SIGMA:社会イノベーションへの貢献という志を共有するグローバル連携
2017年夏号vol.55 掲載
SIGMA 連携大学
ザンクト・ガレン大学(スイス)
1898年創立。本学と同様に商科大学をその前身とする公立大学。経営学部、人文・社会学部、ロースクール、金融学部、経済・政治学部の全5部局。本学とよく似た特徴を持ち、近年、成長が著しい大学として、本学にとってはベンチマーキング対象の大学の一つである。
ウィーン経済大学(オーストリア)
1898年、ハプスブルク帝国のエクスポート・アカデミーとして創立。欧州最大のビジネス・スクール。東西交流のクロスロードとしてのウィーンに位置し、国際ビジネスなどの分野で優れた成果をあげる。留学生数(全学生の約4分の1)もドイツ語圏で最大級。
パリ第9ドフィーヌ大学(フランス)
1968年創立。パリ都心の旧NATO司令部をキャンパスとする、ユニークな研究大学・大学院として急速に成長している。国際化への取り組みもフランス屈指である。
ESADEビジネス・スクール(スペイン)
1958年創立。経営・法律において高度な職業人の育成に貢献している。バルセロナ、マドリッド、ブエノスアイレスにキャンパスを有し、経営分野ではエグゼクティブ・プログラム、MBAプログラムも有する。
コペンハーゲン経済大学(デンマーク)
1917年創立。北欧を代表するデンマークでは最大かつ最高のビジネス・スクール。企業との連携・共同を積極的に進める。コペンハーゲン市内4か所にキャンパスがあり、学生数は2万人を超え、このうち留学生も4000人を超える。
中国人民大学(中華人民共和国)
1950年、中華人民共和国で初の研究大学として創立(前身は1937年創立の陝北公学)。人文・社会科学・経営学の分野で中国をリード。本学とは1990年以来の長い交流の積み重ねがあり、本学国際企業戦略研究科とともに世界トップの経営大学院のネットワークGNAMに参加。
シンガポール経営大学(シンガポール)
2000年創立とSIGMAで最も若い大学だが、シンガポール政府の肝いりでウォートン・スクールをモデルにつくられ、会計学、ビジネス、経済学、情報システム、法学、社会学の6学部を中心に急速に成長している。
ジェトゥリオ・ヴァルガス大学(ブラジル)
1944年創立。経営、法学、広範な社会科学全般にわたる南米・ブラジル屈指の研究大学・大学院。産官学連携、世界銀行など国際機関との連携にも積極的で、リオ五輪の招聘事業でも重要な役割を果たしたことで知られる。
強力な経営系学部・MBAコースと社会科学系の研究・教育力を持つ大学9校の国際的な連携が実現
2016年12月、一橋大学は、新たにグローバルな大学連携としてスタートした《SIGMA》に加わった。SIGMA(Societal Impact & Global Management Alliance)という名称は、大学が発信する知の社会的なインパクトを重視するとともに、狭義の経営管理を超えて社会・経済・政治・地球環境をも含めた広義のグローバルな領域におけるマネジメントをめぐる諸問題を考究しようとするスピリットを表現したものである。
参加校は一橋大学のほか、シンガポール経営大学(シンガポール)、ザンクト・ガレン大学(スイス)、コペンハーゲン経済大学(デンマーク)、ウィーン経済大学(オーストリア)、パリ第9ドフィーヌ大学(フランス)、ESADEビジネス・スクール(スペイン)、ジェトゥリオ・ヴァルガス大学(ブラジル)、そして中国人民大学(中国)の9校。
「各校には共通の特徴があります。第一に挙げられるのは、エグゼクティブ・プログラムを含めた強力な経営系学部・MBAコースを擁していること。それらをコアに持ちながら、社会科学系大学として幅広い研究・教育力があること。そして、世界的に高い評価を得ていることです」(中野聡副学長)
サステナビリティに直結するグローバル・マネジメントにおいて、Societal Impactをもたらす大学をめざす
