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20周年を迎えた四大学連合:さらなるバージョンアップをめざして

  • 東京医科歯科大学長田中 雄二郎
  • 東京外国語大学長林 佳世子
  • 東京工業大学長益 一哉
  • 一橋大学長中野 聡

2021年7月1日 掲載

2001年3月、東京医科歯科大学、東京外国語大学、東京工業大学、一橋大学によって結成された「四大学連合」。20周年を迎えた今、多様化するグローバル社会の中で、その意義と役割はますます重要なものとなっている。そこで、四大学のトップがオンライン上で会し、各大学の特徴や本連合の意義、今後のビジョンなどについて、大いに語り合った。

田中 雄二郎氏 プロフィール写真

田中 雄二郎(たなか・ゆうじろう)

1980年東京医科歯科大学医学部医学科卒業。1985年同大学大学院医学研究科博士課程修了。同大学医学部附属病院助手等を経て、2001年同大学医学部附属病院総合診療部教授に就任、2006年同大学大学院医歯学総合研究科教授に配置換。同大学学長特別補佐、医学部附属病院副病院長、病院長、理事・副学長を歴任し、2020年東京医科歯科大学長に就任、現在に至る。

林 佳世子氏 プロフィール写真

林 佳世子(はやし・かよこ)

1981年お茶の水女子大学文教育学部史学科卒業。1984年同大学大学院人文科学研究科修士課程修了。1988年東京大学人文科学研究科博士課程(東洋史学専攻)退学。東京大学東洋文化研究所助手を経て、1993年東京外国語大学外国語学部講師に就任。同大学助教授、教授を経て2005年学長特別補佐、副学長、理事・副学長を歴任し、2019年東京外国語大学長に就任、現在に至る。

益 一哉氏 プロフィール写真

益 一哉(ます・かずや)

1977年東京工業大学工学部電子物理工学科卒業。1982年同大学大学院理工学研究科電子工学専攻博士後期課程修了。同年東北大学電気通信研究所助手、同研究所助教授を経て2000年東京工業大学精密工学研究所教授に就任。東京工業大学統合研究院教授、同大学ソリューション研究機構教授、フロンティア研究機構教授、科学技術創成研究院教授、科学技術創成研究院長を歴任し、2018年東京工業大学長に就任、現在に至る。

中野 聡氏 プロフィール写真

中野 聡(なかの・さとし)

1983年一橋大学法学部卒業。1990年一橋大学社会学研究科博士後期課程単位取得退学。1996年社会学博士(一橋大学)。研究分野は地域研究、アメリカ史、フィリピン史、日本現代史。1990年神戸大学教養部講師、同大学国際関係学部講師、助教授を経て、1999年一橋大学社会学部助教授、2003年同大学社会学研究科教授を歴任。2014年同大学社会学研究科長、2016年同大学副学長を経て、2020年一橋大学長に就任。

真に国際競争に耐えうる研究教育体制の確立のために

中野:本日は、一橋大学の広報サイト『HQウェブマガジン』の記事ということで、私が司会を務めさせていただきます。よろしくお願いいたします。

2001年3月に東京医科歯科大学、東京外国語大学、東京工業大学、一橋大学の間で「四大学連合憲章」が締結されました。その冒頭部分には、次のとおり連合の目的が謳われています。

「21世紀を迎えた今、グローバル化された社会において、真に国際競争に耐えうる研究教育体制を確立することを基本的理念とし、東京医科歯科大学、東京外国語大学、東京工業大学及び一橋大学は、ここに、四大学連合を結成する。四大学連合は、連合を構成する各大学が、それぞれ独立を保ちつつ、研究教育の内容に応じて連携を図ることで、これまでの高等教育で達成できなかった新しい人材の育成と、学際領域、複合領域の研究教育の更なる推進を図ることを目的とする」

まさしく、現在の国立大学が課題として意識していることを20年前に打ち出して発足させたことが分かります。日本の国立大学は、その後法人化され、指定国立大学法人制度も始まって、さらなる改革が求められています。そうした中で、本連合もいわば"四大学連合2.0"とでもいうようなバージョンアップを求められているのではないでしょうか。そこで、ここでは四大学連合をこれからどう深化させていくかについて語り合っていきたいと思います。

