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平成27年度一橋大学春季公開講座 文化資源としての一橋大学 ─新しいキャンパス案内

2015年秋号vol.48 掲載

坂井洋史研究科長

坂井洋史研究科長

小泉順也准教授

小泉順也准教授

小岩信治准教授

小岩信治准教授

藤元晶子非常勤講師

藤元晶子非常勤講師

武村知子教授

総合司会
武村知子教授

鈴木将久教授

鈴木将久教授

糟谷啓介教授

糟谷啓介教授

──見えるものと見えないもの──

一橋大学初の独立研究科「言語社会研究科」が20年目を迎えて実施したユニークな公開講座

公開講座の様子1

公開講座の様子2

2015年6月6日(土)、国立西キャンパス・本館21番教室において、平成27年度一橋大学春季公開講座が開催されました。テーマは「文化資源としての一橋大学─新しいキャンパス案内─」です。受講対象者は、住所・年齢等を問わない一般の方で、本学に関心を持った多くの人が集まりました。
今回の公開講座は、本学言語社会研究科教員によるオムニバス講義の形で進められました。プログラムは、「第1部:目に見える資源と環境」及び「第2部:文化資源としての言語」という2部構成。間に休憩を兼ねたミニサロンコンサートをはさみ、最後は登壇者全員によるパネルディスカッションが行われました。このユニークなプログラムについて、言語社会研究科長の坂井洋史教授(以下、坂井研究科長)は「二つのことを意識した」と語ります。
「第1点は、言語社会研究科にとって節目の年であるということです。本学初の独立研究科として1996年に設立され、今年で20年目を迎えます。人文学の教育研究を行う組織として、自負するに足る成果は着実に挙げてきました。しかし次の10年、20年に向けて、社会における存在感をさらに増していきたいと考えています。
第2点は、純粋にイベントとして面白いものにして、一般の方に楽しんでもらいたかったということです。複数の登壇者によるオムニバス形式の講義、参加者からの質問にも対応するパネルディスカッション。学生によるミニサロンコンサート。これらはすべて『やるなら面白くしよう』という配慮から組み込まれていったものです」(坂井研究科長)

平成27年度一橋大学春季公開講座「文化資源としての一橋大学─新しいキャンパス案内─」

日時:2015年6月6日(土)14:00~17:10
会場:国立西キャンパス 本館21番教室
総合司会 武村知子教授

プログラム講師
開会挨拶─見えるものと見えないもの─ 坂井洋史言語社会研究科長
第1部 目に見える資源と環境 1.銅像、肖像画、建築など 小泉順也准教授
2.コンサートと音楽活動 小岩信治准教授
3.鳥、自然 藤元晶子非常勤講師
ミニサロンコンサート(休憩)
第2部 文化資源としての言語 1.一橋のなかの中国と中国語 鈴木将久教授
2.ミニマルグローバル言語社会 糟谷啓介教授
総括パネルディスカッション

見えないものを察知して見えるものにする。そこにイノベーションの本質がある

公開講座の様子-ミニコンサート1

公開講座の様子-ミニコンサート2

宮本三郎/作「中山伊知郎先生肖像画

宮本三郎/作「中山伊知郎先生
(油彩)」(修復後)
一橋大学附属図書館

「文化資源としての一橋大学─新しいキャンパス案内─」というテーマは、どのような意図で設定されたのでしょうか。そのヒントが、当日配布されたパンフレットに記述されています。
《大学は古来、文化の集積所でありました。(中略)その沃土の中には、珍しい記念品をめぐる奇想天外なストーリーや、知られざる苦心の営み、小さな生き物たちから無限の星々までもが、普段は人の目に触れないままに所狭しと埋まっています。(中略)見えないものが見える魔法の眼鏡をかけて、キャンパス宇宙をめぐる宝探しの旅にご一緒しましょう。》

《見えないものが見える》一橋大学というキャンパスを通して、「見えるものと見えないもの」という認識を持つことの重要性を、今回の公開講座は示唆していたようです。
「今、すでに目に見えているもの・有用なもの・効率性に貢献するとされているものは、すぐに常識化、陳腐化してしまいます。言い換えると、3年後、5年後、10年後に役立つものは、今はまだ目に見えない状態にあります。この見えないものを見えるようにする知性や感性の涵養こそが人文学の果たすべき役割ではないか。今回の公開講座にはそういうモチーフがありました」(坂井研究科長)

見えないものを鋭敏に察知して、見えるようにする。そのセンスを養うためにはまず、文学、言語学などのカテゴリーを超えること。と、坂井研究科長は指摘します。
「現実の世界、人間の社会と対峙することは重要です。人と人との絆。権力と個人の間の緊張関係。文明と自然・環境の調和......等々。目の前の現実に対する関心は、過去を掘り起こし、物事を歴史的に眺める視点を要請してくるはずです。いつでも、誰でも想起・共有できるように人間の営みと知恵を歴史化し、言語化する際に人文学は大事な役割を果たします」(坂井研究科長)

矢野二郎先生(立像)

堀進二/作「矢野二郎先生(立像)」
除幕式:1931(昭和6)年
国立西キャンパス

一橋大学東本館

「一橋大学東本館」建設年:1929(昭和4)年
国登録有形文化財 建造物(2000〈平成12〉年9月26日登録)
国立東キャンパス

今日的で同時代性に溢れた教員が、互いに刺激し合い、新しい時代に向かう

見えないものが見える魔法の眼鏡について坂井研究科長は、「言語社会研究科の教員は数こそ少ないですが、問題関心の多彩さ、研究アプローチのユニークさでは他にひけをとりません。今回はその中から5人の教員に登壇してもらったわけですが、図らずも、とても刺激的な場になったと自負しています」(坂井研究科長)

最近よくFD(ファカルティ・ディベロップメント)が話題になりますが、教員同士の授業参観という意味でも、得るものは非常に大きかったようです。
「ただ、公開講座を通じて『見えないもの』が『見えるもの』になったとしても、それはもう常識化、陳腐化すべく運命づけられています。可視化とは『見えないもの』の察知と裏腹なのです。『見える/見えない』は永遠のプロセスです。言語社会研究科は次の新しい時代でも、新たな問題の掘り起こしを続けていきたいと考えています」(坂井研究科長)

今回は公開講座という形になりましたが、今後は学生を対象に、共同講義として同様の試みを実施できないか検討中とのこと。そのアイデアの実現に期待したいところです。

公開講座の様子5

公開講座の様子6

(2015年10月 掲載)