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AI・ビッグデータ時代の紛争ガバナンス ーOnline Dispute Resolutionー

2018年11月13日 掲載

只野雅人研究科長

只野雅人
一橋大学大学院
法学研究科・研究科長

山本和彦教授

山本和彦
一橋大学大学院
法学研究科・教授

早川吉尚立教大学教授

早川吉尚氏
立教大学法学部教授
弁護士法人
瓜生糸賀法律事務所
パートナー弁護士

コリン・ルール氏

コリン・ルール氏
Tyler Technologies Inc.
Vice President

万代栄一郎氏

万代栄一郎氏
株式会社ODR Room Network代表取締役

ジャネット・マルチネス氏

ジャネット・マルチネス氏
Stanford University Law School Gould Negotiation and Mediation Program director.
Gould Alternative Dispute Resolution Research Initiative director

森大樹氏

森大樹氏
長島・大野・常松
法律事務所
パートナー弁護士

羽深宏樹

羽深宏樹氏
経済産業省職員
弁護士

沢田登志子氏

沢田登志子氏
一般社団法人
ECネットワーク理事

井上由里子教授

井上由里子
一橋大学大学院
法学研究科
ビジネスロー専攻
教授

ODRに関して日本で初めての
本格的な国際シンポジウムを開催

司会 渡邊真由

司会:渡邊真由
一橋大学大学院法学研究科
ビジネスロー専攻・特任助教

2018年9月21日(金)、一橋講堂(東京都千代田区一ツ橋)において、国際シンポジウム『AI・ビッグデータ時代の紛争ガバナンス -Online Dispute Resolution-』が開催された。
Online Dispute Resolution(以下ODR)とは、ICT技術を活用した紛争解決の仕組みを指し、世界各国で導入が進められている。法とICT技術が接点を持つことにより社会を革新する、LegalTech分野の取り組みの一つになっている。
正義へのアクセスの拡大、利便性の向上の実現を目指すODRは、その特性上紛争に関するデータの集積が可能となる。ビッグデータとしての活用やAI技術との融合など、さまざまな模索がなされており、ODRが「次世代のリーガルサービス」として注目を集める日もそう遠くないであろう。しかし、日本においてODRの認知度は依然として低い状況にある。そのため、まずは世界におけるODRの状況を把握し、今後の導入に向けた議論を行うことが重要になる。
そこで今回、一橋大学法学研究科グローバル・ロー研究センターの主催により、ODRに関して日本で初めての本格的な国際シンポジウムが開かれることとなった。
このシンポジウムでは、ODRの第一人者であり、eBayとPayPalのODR開発を手がけたTyler Technologiesのコリン・ルール氏とスタンフォード大学のジャネット・マルティネス氏を招聘(しょうへい)。日本でODRに先駆的に取り組んできた研究者・実務家を交え、AI・ビッグデータ時代に対応した紛争解決システムの整備のあり方、紛争解決の今後について講演が行われ、熱い議論が交わされた。

基調講演
『民事紛争解決におけるITの利用』

一橋大学大学院法学研究科・只野雅人研究科長による開会の辞を受け、法学研究科・山本和彦教授の基調講演が行われた。
『民事紛争解決におけるITの利用ー裁判手続のIT化、オンラインADR、ODR』というテーマのもと、まず今回のシンポジウムにおけるODRは、「裁判所の手続」「ADR(Alternative Dispute Resolution:中立的な第三者が関与する裁判外の紛争解決手続)」「IDR(Internal Dispute Resolution:企業・団体内の苦情解決手続)」の3段階すべての場面を包括するという定義づけがなされた。
そのうえで民事裁判におけるIT化の取り組みとして3つの「e」、すなわち「e提出(e-filing):訴状ほかすべての書類をデータ化~オンラインでの提出」「e事件管理(e-case management):裁判所記録の電子化、オンラインからの外部アクセス」「e法廷(e-court):Web会議の拡大、口頭弁論など期日の見直し」を紹介。さらにオンラインADRの展開、企業内の苦情処理のIT化、企業の社会的責任としての苦情・紛争解決、21世紀後半における民事紛争の解決から効果的な予防への転換など、様々な角度からODRの世界的状況を概観。以降の登壇者による、さらに詳しい現状と課題の報告へとバトンタッチされた。

