。人生100年時代に突入した今、20代前半で大学を卒業した社会人には『知識のアップデート』が必要です。今回のような短期集中コースが社会との窓口となり、アップデートに貢献できるのではないかという手応えが得られました」(佐藤センター長)

プログラムの詳細は、こちらからご覧いただけます。
http://health-economics.HIAS.hit-u.ac.jp/program/