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「第16回 一橋大学関西アカデミア」開催レポート

2019年10月25日 掲載

山内弘隆

山内弘隆
一橋大学大学院経営管理
研究科教授/ホスピタリティ・マネジメント高度人材開発センター長

和田浩一

和田浩一
観光庁次長

松本正義

松本正義
公益財団法人関西経済連合会会長/住友電気工業株式会社取締役会長

橋爪紳也

橋爪紳也
大阪府立大学特別教授

西村陽

西村陽
大阪大学大学院工学研究科招聘教授/関西電力株式会社営業本部

荻洲貞明

荻洲貞明
株式会社博報堂関西支社ビジネス開発室室長代理

二階堂暢俊

二階堂暢俊
西日本旅客鉄道株式会社(JR西日本)代表取締役副社長

中野星子

中野星子
日本航空株式会社(JAL)執行役員西日本地区支配人

奥直子

奥直子
株式会社おたりアセット副社長

鷲田祐一

鷲田祐一
一橋大学大学院経営管理研究科教授

福地宏之

福地宏之
一橋大学大学院経営管理研究科准教授

山田敦

山田敦
一橋大学副学長

※役職は開催時

次世代産業としての観光:関西の復権に向けて

2019年2月9日(土)、大阪国際会議場にて、シンポジウム「第16回 一橋大学関西アカデミア」が開催された。テーマは「次世代産業としての観光:関西の復権に向けて」。一橋大学大学院経営管理研究科鎌田裕美准教授が総合司会を務め、観光庁次長の和田浩一氏による基調報告及び大阪府立大学特別教授の橋爪紳也氏による基調講演の後、観光産業に関わるゲストと、一橋大学のホスピタリティ・マネジメント・プログラムに関わる大学院経営管理研究科教員によるパネル報告及びパネル・ディスカッションなど、2025年に開催が決まった大阪・関西万博を大きな契機とする観光産業の発展に向け有意義な提言や意見交換が行われた。

一橋大学の山田敦副学長の開会挨拶に続き、観光庁次長の和田浩一氏が来賓挨拶で登壇。2018年に訪日外国人旅行者数が3,000万人の大台に乗り、さらなる増加が見込める中、観光産業を支える人材育成の重要性を表明。一橋大学の「ホスピタリティ・マネジメント・プログラム」への期待に言及した。

続いて登壇した公益社団法人関西経済連合会会長で住友電気工業株式会社取締役会長の松本正義氏は、関西の経済が日本の20%を占めていたピーク時から現在の16%弱まで落ち込んでいることを挙げ、そこからの復権における観光産業の重要性を強調した。

次に、一橋大学大学院経営管理研究科/ホスピタリティ・マネジメント高度人材開発センター長の山内弘隆教授が、一橋大学が観光産業の経営人材養成を目的に2018年4月にMBAコースに開設した「ホスピタリティ・マネジメント・プログラム」を紹介した。

基調報告は、「日本の観光の現状と観光政策」をテーマに観光庁次長の和田浩一氏が行った。観光を取り巻く現状として、観光交流人口増大の経済効果や拡大する国際観光市場の長期予測、訪日外国人観光客の旅行消費額及び製品別輸出額との比較、旅行動態の変化状況などを説明。さらに近年の訪日外国人旅行客の増加が消費や投資にもたらす影響を通じて、日本経済における観光産業の存在感の高まりについて触れた。最後に、今後の観光政策の方向性として、「観光ビジョン実現プログラム2018」の主要施策や、国際観光旅客税を活用したより高次元な観光施策の展開について説明した。
次に基調講演を行った橋爪紳也氏は、大阪府及び大阪市特別顧問や大阪観光局評議員、大阪商工会議所都市活性化委員会副委員長などの任に就き、「2025年大阪・関西万博」に関しては、基本構想及び会場計画立案にあって大阪府案策定の当初からキーパーソンとして活躍、現在も構想具体化のワーキングにおいて、まとめ役を担っている。基調講演では、「2025年大阪・関西万博」の構想段階の動画の紹介をはじめ、「いのち輝く未来社会のデザイン」 「SDGsが達成される社会」「日本の国家戦略Society5.0の実現」といったテーマの背景説明を行った。さらに、1970大阪万博当時の経験談や、大阪府市文化振興会議や大阪府市都市魅力戦略推進会議、大阪府河川水辺の賑わいづくり審議会、大阪市都市景観委員会、大阪市都市計画審議会などの各会長・会長職務代行者として、アーツカウンシルなどの設置、大阪城や天王寺公園へのパークマネジメント導入、水と光のまちづくりや大坂の陣400年記念プロジェクト、御堂筋の歩道景観づくりなど、大阪における一連の都市再生事業や観光集客プロジェクトの実績を紹介した。