その前に、各大学の特色について順番にお話しいただきたいと思います。堅い話ばかりではつまらないので、"キャンパス自慢"も加えてください(笑)。では50音順で、東京医科歯科大学の田中学長からお願いします。

国立大学では唯一の医療系総合大学:東京医科歯科大学

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田中:東京医科歯科大学は、1928(昭和3)年に東京高等歯科医学校として創立されました。特色としては、医学部には医学科とともに看護学専攻や検査技術学専攻が、歯学部には歯学科とともに口腔保健衛生学専攻や口腔保健工学専攻があり、医師や歯科医師だけでなく看護師、臨床検査技師、歯科衛生士、歯科技工士などの養成を行う、国立大学では唯一の医療系総合大学であることです。

学生数は学部が1,500人、大学院が1,500人の計3,000人です。学部では学生数に対する教員比率の高さを生かした、質の高い教育を提供しています。また、大学院においては、外国人留学生も多数学んでいます。QSの世界大学ランキングにおいては、医学、歯学分野共にランキング上位を維持している国内で唯一の存在です。

とはいえ、四大学の中では一番の小規模ですね。一方、予算は約660億円と最多ですが、これはひとえに病院収入が400億円程度あるためです。しかしながら、大学も病院も支出は多いですから、決して裕福なわけではありません。

本学は、第4期中期目標期間からの指定国立大学法人に指定され、『世代を超えて地球・人類の「トータル・ヘルスケア」を実現する』というビジョンを打ち出して、医学的・社会的な脅威に対して速やかに対応するという指針を掲げました。その達成のために取り組もうとしている重点研究領域や、ターゲットとしている人材育成には、異分野融合研究のネットワークの形成によって果たされる部分が大きいと考えています。今後も医療系の大学として社会をリードしていきたいと考えていますが、医療系という一つの分野に特化しているという強みがある半面、弱点もあると思います。そこは四大学に共通することでありましょうから、四大学連合で補い合っていければと思っています。

キャンパス自慢としては、まず、将軍秀忠公も愛飲したという銘水「御茶ノ水」を活用する、地下水膜ろ過システムがキャンパス内にあることが一つ。二つ目は、江戸時代の石や木、クジラの骨などからつくった入れ歯が展示されている博物館が歯学部にあることです。三つ目は、土地が狭いので上に伸ばそうと建てた、125.95mの高さを誇るM&Dタワーですね。クリスマスの日は、部屋のライトをクリスマスツリーの形になるように灯す企画も行います。

中野:知らないことばかりでした(笑)。M&Dタワーの用途は何ですか?

田中:教育研究棟です。一部を企業との共同研究用に貸し出しています。

中野:ありがとうございました。次に東京外国語大学の林学長お願いいたします。

言語を基にした世界諸地域の地域研究に強み:東京外国語大学

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林:東京外国語大学は、1857(安政4)年に幕府が開校した蕃書調所が起源で、その後東京外國語學校、東京外事専門學校、東京外国語大学と名称を変えてきました。1885(明治18)年には東京商業学校、つまり今の一橋大学に統合され、1899(明治32)年に分離独立するという歴史もあります。なお、英語名称の"Tokyo University of Foreign Studies"は、直訳すると"東京外国学大学"となります。英語の方が実体をよく表していますので、それとあわせる名称に改名すべきとの意見がずいぶん前から浮かんでは消えてが続きましたが、結果的に変わらずに来ています。

明治時代、外国の文化を吸収すべくまずは語学を教えようとスタートし、戦時中は海外に進出するために利用され、戦後の高度成長期には商社マンに代表される、海外とのビジネスに活躍する人材を育成するというように、国益に即した人材を養成してきた歴史があります。

現在は、諸外国とつながる中で多言語化・多文化化している日本において、世界14地域28言語を教える大学として人々の共生に役立つ存在であると自負しています。学問分野としては、言語学のほかに文化人類学や歴史学、政治学、社会学などを通じて世界の諸地域を研究するという特色があります。また、私はトルコを研究していますが、教育連携のプロセスではトルコの日本研究者をカウンターパートとしているように、世界中の日本研究を束ねる役割も本学が担っています。このため、国際日本学部や国際日本研究センターも擁しています。

