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グローバル時代の一橋大学 〜現場からの提言〜

  • 理事・副学長(研究、国際交流、社会連携担当)村田 光二
  • 経済学研究科教授・役員補佐(研究、国際交流担当)古澤 泰治

2016年秋号vol.52掲載

グローバル人材の育成に力を注いでいる一橋大学。
さまざまな「グローバルリーダー育成プログラム」が運営されているほか、海外の大学と相互に学生を派遣し合う「学生交流協定数」は73に達している(2016年度)。
こうした施策づくりを主導する国際交流担当の理事・副学長である村田光二社会学研究科教授と、文字どおり世界を飛び回って海外の大学とのネットワーキングに励んでいる古澤泰治経済学研究科教授が、一橋大学におけるグローバル人材教育の現状と課題、そして意義を語り合った。

村田理事・副学長プロフィール写真

村田 光二

1978年東京大学文学部卒業。1980年同社会学研究科修士課程修了。1985年同博士課程単位取得退学。1986年帝京大学文学部講師、1988年東京学芸大学助教授に就任。1993年一橋大学社会学部助教授、1996年同教授、2000年同社会学研究科教授、2010年同研究科長(2012年まで)を経て、2014年12月から現職。専門分野は社会心理学、社会的認知研究。近著に『複雑さに挑む社会心理学〔改訂版〕』(2010年有斐閣刊)がある。

古澤教授プロフィール写真

古澤 泰治

1987年一橋大学経済学部卒業。1989年一橋大学大学院経済学研究科修士課程卒業。1994年University of Wisconsin-Madisonにて経済学Ph.D.を取得。Brandeis University講師、福島大学経済学部助教授、横浜国立大学経済学部助教授を経て、現在一橋大学大学院経済学研究科教授。専門は国際経済学。近著に、"Globalization, FinancialDevelopment, and Income Inequality"(with Hiroshi Daisaka andNoriyuki Yanagawa), Pacific EconomicReview, 19(5), 612-633,2014.、『ベーシック経済学:次につながる基礎固め』(塩路悦朗氏と共著、2012年有斐閣刊)がある。

月1、2回の
海外出張

対談の様子

村田:私は国際交流担当の理事・副学長として、一橋大学の国際化、グローバル化の課題に取り組んでいます。国際交流担当の役員補佐として、その仕事を強力にバックアップしてくださっているのが古澤先生です。本日は、一橋大学の国際交流の現状と将来について、学生交流協定締結に関わる古澤先生の取り組みについても振り返りながら、語り合いたいと思います。特に、一橋大学の学生たちが海外に目を向け、グローバル社会で活躍したいと思ってもらえるようなお話ができると良いと考えています。では、どうぞよろしくお願いします。

古澤:こちらこそ、よろしくお願いします。

村田:私が担当している研究と社会連携の職務については、何とかそれ以前の経験をもとに自分なりにやってこられたと思います。しかし、国際交流については、個人的にも研究者としても比較的経験が乏しく、古澤先生のサポートがなければとても困難な職務だったと思います。古澤先生の国際交流に関わる取り組みをいつも頼もしく感じていますが、いつ頃から海外への関心をお持ちだったのでしょうか?

古澤:海外への関心が特に強かったわけではありません。強いて言えば、大学3年の時、アメリカに1か月ほど一人旅をした頃からでしょうか。海外生活は、1989年から5年間、アメリカのウィスコンシン大学マディソン校の大学院経済学研究科で学んだのが最初です。その後すぐボストン郊外にあるブランダイス大学で9か月ほど講師を務めます。また、2001年から1年間、ボストン大学の経済学部にフルブライト研究員として滞在しました。一橋大学の教授になってからも、安倍フェローとしてハーバード大学の日米関係プログラムで研究活動を行う機会を得ることができました。なお、経済学者としての研究活動では頻繁に海外に出かけていましたが、国際交流担当の役員補佐を拝命してからは、その回数が倍増し一月に1、2回ほどになりましたね。多忙な蓼沼学長に代わって、海外での学長会議に出席することも少なくありません。

村田:かなりの回数の海外出張をされていますが、身体的・精神的にきついと感じられたことはないのでしょうか?

