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第6回を迎えた『中部アカデミア』で危機的状況にある日本の国家財政を考察する

2016年春号vol.50 掲載

2015年11月28日(土)、名古屋市のミッドランドスクエアにあるミッドランドホールにおいて「第6回一橋大学中部アカデミア」が開催された。今回のテーマは「日本の国家財政を考える~破綻か再建か~」。一橋大学の経済学者、国内外の経済問題を調査する専門家を迎え、危機的状況と言われる日本の財政問題に関する課題や破綻回避に向けた方策などについて、多角的なテーマで議論した。

村田 光二

村田 光二
理事・副学長

河村 たかし

河村 たかし
名古屋市長

安井 隆豊

安井 隆豊
如水会名古屋支部長

藤 主光

佐藤 主光
教授

河村 小百合

河村 小百合
日本総合研究所調査部 上席主任研究員

祝迫 得夫

祝迫 得夫
教授

大西 幹弘

大西 幹弘
名城大学教授

青島 矢一

青島 矢一
教授

多様なゲストを迎えたシンポジウムで危機に瀕する日本の財政問題を議論

シンポジウムの様子1

現在の日本は、国債発行残高が800兆円を超え、国・地方を合わせた一般政府債務残高はGDPの2倍以上に達している。まさに危機的な状況にある日本の国家財政を、いかに考えていくべきか。第6回を迎えた一橋大学中部アカデミアシンポジウムは、危機的な数字が並ぶ国家財政に関し「破綻か再建か」を問うテーマで2015年11月28日に開催された。このシンポジウムの会場となったのは、名古屋駅に隣接するミッドランドホール。土曜日の開催ということもあり、200人の定員を超えるほど、数多くの参加者が訪れた。
シンポジウムは、村田光二理事・副学長の開会挨拶、如水会名古屋支部長である安井隆豊氏の挨拶で幕を開けた。続いて登壇したのは、一橋大学OBでもある河村たかし名古屋市長。日本の財政危機に関する持論を、独特のユーモアを交えながら披露し、会場を大いに沸かせる来賓挨拶となった。挨拶の後に公務のため河村市長が退席し、村田理事・副学長が再び登壇。卒業生に加えて数多く参加した一般の方々に向け、一橋大学の概要を説明した。
大学紹介の後は、青島矢一教授(イノベーション研究センター)による講師紹介へと進行。基調講演を行う佐藤主光教授(経済学研究科)に加え、パネル・ディスカッションのパネリストとなる河村小百合氏(日本総合研究所調査部上席主任研究員)、祝迫得夫教授(経済研究所)、パネル・ディスカッションの司会となる大西幹弘教授(名城大学経営学部)が紹介された。
プログラムは、佐藤教授による基調講演からスタート。まず佐藤教授は、「日本財政の不都合な真実」という切り口で、一般政府(国と地方、社会保障基金)債務の対GDP比が増加し、財政赤字の累積が主要先進国中で最悪のレベルにある現状に触れた。その現状に対し、デフレからの脱却という景気要因によって財政赤字が解消するという通念、高齢化をはじめとする構造的要因が影響している実態を交えながら、財政破綻は起きるのかという問いに対する見解を述べた。その後も、財政赤字増加の主要因は社会保障費の増加であるという現実や、アベノミクスによる経済成長の可能性、国内投資家が中心となっている国債の保有比率の問題、増税による赤字解消と経済成長への影響などに触れながら、日本における財政悪化の現状を分析する内容となった。佐藤教授はまた、財政破綻が起きてからではなく、現段階から財政再建に向けた積極的な取り組みが必要である点も指摘。経済成長と財政再建を対立軸としてとらえるのではなく、成長を支える税制・財政の構築が急務という持論を展開しながら、日本の国家財政の課題を考察した。