学生数は4,300人で、うち大学院は510人程度と少数です。

このほど、オンライン授業を他大学の学生にも公開しましたが、バスク語やウクライナ語といった言語の授業に多くの学生が集まりました。本学でしか提供できないコンテンツをこういった形で提供していける時代に入ったことを実感しました。今後、さらに拡充させていきたいと考えています。

キャンパス自慢としては、「タフモニュ」というピンク色をメインにあしらったオブジェでしょうか。学内の随所にこの色が使われていますが、女子学生が多いからではありません(笑)。この色は、正式には「牡丹色」で、大正期のボート部のカラーがスクールカラーとなったものです。

中野:ありがとうございます。言語教育及び言語を基にした地域研究においては、東京外国語大学のように各地域の研究者を擁する大学のある国はそうそうありません。その点で、日本には強みがあると思います。

次に、東京工業大学の益学長、お願いいたします。

日本の科学技術の発展や産業創造に資する:東京工業大学

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完成予想図はNTTUD・鹿島・JR東日本・東急不動産グループより提供

益:東京工業大学は1881(明治14)年に東京職工学校として蔵前(現在の台東区蔵前)に創立されました。職工を養成するのではなく、職工養成や産業創出に携わる人材育成を目指していたわけですが、なかなか理解されないので、名は体を表すとばかりに1890(明治23)年に東京工業学校に改称されました。その後、東京高等工業学校に変わり、1923(大正12)年の関東大震災で全焼すると、翌1924(大正13年)年に現在の大岡山にキャンパスを移します。そして1929(昭和4)年に東京工業大学となりました。

大岡山は当時の荏原郡にあり、荏原郡と蔵前の土地を交換する際に本来は現在よりもはるかに広い面積だったところ、「そんなにあっても使えない」と遠慮したという説が残っています。もし本当なら、何で遠慮なんかしたのか、と思います(笑)。

本学は、理工学に関わる技術者や研究者を養成する大学として、学士課程に毎年1,200人が入学し、修士課程の1,800人は学部からと外部からが半々です。博士後期課程は毎年500人弱が入ります。全体では学部は4,900人、大学院は5,500人という規模です。

歴史を紐解くと、理工系の大学として、いわゆる"専門しか分からない人"にならないように1946(昭和21)年から人文・社会科学も学べるようにし、心理学者として著名な宮城音弥先生の授業がスタートしています。当時からリベラル・アーツ教育にも力を入れ、現在では博士後期課程にも加えています。専門性を究めるだけでなく、志を持った科学技術者を育成することが狙いです。

キャンパス自慢ですが、田町キャンパスを再開発し、2031年頃に地上36階建てのビルを竣工させる計画を進めています。大学が自らの教育研究活動に使うのは4フロアで、加えて他大学等にも入っていただく、インキュベーション施設や国際会議も開催できるホールも整備する予定です。諸大学も巻き込んで、真に日本の科学技術の発展や産業創造に資するインキュベーション拠点にしたいと思っています。今年140周年を迎えましたが、150周年に向けた環境整備をこれから10年で行おうとしています。

土地を借りてビルを建設する民間事業者では、こうした入居費用を含む賃貸オフィス等の収入で再開発費用を賄っていくスキームを取るわけですが、指定国立大学法人制度の創設を含めた国立大学法人法改正に伴って、こうした土地等の貸し付けが可能となったことから計画しました。

田中:どれくらい前から計画してきたのですか?