古澤:精神的には全く辛くはありません。むしろ逆です。日本にいる時はやることが多くつねに時間に追われていますが、海外では雑務に追われることが少なく、案外ゆったりと時間が使えるからです。成田空港や羽田空港は、私にとってホッとする場所です(笑)。出発時間ぎりぎりになることが多いので、間に合ったという安心感と、これからゆったりした時間が取れるという安堵感でしょうか。
一方の体のほうもきついとは感じていなかったのですが、つい先日ベルリン、パリ、ボストンを10日間かけて回った際は、その後半から風邪をひいてこじらせてしまいました。体は正直に「きつい」と反応したのかもしれませんね

学生交流協定締結交渉は
"片思い"の成就と同じ

対談中の村田理事・副学長

村田:その海外出張では、一橋大学と海外の有力大学との学生交流協定締結交渉を担っていただいています。授業料相互不徴収の形で学生交流協定を結ぶことは、特にアメリカの有力大学など、日本からは行きたい学生が多く、先方からはそれほど多くない場合にはかなり大変な交渉事だと思います。いろいろとご苦労をされていると思いますが、この仕事についてどうお考えでしょうか?

古澤:まず、学生交流協定を結ぶ相手は、どの大学でも良いということにはなりませんね。一橋大生が行って身になるレベルの学びができるところでなければなりません。ですから、こちらにとってはどうしても一橋大学と同等以上の大学ということになります。もちろん相手も同じように考えますから、学生交流協定を締結しようとする大学間では、どうしてもどちらかの"片思い"のような状態になってしまう。たとえばハーバード大学などは、世界中の有力大学が学生交流協定を結びたいと考えている"高嶺の花"です。そういった世界のトップスクールとも研究者同士の交流は盛んに行ってきていますが、学生交流協定となると話は別です。したがって、アメリカの場合は比較的交渉しやすくレベルも遜色ない州立大学に絞っています。

村田:アイビーリーグなどアメリカの有力大学は、そのように世界中から留学生が集まるので、そもそもキャンパスがグローバル化しています。わざわざ海外に行く必要がないと感じる学生もいるのかもしれませんね。

古澤:そういう側面もあるでしょうね。また、アメリカの大学は公立でも授業料が高いので、海外留学で一年卒業が遅れると何百万円もの出費につながります。それで、そこまでの価値が留学にあるのかと親が難色を示す場合も多いようです。

村田:なるほど。

古澤:ですから、アメリカの学生の場合はせいぜい1か月ほどサマースクールに行って終わり、という場合が多いですね。たとえばスペインの大学に行き、観光地巡りなども楽しみつつ、ちょっとカリキュラムに参加して留学した気分になって帰る、というのが典型的なようです。

村田:そうなのですね。人気の高い有力校とは、どういった交渉を行うのでしょうか?

古澤:交渉に行くと「我々はすでに日本のいくつかの大学と協定を結んでいる。本学の学生がそれらの大学に留学できる枠は8人分あるが、2人しか応募がない。なぜ貴学を増やす必要があるのか?」などと言われることが多いのです。これに対しては、「それらの大学は、確かにいい大学だ。しかし、一橋大学はそれら以上にいい大学だし、留学生の満足度もとても高い。うちを加えるのはあなた方の利益でもあります」と言うようにしています。

村田:プレゼンテーションに際しては、どういったツールを使うのですか?

古澤:相手が知りたいのは、こちらがいかにしっかりした大学であるのかということ。リサーチ大学としても実績を挙げているところを、どれだけ伝えきれるかが勝負だと思います。もちろんさまざまなデータや大学の概要などは見せますが、最も重要なのは、一橋大学がいかに素晴らしい大学なのかを誠心誠意伝えることだと思います。自信を持って一橋大学のことを語れるのは、本学が優れた人材に恵まれているからです。それについてはつねに感謝しています。

村田:大学ランキングはやはり重要な指標なのでしょうね。

古澤:重要です。まずそれがチェックされますから。

村田:最近、日本の大学のランキングは、シンガポールや香港、台湾などアジアの大学にも追い抜かれるようになっています。ランキングを上げるには、国際ジャーナルに採用される論文数をもっと多くする必要がありますが、一橋大学のように社会科学系の学部だけで理系がない場合、やや不利な立場にあると感じています。

古澤:ランキングは上げる必要がありますね。村田副学長のご指摘のとおりだと思いますが、社会科学系でももっと論文を出していかなければならないでしょう。外国の大学では、戦略的に海外から優秀な研究者を多数招いて業績を高めている大学もたくさんあります。

人的つながりが
交渉成功の決め手

村田:そういった戦略的な取り組みも検討する必要がありますね。ところで、そもそも交渉相手にはどうやってアプローチされているのですか?

古澤:個人的につき合いのある研究者仲間が世界中の大学にいるので、まずはその人たちから担当者につないでもらいます。最終的に話し合いをする相手は大学全体の副学長だったり、社会科学部門の責任者だったりします。

村田:うまく運んだ交渉で、印象に残っているケースはありますか?