続いて、関西近未来研究会「グループ2050」を代表して、株式会社博報堂関西支社ビジネス開発室室長代理の荻洲貞明氏と、大阪大学大学院工学研究科招聘教授で関西電力株式会社営業本部の西村陽氏が「関西から創造する未来像(仮説)」を発表した。関西の価値とIoTやAIなどのテクノロジーを掛け合わせ、「コネクテッド町内会」「お祭り4.0」「スマートオカン(スマオ)」「ソーシャル私塾」「SDJs(サステナブル・大好きな・地元s)」といった未来像を説明。テクノロジー主導の均質で画一的な、スーパーメガシティが先導する東京型の未来像と、Village Cityが先導する、都市の固有性に立脚した人間中心の多様な関西型未来像を対置した。

パネル・ディスカッションに入る前に、まず各パネリストからの発表が行われた。

西日本旅客鉄道株式会社(JR西日本)代表取締役副社長の二階堂暢俊氏は、「観光と鉄道のつながり」について説明。名所旧跡の紹介といった従来の観光施策から、官民一体となって地域の新しい価値を創出し、地域の持続性ある発展に寄与する施策への移行の必要性に言及。「広域連携DMO(せとうちDMO)」や「観光拠点型PMO(大阪城公園パークマネジメント事業)」といった官民連携例の紹介や、JR西日本の取り組みについて紹介した。

日本航空株式会社(JAL)執行役員西日本地区支配人の中野星子氏は、関西へのインバウンド集客戦略について発表。「宿泊施設」「アクセス」「プロモーション活動」「人材」「旅行消費額」といった観点から、課題とその対応策の方向性について具体的に提言。さらに、JALの「新JAPAN PROJECT」の取り組みも説明した。

株式会社おたりアセット副社長の奥直子氏は、株式会社日本政策投資銀行から長野県小谷村の観光地域づくり支援のために出向した同社での活動に触れた後、訪日外国人旅行客の京都での滞在日数がロンドンやアムステルダムに比べて大幅に少なく、旅行消費額の少なさに直結していることを説明。オーバーツーリズムの問題も勘案し、滞在日数を延ばす施策の重要性を指摘した。

一橋大学大学院経営管理研究科の鷲田祐一教授は、学生が算出した観光業の産業連関について紹介した。生産誘発係数が、製造業は0.518、サービス業は0.398であるのに対し観光業は0.404と両者の中間に位置すること、感応度指数が製造業の2.331、サービス業の1.750に対しし観光業は0.94と低いことを説明。こうした数値も活用し、観光産業を確立させる必要性を指摘した。

一橋大学大学院経営管理研究科の福地宏之准教授は、観光地のマーケティングやマネジメントの必要性について説明。マーケティングと事業の成果は正の相関にあることや、データドリブンによるPDCAの実践が避けて通れない課題であることを指摘。また、観光産業の経営においては行政や交通機関、地域の飲食業といった多様なステークホルダーをまとめていかなければならないことについて注意喚起した。

そして山内弘隆教授がモデレーターとなりパネル・ディスカッションが行われた。まずは、意見の補足や意見交換を行った後に、観光業による関西復権に向けての提言がなされた。

奥氏は、小谷村では「雪が降ればスキー客は来る」と考える習慣があることを引き合いに出し、観光地間競争が激化している中にあって観光業におけるマーケティングが未成熟である点を指摘。中野氏も、一つの県や都市だけでのインバウンド誘致では海外の著名観光地に勝てず、"面"としての観光資源開発が必要と指摘した。その意味でバリエーションが豊富な関西の有利性に触れた。それを受け、二階堂氏は"面"の中をスムーズに移動できる交通機関の重要性に触れ、北陸新幹線の開通後、石川県への観光入り込み客数が年300万人も増加した効果を説明した。

さらにオーバーツーリズム問題と旅行消費額の関連について意見交換がされた。福地准教授は、観光業も製造業の工場と同様に稼働率を重視し、どういう旅行者にどのように消費してもらうかという戦略が不足していることを指摘。鷲田教授は、海外のジャパン・ハウスで売られている日本酒が最高額の銘柄でも1万円程度である例を挙げ、中ランクの品揃えは充実していても、世界の富裕層のニーズや嗜好に応える商材の不足を指摘した。それに対し、二階堂氏は一部の事業者だけが収益を上げるのではなく、地域活性化も意識し収益の裾野を広げることの重要性について発言した。中野氏も、ラグジュアリーな施設が半年先まで予約で埋まっていることから、その不足を指摘し、奥氏も稼働率よりも価格を上げることのほうが利益に直結すると、値付けの重要性に触れた。

今後への提言としては、国際的な大型イベントが続く中でのビジネスチャンスの増加に向け、観光地へのアクセス改善や自然災害発生を見越した対策、関西エリアの多様性を踏まえたブランディングの重要性について指摘があった。さらに、環境整備により街本来が持つ生活感が失われたり、地域住民の生活リズムが変わってしまうことへの懸念や、洗練さを望む地域住民の意向ともバランスを取る必要性があるとの意見も出された。

その後、来場者との質疑応答が行われ、山田副学長の挨拶で本シンポジウムは閉会した。