益:前々から、田町キャンパスにある附属高校の移転問題や土地の利活用についての議論がありましたが、規制や予算の都合などで進展していませんでした。そんな中2017(平成29)年に指定国立大学法人制度が創設され、調べてみると土地の貸付なども事業として行えることが分かり、にわかに計画づくりが本格化したのです。そして、本学のOBでディベロッパー出身者を副学長として迎え、専任者としてプロジェクトの進行を任せました。田町は羽田や新幹線の停まる品川から近い好立地ですが、よくぞここに土地を残してくれたと感謝しています。

国際的に活躍する経営人材を養成:一橋大学

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中野:うらやましい限りですね(笑)。さて、最後に一橋大学の特色をお話しさせていただきます。

本学は1875(明治8)年に開設された商法講習所が始まりです。一番の目的は、国際的に活躍する経営人材の養成でした。そこで、早くから現実の企業経営や経済・社会のあり方に立脚した、イデオロギーにとらわれない日本発の経済学の確立を志す学問の伝統を築いてきたように思います。また、経営人材を養成するうえで、深い教養の醸成や語学教育を重視してきたのも開学以来の伝統です。1949(昭和24)年の学制改革に伴う新制国立大学として一橋大学と改称し、商学部、経済学部、法学社会学部を擁する社会科学の総合大学となりました(法学部と社会学部は1951(昭和26)年に分離)。

規模としては、学部4,000人、大学院2,000人の計6,000人です。

キャンパス自慢は、いつも同じでつまらないと言われそうですが、兼松講堂を中心とする景観でしょうか。1923年の関東大震災で神田キャンパスが全焼したことをきっかけにキャンパス移転を構想し、雑木林であった国立の地に兼松講堂を建てたのは1927(昭和2)年ですから、当時としては凄いスピード感であったと思います(1930年に全面移転)。

その兼松講堂で、コロナ禍の今年、卒業式と入学式を挙行しました。学部ごとに分け、当該学生のみで時間を短縮する形で開催に漕ぎつけました。学生は非常に幸せそうで、やって良かったと思います。これができたのも、兼松講堂があるおかげです。

一橋大学の資産を活かして企業や行政と連携を深め、価値を高める

中野:では次に、第4期中期目標期間を中心に、今後のビジョンについて、四大学連合のこれからの取組を絡めてお話しいただきたいと思います。まずは本学の見解からお話しします。

第4期に向けた国立大学改革では、国立大学こそが日本を改革していくドライビングフォースになるべきだというキーワードが出ていると思います。大学改革はともすれば受け身になりがちですが、改革で自身が変わることがどれだけ世の中の役に立つかを積極的に示していこうという意味で、良いメッセージだと受け止めています。一方で国立大学は経営体として自主財源の強化に懸命に取り組んでいますが、国民の負託を受ける存在でもあり、とりわけ国民に向けて社会に貢献する姿を見せる必要があることも強く感じています。そこで、第4期の方針を三つ打ち出しました。

一つ目は、リカレント教育などを中心に、一橋が有する教育研究資産を社会に開放して社会との好循環をつくっていくことです。キーワードは"オープン化(開放)"でしょうか。

二つ目のキーワードは、多様性の強化です。人文社会科学系の課題として、国際共著論文が少ないことが指摘されていますが、たとえば経済学などの領域では若手の研究者を中心に、コロナ禍のような喫緊の課題をめぐって出身国やジェンダーを超えた共同研究を素早く組織して、データを取って論文を作成するといった動きがあります。このようなグッド・プラクティスを社会科学の他領域に拡げていくためには、多様な研究者が集うホスト・コミュニティとしての大学の機能を強化してこうしたアウトカムをしっかりサポートする場になっていく必要があると思っています。

三つ目のキーワードは"つながる"です。まさしくこの四大学連合も含め、一橋大学の教育研究資産を活かして企業・行政や他大学・研究機関と連携を深め、本学の価値を高めていきたいと考えています。

では、順番を逆にして益学長、お願いいたします。

理工系の総合大学として、専門力だけでなく、リベラル・アーツもさらに強化

益:国や社会が国立大学に求めている改革を、東京工業大学ではほとんど全て取り組んできたとの自負があります。そこで、第4期のテーマとして何をやっていくか。理工系総合大学としてベンチマークすべきはMIT(米国マサチューセッツ工科大学)だと皆さん言いますが、MITとは学生数こそ近いですが、予算規模は10倍も違います。むしろ、学生当たりの予算規模が近いジョージア工科大学のほうがベンチマークできる。そのほか、インペリアル・カレッジ・ロンドンやメルボルン大学も近いです。そこで、国際アドバイザリーボードをつくり、そういった大学の先生にアドバイザーになってもらい、よく議論しているところです。こうした世界的にトップレベルの理工系大学と伍して教育や研究、さらにインキュベーションも行っていくことが課題です。そのために、理工系大学として専門力を深めることは当然で、昔からきちんと行っているリベラル・アーツもさらに強化していく必要があります。