古澤:フランスのトゥールーズ大学のケースです。蓼沼学長の元教え子が、そこで助教授として働いています。大変優秀な人です。その人を通じてまずは経済学部の国際担当者につないでもらいました。私はその担当者に一言、「一橋大学がどれだけ優れた大学であるかは、そこの卒業生であるあなたの同僚を見ればよく分かるでしょう?」とメールしただけです。それで話がとんとん拍子に進みました(笑)。

村田:素晴らしい(笑)。

古澤:最終的に交流協定の締結が決まったのも個人的なつながりのおかげだと言えます。交渉開始直後、別件で来られたトゥールーズ大学の副学長が国立に寄ってくれました。その方と話し始めたとたんに意気投合し、会合がとても盛り上がったんです。彼が国立を出る頃には交流協定の締結が決まっていました。

村田:良いお話ですね(笑)。逆に、悔しい思いをされたケースもおありでしょう。

古澤:あるアメリカの大学で、「一橋大学は日本で某大学の次ぐらいに入学するのが難しい」と話したら、とても驚かれました。つまり、本学は相手に認識されていなかったということです。知名度がまだまだなのは、本学の課題です。そもそも一橋大学には優秀な研究者や学生が集まり、キャンパスも美しく、施設や設備も整っています。一橋大学の魅力をもっと高め、世界中の人に認知してもらいたいと思っています。

村田:なるほど。

古澤:実力はあるのですから、その実力に見合った知名度も国際的に得ていく努力をする必要があると思います。先ほどの論文の話ですが、世界で認めてもらうためには英語で書くことが不可欠です。学問の性質上、経済学部は国際化しやすいので、すでに論文は英語で書くことが当然という状況になっています。日本語で論文を書き、日本で研究成果を発表するのが当然だと考えられている分野があるのも承知していますが、より多くの分野で、より多くの研究者が英語で研究成果を発表するようになって欲しいと思っています。

村田:確かにそうですね。そして、そのような古澤先生のご尽力もあって、本学の学生交流協定は増える一方です。学部に関しては、現在73協定になりましたね。全般的にどういった状況でしょうか?

古澤:前述のとおり、アメリカの大学は総じてハードルが高いのですが、ヨーロッパの大学は昔から積極的です。また、中国や韓国、東南アジアの大学も増えています。先ほどの"片思い"の話ではありませんが、アジア各国には「日本の一橋大学で学びたい」という学生は多い反面、アジアの大学を留学先に選ぶ一橋大生はそれほど多くありません。しかし、中国の大学でも英語による質の高い教育を受けることができるようになってきています。今はあちらからの入超ですが、5年後はどうなっているか分かりません。アジア諸国も急速に進歩していますから、アジアの大学はこれからますます重要なパートナーとなってくるでしょう。

不可欠な"キャンパス・
インターナショナリゼーション"

対談中の古澤教授

村田:これまで、日本人学生が海外に出る話をしてきましたが、一方でキャンパスに外国人留学生を招き、学内のグローバル化によって多様性のある環境をつくる"キャンパス・インターナショナリゼーション"という方法もあります。これについては、どうお考えでしょうか?

古澤:世界的に、そうした考え方を意識的に取り入れる大学が増えていますね。キャンパス・インターナショナリゼーション先進国のアメリカでさえ、ケネディ大使が「日米間の留学生を倍増させる」と掛け声をかけているほどです。しかし、一橋大学は、学生の送り出しばかりに熱心で、キャンパス・インターナショナリゼーションはあまり意識してこなかったのではないでしょうか。

村田:特に近年は先述のとおり韓国や中国などアジア諸国からアプローチしていただく機会が増え、現在ではそれらの国々を中心に700人以上の留学生を迎えていますね。

古澤:確かにそれなりの数の留学生がいますね。しかし、個人的にはキャンパス・インターナショナリゼーションについても、もっと意識的に取り組む必要があると思います。

村田:たとえば、どういったところに問題を感じていますか?