世界におけるODRの現状と課題①
『ODRに関するルール整備の国際的状況』

「世界におけるODRの現状と課題」というプログラムでは、3人の登壇者から発表があった。
最初の登壇者は、立教大学法学部教授・弁護士法人 瓜生糸賀法律事務所 パートナー弁護士の早川吉尚氏が務めた。
『ODRに関するルール整備の国際的状況〜日本、欧州、米国、国連、APEC〜』というテーマのもと、購買者と海外の販売業者との間の国際取引で紛争が発生した場合、どのような取り組みがなされているか、世界各国・地域の事例が紹介された。欧州・ECC-Net(European Consumer Centres Network)における28か国語対応のオンライン紛争解決モデル、日本の独立行政法人国民生活センターが運営するCCJ(Cross-border Consumer center Japan:越境消費者センター)の取り組みにふれたうえで、両者の運用ルールが違うために起こる問題についても指摘した。
さらに、UNCITRAL(United Nations Commission on International Trade Law:国連国際商取引法委員会)によるODRの世界統一ルール策定に向けたこれまでの動きや、BtoB取引におけるODRのプラットフォーム構築に乗り出したAPECの現状について紹介があった。

世界におけるODRの現状と課題②
『Online Dispute Resolution ーExpanding Access to Justiceー』

続いての登壇者は、Tyler Technologies Inc.のVice Presidentであるコリン・ルール氏。eBayとPayPalのODR開発を手がけたルール氏のテーマは『Online Dispute Resolution ーExpanding Access to Justiceー』。
ODRの成功事例としても知られているeBayのレゾリューションセンターは16言語に対応。年間6,000万件のトラブル解決に利用されているが、その9割は当事者間のやりとりで解決している。つまり人間という第三者を介さない形で、ソフトウェアを通して解決したのだ。その解決フローをPC画面で紹介、「Diagnosis(診断)」「Negotiation(交渉)」「Mediation(調停)」「Evaluation(評価)」という4つのフェーズのうち、最初の「診断」「交渉
」をソフトウェアで行っているとの発表があった。
最終的に法的なドキュメントの作成・署名から裁判所の判事の認証を得るまでのすべてをオンライン化。これによって裁判所や調停人のスケジュール待ちをする必要がなく、スピーディーに紛争が解決される。企業が紛争解決に真摯に取り組むことによって、エンドユーザーのロイヤリティが向上し利用率がアップする、ということだ。
「開発に数億ドル投資したとしても、確実にリターンが見込めるのがODRの領域なのです」――ルール氏はこのような言葉で講演を締め括った。


世界におけるODRの現状と課題③
『ODRの社会的実装』

最後の登壇者、株式会社ODR Room Network代表取締役の万代栄一郎氏からは、『ODRの社会的実装(実用化のフェーズに入ったODR)』というテーマで発表があった。
実用化された新しいODRの実例として、コリン・ルール氏が手がけたeBayレゾリューションセンター、離婚サポート「CompleteCase.com」、メディエイター(仲介者)と紛争当事者によるオンラインリアルタイムビデオチャット「MediateMe.com」、オンラインで公開陪審を行う「sidetaker.com」、ショップがあらかじめ用意した複数のODRプロバイダーを介して、消費者との紛争解決を行う「Youstice.com」など。
これら欧米のODRが、共通規制・国際連携・資金・執行などの課題に取り組みながら実用化の段階へと進んでいる。国際連合が主催し、27か国・130人の参加者で構成されるODRフォーラムも、日本では未開催であることにふれ、今回ようやく国際シンポジウムが開催された、そのことに大きな意味があると語り、発表を結んだ。