SIGMAの母体となったのは《Alliance of Like-Minded Universities》である。このアライアンスは、上に挙げた9大学から一橋大学及び中国人民大学を除く7大学によって構成されていた。中野副学長が挙げた共通点を持つ、いわば世界各地の「よく似た同士=Like-Minded」の大学が、研究・教育面での交流と連携をいっそう強化し、世界における存在感を高めていくことをめざした試みである。学長会議などを定期的に行いながら結束を強めてきた同アライアンスがアジアに「Like-Minded」を求めた時、白羽の矢が立ったのが、一橋大学及び中国人民大学だった。すでに学生交流協定を締結していたシンガポール経営大学から、まずはオブザーバーとしての参加要請を受け、蓼沼宏一学長・中野副学長が2016年12月のアライアンスの学長会議に参加。その際、より強固な大学連合を9大学で新たに結成することで合意、《SIGMA》という名称が採択された。
「特に強調しておきたいのは、ここでいうマネジメントが、経営の領域にとどまらず、社会の、そして地球のマネジメントをも意味していることです。サステナビリティに直結するグローバル・マネジメントにおいて、社会的インパクト(Societal Impact)をもたらす大学をめざすという志を各大学が共有しているのです」(中野副学長)
では一橋大学がめざすSocietal Impactとはどのようなものか。それは本稿の最後に改めて中野副学長に説明していただこう。
"Value""Network""Strategy"をシェアしながら、SIGMA参加各校は学生・教員・職員の交流を展開
SIGMAという国際的な大学連携をもとに、研究・教育・大学運営などの面で、今後はさまざまな交流が進む予定だ。すでに決定している動きとしては、高齢化社会をふまえた医療経済・経営をめぐる諸問題についての、一橋大学・シンガポール経営大学・コペンハーゲン経済大学の3校によるWebinar(ウェビナー。スカイプによるコンファレンス)がある。3校の間で調整がついたら、他の大学にも参加を呼びかけることになっている。
アライアンス会議では、変化するメディア環境の中で大学におけるペダゴジー(教授・教育方法)のあり方について情報やノウハウを共有するセッションが開かれ、中野副学長も参加。国境を越えたファカルティ・ディベロップメントが進められている好例だ。
大学ベンチマーキング(比較対象大学を設定して自校の改革・向上に役立てること)が求められている現在、アライアンスは一橋大学にとってその意味でも重要だ。2017年はじめ、一橋大学はシンガポール経営大学やザンクト・ガレン大学などに教職員を派遣、教育はもちろん大学運営のノウハウについて各校の取り組みを吸収、その成果を学内で共有している。中野副学長は、「報告書を読むと、教員以上に職員が大きな刺激を受けて帰ってきたことが分かります」と語る。
ほかにもさまざまな交流の可能性が広がっている。SIGMA参加各校間でのダブルディグリー・プログラムや、インターネットを活用した合同授業、短期海外調査における学生交流、各校が持つインターンシップ・プログラムへの相互参加など。「卒業生の交流の強化」という点では、一橋大学がリーダーシップを発揮できる可能性が高い。世界中に広がる3万人を超える如水会のネットワークは、SIGMAの他のどの大学も及ばない資産だからだ。
このように各校の"Value""Network""Strategy"をシェアすることが、SIGMA参加各校の大きな発展につながると考えられる。
広い意味での社会の改善につながる社会イノベーションに貢献するために研究・人材育成の世界的拠点形成をめざす
SIGMAでの活動も含め、一橋大学がめざすSocietal Impactについて、中野副学長はこう語る。
「一橋大学は『社会イノベーションに資する知識創造と人材育成』を使命としています。AIやバイオなど、今後の発展が予想される領域では、コアとなる技術に加え、『先端技術を社会の中でどう管理し活用して社会の諸課題の解決や革新につなげていくのか、そのための合意をどのようにつくり出すか』という視点が欠かせません。そのためには、多彩な分野の社会科学や人文科学をも含めた幅広い領域の知見と教養を総合し活用することが必要になるのです。広い意味での社会の改善につながるシステム変革=社会イノベーションのために、諸問題の解決に貢献する研究と人材育成を高い水準で行うことが、本学がめざすSocietal Impactです。そして、その志をグローバルに共有し、経営管理と社会科学を併せて学ぶ場を提供できるのがSIGMAであると言えるでしょう」(中野副学長)
(2017年7月 掲載)