そもそも、理工系に閉じていていいのか、という疑問があり、理工学の立場から理工学を再定義してみたいという大それた考えも持っています。文理融合や文理共創をより意識するとともに、アイデンティティである理工系の専門力を深めることも忘れずに取り組んでいこうということです。多様性は必須であり、その点でも四大学連合などの場で広い視野を持つことが重要であると考えています。

中野:一橋大学が以前からベンチマークしてきたのは、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスでしたが、今はシンガポール・マネジメント大学などもピックアップしています。比較的新しい大学ですが非常に元気があり、ランキングも急上昇していて、その成長力を学びたいと考えています。

では次に林学長、お願いいたします。

学内で完結せず、複数のプログラムを組み合わせた学士課程をつくる

林:ロンドン大学東洋・アフリカ研究学院(SOAS)などとは長年にわたり協力関係にありますが、そもそも「外国語大学」というカテゴリーは、アジアに特徴的なので、本学にはベンチマーク先を持つという概念がさほどありませんでした。非常に参考になります。

第4期のビジョンとしては、学部教育は一大学で完結せず、連携に基づく複数のプログラムを組み合わせた形の学士課程をつくっていく時代であろうと考えています。たとえば、海外の大学と共同して一つのプログラムをつくる。ダブルディグリーなどの制度がありますが、もう少しフレキシブルな教育プログラムを分野ごとにつくっていくことが、次の課題であろうと思います。最近では国内の地方の大学と多文化共生教育コンソーシアムをつくりました。四大学連合でも、教養教育などで協力できる仕組みづくりが重要だと思っています。

一方、学生にとって大学とはどういう存在かを考えると、第4期には学習面だけでなく、心身の健康をケアする、学びをコンサルテーションするというサポート体制を整えていくことが、大学としてのより強い責務となると考えています。

中野:多様性に富んだコミュニティづくりのホストとなっているところは、東京外国語大学の先進性の表れだと感じます。また、学生のメンタルヘルスを含めたケアも重要で、こうしたノウハウも四大学連合で共有していきたいと思います。

次に、田中学長、お願いいたします。

世代を超えて人類のトータル・ヘルスケアを実現する

田中:東京医科歯科大学のベンチマーク先としては、インペリアル・カレッジ・ロンドンを意識していますが、今国家間のヒエラルキーは崩れ始めているのではないかと思います。小国でもITを整えて先進国を凌駕するケースが出ていますね。もうG7やG20を見ていればいいという時代ではないと思います。コラボレーションを行う海外の大学も、もっと範囲を広げて求めるべきではないでしょうか。その際は、多様な言語文化圏の大学とネットワークをお持ちの、林先生率いる東京外国語大学の協力・情報提供に期待したいところです。

東京医科歯科大学は、前述のとおり指定国立大学に指定される際に『世代を超えて地球・人類の「トータル・ヘルスケア」を実現する』というビジョンを掲げました。「トータル・ヘルスケア」とは、医学と歯学に文理融合を絡めた広い概念です。この概念を社会実装していくうえで、四大学連合というコミュニティを持っているのは非常に大きいことだと思います。コロナ禍で判明したように、日本の医療は多くの問題を抱えています。これを変えていくために、本学が提案すべきことがあると思いますが、一大学でできることではありません。多様な学問を擁するこのコミュニティの力が必要です。

四大学連合は、物理的な距離はあっても、今はこうしてオンラインでミーティングができるようになりました。今後は、トップだけでなく、教員や学生も視野を広げるため、四大学連合での相互交流を一層促進させる必要があると感じますね。