古澤:教職員の国際化を進めるべきだと思います。今いる外国人教員はほぼ全員が任期つきで、コアメンバーにはほとんどいません。それではどうしても日常的な国際感覚が希薄になると思うのです。事務部門の国際化も必要です。

村田:確かに、留学生を増やしていくと、迎え入れる宿舎が足りなくなったり、学生が提出する書類も英語版を用意する必要が出てきたりしますね。

古澤:異質な考え方や価値観は受け入れたくないといった壁はないと思うのですが、一律にキャンパス・インターナショナリゼーションを推進しようというふうにはなかなかいかないでしょう。たとえば、授業は日本語で教えるのが良いのか英語にすべきなのかはそれぞれの先生によって考え方が違います。

村田:「日本の法律を日本語で教えるからこそ意味がある」といった考え方もあります。

古澤:外国人教員を増やすにしても、学内運営上困ることが出てくると思います。仮に外国人教員が3分の1にまでなったら、教授会は日本語でいいのか、英語でやらなければならないのか。お知らせはいちいち二か国語で行う必要があるのか、等々。しかし、そういったハードルがあるとしても、「だからキャンパス・インターナショナリゼーションの推進は難しい」とあきらめてはいけません。個人的には、キャンパス・インターナショナリゼーションは不可避の流れだと思いますので、難しいからこそ早くから積極的に対応し、国内の先頭を走るくらいであるべきではないでしょうか。

村田:外国人教員の対応としては、たとえば学内運営にはノータッチで構わないようにすると割り切れば、教授会の英語化問題はクリアできるとは思います。しかし、それ以前にそもそも教員が学内運営に割くエネルギーを削減し、より研究や教育に振り向けるようにする必要があると思います。

古澤:そのとおりですね。経済学部では、頻繁に世界のジョブ・マーケットに出かけていき、面接して優れた人材を採用しています。結果的に日本人になることも少なくありませんが、そもそも国際マインドを持った人しか応募してきませんので、そういった人を学内に増やすことで周囲を刺激するというアプローチも必要だと思っています。

一橋大学のグローバル人材
育成プログラムについて

対談の様子2

村田:ご指摘のとおりですね。ところで一橋大学は、LSE(London School of Economics and PoliticalScience)との間で「一橋・LSEレクチャーシリーズ」という研究交流の仕組みを持っています。古澤先生はその企画運営をしばしば担当されていますが、その経緯や今後の方向性について教えてください。

古澤:LSEは世界屈指の社会科学の総合大学であり、同じコンセプトの一橋大学とは学長同士の親交もあって多面的な協力関係にあります。クレイグ・カルホーン学長には、昨年の本学の入学式で講演していただきました。私は、LSEの東アジア部門を統括しているブレンダン・スミス氏のカウンターパートとして個人的な関係を構築しているのですが、2人でよくどのような協力が一橋大学とLSEの間でできるか話し合ってきたわけです。「一橋・LSEレクチャーシリーズ」の活性化は、アジアに出張に来たLSEの先生を、彼が積極的に私に紹介してくれることで実現しました。今年は2回開催しましたが、1回目はイギリスのEU離脱問題、2回目はアメリカ大統領選挙をそれぞれテーマに、タイムリーで興味深い話が聞けました。これらは無料で一般公開したわけですが、多くの方にご来場いただき、非常に有意義な取り組みになりました。

村田:一橋大学では、2013年度から文部科学省「グローバル人材育成プログラム」事業に採択されたグローバル・リーダーズ・プログラム(GLP)が、商学部の「渋沢スカラープログラム」(SSP)と経済学部の「グローバルリーダーズプログラム」(GLP)として始まり、2年進学時にそれぞれ15人程度の学生を選抜して、世界で活躍できる人材を育成することを目指しています。このプログラムはそれを受講している本人にとっても大きな意味を持つと思いますが、受講していない学生にも大いに刺激になっていると思います。2017年度からは法学部、社会学部でも本格的にGLPが始まります。さらに、最優秀の学生を本学が学費つきでLSEやオックスフォード大学、ケンブリッジ大学、ハーバード大学といった世界最高峰の大学に送り出す「グローバルリーダー育成海外留学制度」もあります。古澤先生はこれらの取り組みをどのように評価しているでしょうか?
また、今後どのようにこのプログラムを発展させていったら良いと思われますか?

古澤:これらの制度には直接的にタッチしていませんが、私のゼミにもGLPに選抜された学生がいて、すでにリーダーシップを発揮してくれています。ほかの学生も確かにかなり刺激を受けているようですね。法学部、社会学部にも導入されるのは大変良いことだと思います。「グローバルリーダー育成海外留学制度」も、向上心の高い学生にとっては良い目標になるのではないでしょうか。こうしたエリート教育も重要だと思いますが、私としてはもっと多くの一橋大生に語学力を高めてもらいたいと考えています。

村田:おっしゃるとおり、国際交流を進めるうえでは語学力、特に英語力が必要です。特に一橋大生には、将来はグローバルステージで仕事をすることになる人が多いでしょう。学生が英語を学ぶうえで大切な点はどんなことだとお考えでしょうか?