過去の政策を振り返り問題の根本を見つめ破綻回避への道を探るパネル・ディスカッション

シンポジウムの様子2

佐藤教授の基調講演に続いて、プログラムはパネル・ディスカッションへと進行。大西教授を司会に迎え、河村氏と祝迫教授による講演とその内容を踏まえた議論が始まった。
日本総合研究所において、国内外の経済状況に関する調査を行う部署で上席主任研究員を務める河村氏は、「わが国の財政が抱えるリスクと歴史的な経験」と題した講演を行い、実際の政策運営の観点から日本の財政悪化の現状を分析した。まず河村氏は、バブル経済とその崩壊、いわゆる「小泉構造改革」の影響、リーマン・ショック、東日本大震災、安倍政権の誕生という、80年代から現在にいたる日本の財政運営の足取りを説明。時代の流れの中で債務残高やプライマリー・バランス、財政収支の変動に関する数値を紹介し、2020年の「プライマリー・バランス黒字化」の目途に関する持論を展開した。その後、河村氏の講演は財政危機と市場メカニズムに関するテーマへと移行し、現在の財政運営の「無風状態」と短期債の発行割合、国債金利の"異常な低さ"との関係を指摘する内容となった。そのうえで河村氏は、「財政危機現実化」のあり得るシナリオという切り口から、中央銀行による量的緩和政策後の正常化局面で想定される状況とその問題点にも言及。第二次世界大戦後の日本で起こったインフレ問題と預金封鎖、新円切り替えといった歴史的エピソードも交えながら、未来に向けた日本の財政問題に警鐘を鳴らす内容となった。
続いて講演を行った祝迫教授は、財政危機の最大の理由として少子高齢化を挙げ、社会保障支出削減の必要性を説明した。また、国内の家計部門・企業部門の貯蓄余剰によって大半の国債が消化されているという日本国債の保有の現状について紹介し、最終的には、少子高齢化による民間部門の貯蓄の減少と、それに伴う経常収支の赤字化が財政破綻の引き金になると論じた。経常収支の赤字化による本格的な財政危機の発生までに残された時間の長さが不透明な中、さまざまな制約のもとでどのようにしたら財政破綻を回避することが可能かについて、現実的な解決策を参加者に問う内容となった。特に重要だと指摘したのが、労働人口比率の低下を抑制する方策。少子高齢化の抑制は難しいが、女性労働力の活用や定年延長、移民政策に関する議論を深めることも重要だというのが祝迫教授の主張だ。

自ら"考える"ことの重要性を参加者に提示する絶好の機会

基調講演、パネル・ディスカッションの後には、参加者からの質問に登壇者が答える質疑応答の時間も設けられた。河村氏には「デフレ脱却のためには量的緩和という政策しかなかったのではないか」「預金封鎖や資本移動の禁止は現実的に起こるのか」「日銀の破綻はあり得るのか」といった内容で、また祝迫教授には「景気上昇後は投資や消費が増え、日本経済の支えとなっている貯蓄が減るのではないか」「公務員給与などの支出を減らすことも必要ではないか」といった質問、意見が寄せられ、2人はそれぞれの立場から回答した。また、「財政再建のために自分たちは何をすべきか」という問いに対し、佐藤教授は財政問題や政治というものについて「まずは考えることが必要である」と回答。
世の中にある通念、メディアによる意見などをそのまま受け入れるのではなく、自らの問題として考え始めることが重要だということだろう。戦後の混乱期から前例のないスピードで経済発展を成し遂げ、また世界に類のない高齢化が進むのが、現在の日本という国の姿だ。モデルケースがなく、正解の見えない問題に相対する私たちが責任感を持って考える。それが問題解決に向けた第一歩になることが、今回のシンポジウムで明確になったのではないだろうか。日本の国家財政を"考える"と銘打たれたシンポジウムが、現在の危機的状況を"考え"、未来のために必要なことを"考える"絶好の機会を、参加者に与えてくれたと言えるだろう。

第6回一橋大学中部アカデミア シンポジウム「日本の国家財政を考える ~破綻か再建か~」

日時 2015年11月28日(土)14:00~18:00
場所 ミッドランドホール(名古屋市)
主催 一橋大学
協賛 名古屋商工会議所、東海東京証券
後援 中日新聞社、如水会名古屋支部

プログラム

開会挨拶 村田 光二 一橋大学理事・副学長
挨拶 安井 隆豊 如水会名古屋支部長
来賓挨拶 河村 たかし 名古屋市長
大学紹介 村田 光二 一橋大学理事・副学長
講師紹介 青島 矢一 一橋大学イノベーション研究センター教授
基調講演 佐藤 主光 一橋大学大学院経済学研究科教授
質疑応答
パネル・ディスカッションパネリスト 河村 小百合 株式会社日本総合研究所調査部上席主任研究員
祝迫 得夫 一橋大学経済研究所教授
佐藤 主光 一橋大学大学院経済学研究科教授
モデレーター 大西 幹弘 名城大学経営学部教授
質疑応答
閉会挨拶 青島 矢一 一橋大学イノベーション研究センター教授

(2016年4月 掲載)