四大学連合の課題と展望

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中野:四大学連合の結成以来、積み重ねてこられた成果の一つが「複合領域コース」であろうと思います。現在、海外協力、総合生命科学、医用工学、文理総合など9つのコースが運営されていますが、極めて先駆的で斬新な設計だと思います。これは四大学連合でなければできなかったことでしょう。

一方で、受講者に偏りがあるのは積年の課題で、まだまだその成果が全面的に開花した、とまでは言い切れないところがあるように感じます。各大学ともに学期制度が多様化・複雑化して時間割の持ち方も異なる中、難しい面もあります。しかし、コロナ禍を奇貨としてオンラインやオンデマンドの授業を実践し、打開点も見えてきました。たとえばオンラインを主体とするコースに各大学でのスクーリングを1回組み込むなどすれば、学生の関心も深まるかもしれません。実際に、一橋大学から東京医科歯科大学に進学する学生も出ています。どう工夫すれば、教員にあまり負担をかけず門戸を広げていけるのか、考える必要があるでしょう。

もう一つ、これまでの四大学附置研究所による文化講演会などのセミナー開催に加えて、昨年は、東京医科歯科大学のリーダーシップで「四大学連合ポストコロナ社会コンソーシアム」を組むといった動きが出てきました。ポストコロナ社会では、まさしく人文社会諸科学と医療、工学の融合によるソリューションが求められていて、恰好の研究課題が提示されていると思います。このコンソーシアムが最初のひな型になると思いますが、今後、どう深めていこうと考えていますか?

オンラインの活用と、複合的な"Give&Take"を

田中:どの大学がどの程度得をするかといったことを考え出すとうまくいかないと思います。第4期中期目標期間は「社会的インパクト評価」に応じて運営費交付金を配分する枠ができると報道されていましたが、大学同士が連携していかにソーシャルインパクトを出せるかを最重視すべきでしょう。そこで、「ポストコロナ」は東京医科歯科大学が音頭を取る、あるイシューにおいては東京工業大学がメインでほかはお手伝いをする、といったように、テーマによってイニシアチブを取る大学が変わっていいと思います。お互い、国立大学という共通基盤を持つもの同士、これを活かしてどう社会に貢献していくかを考えるべきだろうと思いますね。

林:連携を育んでいくためには、それぞれの大学にどんな人がいて何ができるのかを知らなければなりません。「ポストコロナ」のように多くの人が参加するコンソーシアムでは、まずお互いに知り合い、その上で密に議論していける場を四大学が企画してつくっていければいいですね。

「複合領域コース」を充実させていくには、前提としてオンラインやオンデマンドで行うと決めたうえで、内容や運営をどうするか詰めていけばいいのではないかと思います。

益:2年ほど前に「複合領域コース」を履修した学生と対話した際、学生は「午前中に国立の一橋大学に面白い講義を聞きに行ったが、その後大岡山に戻ると食事をする時間がない。時間割を何とかしてほしい」と言われました。その時、オンラインを使えばいいと感じましたが、今まさにそういう時代になりました。それぞれの学生が受講しやすい形を詰めていければいいと思います。四大学の学生が一緒に受講できることが重要なので。

研究面では、東京医科歯科大学の研究所とネットワーク型の研究活動を行っていますが、こうした活動は続けていきたいですね。

東工大では、国の事業である「卓越大学院プログラム」として「マルチスコープ・エネルギー卓越人材」が採択されました。このプログラムに、一橋大学の先生が7人も関わってくださっています。この場合は、本学は"Take"だけで、一橋大学には何も"Give"していません。一方、一橋大学が指定国立大学法人制度にエントリーした際、「ソーシャル・データサイエンス学部・研究科(仮称)」の設置を打ち出し、東京工業大学が協力することになりました。このように、あるところで100%"Take"し、別のところで100%"Give"する形でもいいと思うのです。四大学のいろいろな知恵や発想を組み合わせ、協力し合いながらそれぞれの描く未来に近づいていければいいですね。

中野:それぞれの大学がビジョンに向かって進んでいく際に、「この件は東京外国語大学に」「この件は東京医科歯科大学に」という様に、真っ先に頭に浮かぶのが四大学連合の意義だと思います。ぜひこれから連携を深めていきましょう。

本日はありがとうございました。