英語力の向上で
世界が拡がる意義

対談中の古澤教授2

古澤:英語はビジネスや学術交流のシーンで支障なく話せる必要がありますので、学生のうちから準備しておかなければなりません。商学部、経済学部を中心に英語による授業が100科目程度に及んでいるなど、英語で学べる授業が増えました。これらの授業を履修する学生も増え、良いトレンドにあると思っています。私は10年ほど前から英語で教えていますが、当時は「(日本人が日本人相手に)英語で教える意味が不明」といった学生からの授業評価もありました。確かに、始めた当時は履修者がガタッと減りましたから(笑)。最近はそうした声も聞かなくなりました。英語による授業は経済学部でもまだ25%程度だと思いますが、個人的にはすべて英語による授業にしても良いぐらいに思っています。

村田:一橋大学にはもともと英語力の高い学生も多く入学してきますから、それを伸ばしてあげる環境も不可欠ですね。

古澤:海外留学が手の届く範囲にあり、キャンパスには海外からの留学生が多くいますから、学生たちは海外に興味を持ち、英語にもポジティブになっているのではないでしょうか。

村田:古澤ゼミは学生からの人気が高いそうですが、どのような方針で運営しているのでしょうか?また、学生たちはどのようにゼミ活動をしているのでしょうか?

古澤:人気があるかどうかは分かりませんが(笑)、一から十まですべて英語です。ゼミ生の採用面接も英語です。「来週は休み」といったお知らせも全部英語。どこまで伝わっているか、心配になることもありますが(笑)。

村田:さすがに徹底されていますね。

古澤:私は、英語で話すことに不自由を感じなくなってから、世界が大きく拡がりました。英語は道具に過ぎませんが、その道具を使いこなせれば、世界中の人と臆することなく会話や議論ができます。物事を考える際の引き出しの数が比べものにならないほど増えました。

村田:私はとてもそんなレベルではありませんが、おっしゃることはよく分かります。

古澤:ゼミ中に雑談している学生には「となりと話すんだったら、それも英語でするように」と言っています。英語で話せるようになるだけではなく、日本人同士で英語を話すことにも慣れて欲しいと思っています。外国人も混じっている輪の中で、日本人同士が日本語で言葉を交わすシーンに出くわすことがあります。これからますます増えてくるだろうと思われるそのようなシチュエーションで、そこにいるすべての人が理解できる言葉で話をする習慣を身につけるのはとても重要だと思います。

グローバル化に向けた
さらなる取り組みの必要性

対談の様子3

村田:なるほど。グローバル人材にとっては不可欠の視点ですね。一橋大学では、古澤先生がおられる経済学部に加えて商学部が頑張ってくれたおかげで、法学部と社会学部にもその恩恵が及んでいるところだと思います。そこで、今後、大学全体としてどのようにグローバル教育を強化していくべきか、お考えをお聞かせください。

古澤:まずは、先ほども述べた教員の国際化に着手するのが良いと思います。それにより、英語による授業を増やしたいですね。そうすることで、たとえば中国や韓国のより優秀な留学生も取り込むことができます。留学を考えているアジアの学生は、まずそのために何語を学ぶべきか考えます。そのとき当然、日本語よりも、つぶしが効く英語を選ぶ傾向があります。そして欧米の大学に出願するわけです。そうした層の学生に、一橋大学を出願先に加えてもらいたいと思っています。本学に出願する学生のプールが拡がれば、結果的にこれまで以上に優秀な学生が入ってくるでしょう。もちろん、本学の日本人学生にももっと海外に行ってもらいたいと思います。そのためにも、交換留学先を増やしていきたいです。

村田:海外へのプロモーション活動も必要ですね。

古澤:そのためには、ランキングを上げることも必要ですし、個々の教員がこれまで以上に海外に出て、一橋大学の名前を世界の研究者仲間に知ってもらうことも有効です。

村田:世界中にある如水会の拠点にも大いにご尽力いただいていますね。ありがたいことです。

古澤:私自身も、如水会北京支部に温かく迎えてもらったことがあります。一橋大学は間違いなくグローバル人材の育成に尽力していますが、しかしまだまだやるべきことは残っています。海外での学長会議に参加し、国境を越えた大学間協力の議論を聞いているうちに、「一人ひとりの学生を一つひとつの大学で教育する時代ではなくなってきた」と思うようになりました。大学は、ローカルな教育に携わる大学と、世界的な大学教育に組み込まれる大学に二分化されていくと思います。一橋大学は後者の大学として、世界の人を世界の大学と共同で教育し続けていきたいと思います。

村田:同感です。本日はありがとうございました。

(2016年10月 掲載)