招待講演
『Dispute System Design & ODR』

休憩を挟み、招待講演として、スタンフォード大学ロースクールのジャネット・マルティネス氏が登壇。『Dispute System Design & ODR』というテーマで発表が行われた。
冒頭、マルティネス氏はDispute System Designについて「企業や団体に関する紛争を回避・管理・解決するために採用される、一つまたは複数のプロセス」と定義。世界中でODRの取り組みが進み、成功または失敗の事例が多数出てきた今こそ、「日本は他国の事例に学びながら、Dispute System Designについて考える、良い立場にある」との認識を示した。
そのうえで、Dispute System Designのチェックリストとして、「Goals」「Stakeholders」「Context & Culture」「Processes & Structure」「Resources」「Success & Accountability」の6つのフレームワークを提示。それぞれについてeBayでの取り組みを例に挙げながら説明を行い、Dispute System Designを踏まえたODRの重要性について語った。

パネルディスカッション
『紛争のガバナンスとODR 〜日本での導入に向けて〜』

今回のシンポジウムを締め括るパネルディスカッションでは、ルール氏、万代氏、マルティネス氏に加え、森大樹氏(長島・大野・常松法律事務所パートナー弁護士)、羽深宏樹氏(経済産業省職員、弁護士)、沢田登志子氏(一般社団法人ECネットワーク理事)3人のパネリストが登壇。山本教授による進行のもと、『紛争のガバナンスとODR 〜日本での導入に向けて〜』というテーマで活発な議論が交わされた。
日本がODRを導入するうえでのハードルはどこにあり、どうすれば乗り越えられるか。「コスト」「意識」「制度」という3点の阻害要因について、パネリスト6人がそれぞれの経験や知見を交えながら、日本での導入の手がかりをつかもうとする議論に聴衆もじっと聞き入り、会場全体が熱気を帯びていった。
予定の1時間半があっという間に経過し、(1)日本においても紛争ガバナンスの社会的ニーズは確実に高いこと、(2)日本は各国・地域の事例に学びながら、独自の技術力、解決策を見出す能力を持っていることが、パネルディスカッションを通じて確認された。最後に挨拶した法学研究科ビジネスロー専攻の井上由里子教授からは、同専攻を拠点としてODR研究を継続していく方針が表明され、日本で初めて本格的に行われたODRに関する国際シンポジウムは幕を閉じた。

シンポジウム概要

〜AI・ビッグデータ時代の紛争ガバナンスーOnline Dispute Resolutionー〜

開催日時

2018年9月21日(金)13:00〜17:30

会場

一橋講堂
【後援】総務省、経済産業省、消費者庁

開会の辞

只野 雅人(一橋大学大学院法学研究科・研究科長)

基調講演

テーマ:民事紛争解決におけるITの利用ー裁判手続のIT化、オンラインADR、ODR
山本 和彦(一橋大学大学院法学研究科・教授)

世界におけるODRの現状と課題

テーマ:ODRに関するルール整備の国際的状況ー日本、欧州、米国、APEC〜
早川 吉尚氏(立教大学法学部教授、弁護士法人瓜生糸賀法律事務所パートナー弁護士)

テーマ:Online Dispute ResolutionーExpanding Access to Justiceー
コリン・ルール氏(Tyler Technologies Inc. Vice President)

テーマ:実用化フェーズに入ったODR
万代 栄一郎氏(株式会社ODR Room Network代表取締役)

招待講演

テーマ:Dispute System Design and ODR
ジャネット・マルティネス氏(Stanford University Law School Gould Negotiation and Mediation Program director. Gould Alternative Dispute Resolution Research Initiative director)

パネルディスカッション

テーマ:紛争のガバナンスとODR〜日本での導入に向けて〜

パネリスト

ジャネット・マルティネス氏、コリン・ルール氏、森 大樹氏(長島・大野・常松 法律事務所パートナー弁護士)、羽深 宏樹氏(経済産業省)、沢田 登志子氏(一般社団法人ECネットワーク理事)、万代 栄一郎氏

モデレーター

山本 和彦 一橋大学大学院法学研究科・教授

閉会の辞

井上 由里子(一橋大学大学院法学研究科ビジネスロー専攻・教授)

司会

渡邊 真由(一橋大学大学院法学研究科ビジネスロー専攻・特任助教)


企画・運営:井上 由里子(法学研究科ビジネスロー専攻・教授)、渡邊 真由(法学研究科ビジネスロー専攻・特任助教)