帝国データバンク×一橋大学経済学研究科(TDB‐CAREE)で進むプロジェクト「消費者心理調査」・「帝国銀行会社要録のデータベース化」
2021年1月6日 掲載
一橋大学経済学研究科 帝国データバンク企業・経済高度実証研究センター(Teikoku Databank Center for Advanced Empirical Research on Enterprise and Economy:TDB-CAREE)は、コロナ禍における消費者心理調査を開始した。一方、帝国興信所(現・帝国データバンク)が刊行した「帝国銀行会社要録」の一部のデータベース化も進めている。これらにより、経済政策や産業政策などの研究や評価、立案などへの貢献が期待される。
※TDB-CAREEとは:こちら
新型コロナウイルス感染症に対する「消費者心理調査」
TDB-CAREE初代センター長 岡室博之教授
世界的にパンデミックを起こしている新型コロナウイルス感染症と感染症対策は、消費者の行動と心理にどのような影響を及ぼしているのか。このことは、企業の経営戦略にも政策立案にも直結する問題といえる。そこで、TDB-CAREEでは、国内の18歳以上の男女約3,600人を調査対象として、都道府県ごとに同数を抽出し、2020年6月から毎月アンケート調査を実施。8月時点で3~6月を対象とする2回の調査結果をリリースしている。
調査結果から読み取れることについて、TDB-CAREE初代センター長の岡室博之教授は次のように話す。
「概ね予想通り、"3密"となる飲み会や懇親会、観光旅行目的の外出を控えるといった慎重な行動を多くの人が取っていることが分かりました。また、ギャンブル経験やスピードくじを例にとって人々のリスク意識を調べていますが、予想以上にリスクを回避する人が多いことも分かりました。両方を考え合わせると、新型コロナウイルス感染症が収束しても、しばらくは行動の自粛や抑制は続くのではないかと思われます」
本調査は2021年3月まで10回連続で行う予定であり、全データが揃うのは同年4月を予定している。コロナ対策に活用するには緊急性が問われるが、一方で経済政策などに活用するにはデータをしっかり揃える必要がある。このため、途中の段階で調査結果の概要をディスカッションペーパーとして発表し、経済分析への示唆を得るとともに、臨時的な施策への活用を図り、政策の改善につなげる方針だ。
本調査のメリットとしては、年齢や性別、家族構成といった属性ごとの心理や行動を分析でき、さらに47都道府県別、かつ時系列的に変化を追うことができる点が挙げられる。
「都道府県ごとの緊急事態宣言や給付金といった諸施策によって、消費者行動がどう変化したかが分析できます。これに当該エリアの企業倒産などのデータを組み合わせることで、経済政策の分析や評価、改善につなげることが可能です」(岡室教授)
本調査は、官庁などの政策立案者と多くの接点がある帝国データバンクからの提案に基づいて行われた。同社は企業に関するデータを収集・分析しているが、消費者に関する情報は有していない。しかし、新型コロナウイルス感染症に関する経済対策などの立案においては、消費者心理は極めて重要なデータとなる。そこで、当該調査をTDB-CAREEが担うことになった。TDB-CAREEには、消費者行動やマーケティングの専門家もメンバーとして加わっており、調査設計に力を発揮している。
新型コロナウイルス感染症はグローバルな問題であり、国によって感染規模や国民性の違いなどから、対応策もさまざまである。
「今後、各国の同様な調査との国際比較研究も行いたいと考えています。また、一通り調査が完了した段階で、論文の発表やシンポジウムの開催などで広く社会に知ってもらうよう努めていきます」と岡室教授は話す。
「帝国銀行会社要録」のデータベース化
本データベースは、「帝国銀行会社要録」のうち「会社之部」の収録会社の情報を、国立国会図書館のデジタル・コレクションのPDFファイルに基づいてExcelに入力したもの。これによって、従来は紙メディアやPDFファイルでしか利用できなかった個別企業の歴史的なデータを、電子データとして検索・集計・分析できるようになり、さまざまな研究の可能性と効率性を大幅に高めることが期待される。
2020年9月現在、1938年26版、1943年31版、1957年38版における大阪府、兵庫県、福岡県、静岡県、長野県、群馬県の約3万7千社分をデータベース化。現在、1970年の愛知県を含む1府6県に対象を拡げている。入力項目は、会社名と住所、事業目的、設立年月、資本金、役員・株主・出資者情報、事業所、従業員数(戦後のみ)、年商(戦後のみ)、取引銀行・支店(戦後のみ)など。今後も研究助成に応じて他の年度や地域のデータベース化を進めていく。データベース作成方法としても、今後可能であれば、機械学習やデータサイエンスの知見も取り入れ、効率性を追求する構え。
現在までのデータベース化の年度や地域の選定理由について、岡室教授は「戦前から戦後、高度成長期にかけて重要な産業集積の盛衰があり、産業構造が長期的に大きく変化したことを観察しやすい地域と年次を重点的に選びました」と説明する。
たとえば福岡県は戦前、国内最大の炭鉱地帯であった。これが誘因となって鉄鋼業が栄えたが、1950年代からエネルギー源が石油に取って代わられると衰退を始め、70年代以降ほとんどが閉山となった。その間、他の産業へのシフトが進んでいった。また、長野県も元は養蚕業が盛んで、生糸や絹織物の産業が栄えたが、時代とともに精密機器に移っていった。静岡県でも、浜松地域が染織産業から機械産業の集積地に発展した。
「主要産業が変わると、周辺の産業にも波及します。第三次産業を含めて地域の産業全体の動向を把握できるのが良いですね。産業集積のダイナミクスや特定の地域政策・産業政策の波及効果や妥当性などの評価研究も可能となります」
データベース化の効用としては、歴史的な企業データのマッチングや高度な分析が劇的に行いやすくなることにより、多彩な研究に発展することが期待される。
「自分には考えもつかないような研究テーマが現れるかもしれません。このように多様な研究をサポートすることが、TDB-CAREEの使命といえます。多くの人に利用してもらい、使い勝手などのフィードバックを得て磨いていきたいと思っています」(岡室教授)