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グローバル人材の理想像をつかむ三井住友銀行寄附講義 《EUにおけるガバナンスと経済運営》

2016年冬号vol.49 掲載

ポール・グラハム氏

ポール・グラハム氏

三井住友銀行企業調査部(LN)副部長

大月 康弘

大月 康弘

経済学研究科長

EUのガバナンス分析を通じてグローバル人材を養成するために講義を開設

三井住友銀行寄附講義《EUにおけるガバナンスと経済運営》は、2013年度に経済学部に開設された。欧州委員会(ブリュッセル)からの支援により運営されるEUSI(EU Studies Institute,Tokyo)、また文部科学省概算要求事業ともタイアップして、本学におけるEU研究・教育の重要な一翼を担ってきた。
三井住友銀行及び関係機関から第一線の講師陣を招き、律動するEUの産業と金融についてお話を伺っている。また、EU研究者を非常勤講師に迎え、EUのガバナンス構造をも含め講義を展開している。経済学部生に限らず、ヨーロッパ世界の現況分析を通じてのグローバル・リーダー養成が主な目的だ。
経済のグローバル化がますます進展しつつある中で、EU加盟各国の財政・経済活動について知見を深め、そのガバナンスについて分析できる人材を養成することは、日本経済にとって喫緊の課題である。同講義の運営責任者である経済学研究科長・大月康弘教授は、一橋大学に寄せられる学界、実業界の期待をこう語る。
「もともと実業界には、日本の将来を見据えての汎用的なグローバル人材養成は欠かせないという認識がありました。そして経済界、実業界としてどのような大学支援が可能か、さまざまなネットワークの中で議論がなされてきたようです。その流れの中で、経済同友会や中央教育審議会で指導的お立場にある北山禎介取締役会長のおられる三井住友銀行さんからオファーをいただき、EU及び世界経済の理解を助ける教育プログラムとしてお受けしました。
本学の強みであるヨーロッパ研究を基礎に、律動する現代ヨーロッパ、またEUの戦略と苦悩、EUを取り巻く国際経済情勢等々について理解を深める機会を提供することになったのです」(大月研究科長)

EU研究の学術拠点EUSI、EUIJの幹事校として参加校の学部生・大学院生に本寄附講義を開放

EU研究を強みとしている背景には、一橋大学が2004年よりEUIJ(EUInstitute in Japan)東京コンソーシアムの幹事校を務めてきたという実績がある。EUIJは、日本におけるEU研究のための学術拠点として、一橋大学・国際基督教大学・東京外国語大学・津田塾大学の4校からなるコンソーシアムにより運営されている。EUSIと同じく欧州委員会から補助金を受け、EU関連教育科目と講義を設置し、4大学間での単位互換を推進。セミナー、ワークショップ、シンポジウムなどを開催してきた。
「寄附講義にはさまざまなオプションがありましたが、本学にこの素地があったからこそ、《EUにおけるガバナンスと経済運営》という独自の研究教育領域を設定することができました。EUの現下の目標は何と言っても経済統合です。その流れをしっかりつかんでいくために、経済学研究科主導で講義を行うことになりました」(大月研究科長)
さらに本寄附講義は、一橋大学も含めたEUIJ東京コンソーシアム4校と、大学院向けのEUSIへの参加校(慶應義塾大学・津田塾大学)の学部生・大学院生にも門戸が開かれた。

1年間の留学を行うGLPに先立ち寄附講義の財源をもとに海外研修を実施

本寄附講義においては、EUIJの運営を通じて蓄積されたEU研究をベースに、「グローバル・リーダーズ・プログラム」(GLP)との連携も企図された。GLPはグローバル社会における「キャプテンズ・オブ・インダストリー」の育成を目指して、本寄附講義と同じく2013年度にスタートしたプログラムである。
経済学部におけるGLPは、1年次終了時に英語力と学部科目のGPAなどを基準に選抜された15人程度の学生が対象だ。2年次に経済学の専門知識を英語で学び、3〜4年次には海外協定校へ1年間留学、帰国後には大学院レベルの専門科目を英語で学ぶことになっている。
「GLPに選抜された学生はーー必修ではありませんがーー2年次にこの寄附講義を受け、その後ヨーロッパに12日間ほど研修に行きます。別に中国班もありますが、ヨーロッパ班は、今年はパリ第七大学等を訪問、英語でプレゼンを行いました。
ただし、英語を使うことは手段であって目的ではありません。本学は社会科学の大学ですから、目的はあくまで自分で問題を提起する能力を培うことです。学生のアンケートを見ていると、寄附講義で学生たちのEUやそれを取り巻く国際情勢に対する関心や問題意識が刺激され、その後の研修や1年間の留学に活かされていることがよく分かります」(大月研究科長)

第一線で活躍する講師陣が重ねてきたキャリアからグローバル人材の理想像をつかみとる

最後に、本寄附講義が持つキャリア教育の側面にもふれておきたい。2015年度の講師陣は11人。第一線で活躍する40〜50代のプロフェッショナルたちである。そして学生にとっては、グローバル人材のロールモデルでもある。大月研究科長はこの貴重な機会を活かすため、講師たちにある依頼をしたそうだ。
「講義のテーマは基本的に講師の皆さんにお任せしました。ただその中で10分でも20分でも、ご自身のキャリアを失敗談を含めて語ってほしいというお願いをしました
講師の皆さんは、ヨーロッパのみならず、北米、アジアなど、世界中で豊富な経験を積んでこられた達人です。また何とも魅力的な方たちでした。そんな方々に、長いキャリアの中でどんな困難に遭遇し、どう乗り越えてきたかを語っていただくことは、成功体験が先行している学生たちには、とても大きな刺激になりました」(大月研究科長)
講義を通してEUに関する知見を深めると同時に、現役のプロフェッショナルによる体験談から、今後求められるグローバル人材像を内面化していく。本寄附講義は学生にとって、このような貴重なステップを踏む場になったと言えるだろう。

講義テーマ
EU統合の歴史と欧州経済
EUにおける金融市場の統合とユーロ導入
欧州債務危機の発生と対応、今後の方向性
英国からみたEU統合とユーロ導入、英国の戦略
EUにおける環境・エネルギー政策
EUにおける産業政策
欧州における雇用政策
EUにおける金融ビジネス①:EUの金融マーケットと邦銀の欧州戦略
EUにおける金融ビジネス②:コーポレートファイナンス
EUにおける金融ビジネス③:プロジェクトファイナンス
EUにおける金融ビジネス④:トレードファイナンス
当行のグローバル人材育成

(2016年1月 掲載)