すぐれた知性と豊かな感性で韓国と日本の相互理解を促進
- 一橋大学大学院言語社会研究科韓国学研究センター
2017年夏号vol.55 掲載
歴史的な和解の糸口を探る「韓国学研究センター」
一橋大学大学院言語社会研究科韓国学研究センターは、2016年12月に設立された。韓国学研究センターは「歴史的な和解の可能性を模索する韓国学─体験・記憶・共生のスペクトラム」を重要なテーマにしている。日本と韓国のあいだには、たいへん友好的な関係がある一方で、教科書問題や領土問題、歴史認識などをめぐる問題が存在してきた。このセンターは、長期的に見て日韓両国の「和解」につながる道を模索していく。「歴史的な和解」を研究テーマに選んだのは、近代以降の東アジアの歴史を鳥瞰しながら、真の意味の友情の関係─言い換えれば目の前の政治的利害関係に簡単に打ちのめされない─をつくっていくのに、少しでも役に立ちたいという願いからである。「歴史的な和解」が成し遂げられれば、それぞれの社会が治癒されるだけではなく、その社会の一人ひとりにも爽快な風が吹くことだろう。
真摯に歴史を見つめながら愉快な未来を構築する
「開かれた韓国学」を確立
当センターが掲げる目標の一つに、「新たな韓国学」の確立がある。歴史的な研究の蓄積を批判的に継承しながら、社会と時代の要請に対応すべく発展させていくという。当センター長を務めるイ・ヨンスク教授(一橋大学大学院言語社会研究科)に話を聞いた。
イ・ヨンスク言語社会研究科教授
「これまで朝鮮・韓国学は多くのすぐれた研究者の方々のおかげで、素晴らしい業績が残されています。それを謙虚に継承しながら、新しい時代の要望にこたえる『新しい韓国学』の土台づくりを考えています。そのために、今目指している研究方法は人文学・社会科学を基軸に、個別の研究領域を超えた学際・脱地域・比較的な手法で、広く東アジア諸地域との関係を大事にしながら研究を進めていくつもりです。その過程の中で、わだかまりに出合えば、目を逸らさず、真摯な研究態度と豊かな感性で解いていきます。それが両国にとって心地よい未来を切り開く具体的な体験になるようにしたいですね。これまでの韓国学では、歴史研究と文化研究はそれぞれの場で行ってきたような気がします。私たちは歴史研究と文化研究という二つの柱で、『新しい韓国学』をつくりたいですね」
究明には学際的な手法が用いられ、三つの領域から行われる。近代日韓両国の歴史的な「体験」、日韓の歴史をめぐる「記憶」の政治学、「共生」のための可能性の模索である。そして、具体的な研究活動の特徴を示すのが、次にあげる二つの観点だ。
すぐれた知性と豊かな感性の協奏こそが相互理解の鍵
一つは、「歴史」であり「ヒューマニティ」という観点である。
「日本と韓国の関係には、歴史的にさまざまな層位が絡んでいます。その分節点に注目し、両国の相互認識の形成プロセスに再び光を当てることで、近代史における"傷跡"を、和解のための"息吹"に変えたいと思っています」
そしてもう一つが、和解を促す鍵としてイ教授が注目する「文化」や「芸術」という観点だ。
「質の高い学術研究をする一方で、和解につながる相互理解を促進するために、人々の『感性』の扉をたたいていきたいです。韓国の文化や芸術を紹介しながら、みんなで楽しみたいと思います。ともに楽しみ、分かち合い、感動することができるのは何かを研究し、体験する機会を提供していきたいです。人々は〈感動〉することによって、不必要な古い感情の皮から自由になると思います。すぐれた知性と豊かな感性の協奏を通じて和解の糸口を探っていきます。具体的には市民を招いたイベントを開催していくつもりです。すでに当センター設立後の半年間で6回のシンポジウムを行いました。音楽、映画、ファッションなど取り上げるジャンルはさまざまですが、ぜひ注目していただきたいのは、日本のそれとの類似点や差異です。歌、文学作品や映画に描かれている若者の悩み、ファッション、人々の美意識など、差異が発見できれば、そこには新鮮な好奇心が生まれますし、共通点に出合えば、安心感とあたたかい親近感が生まれるはずです」
国籍や民族などが異なる人々が、互いの文化的な違いを認め合い、響き合う。そんな「多文化共生」を叶えるアプローチといえるだろう。
一橋大学独自の学問の伝統と人的資源を結集し、「韓国学の中核的人材」を育成
「新たな韓国学」が生まれれば、その研究や教育をリードする次世代の研究者も必要になる。そこで当センターでは、基本的なミッションと推進戦略の方針(下記参照)を策定。「韓国学の中核的人材」の育成も重要な目標として掲げている。そのため、ポスドク支援や大学院生への研究奨励費支給、国際シンポジウムの開催、海外学者の招聘やセミナーの開催、論文や著書(訳書)の出版など、研究と教育の有機的な結合を図る施策も予定されている。
当センターが担う役割にも注目すべき点は多い。アメリカなど他の地域で行われる韓国学と一線を画し、人文・社会学を軸とした一橋大学独自の学問の伝統と人的資源を結集することで日本最高の韓国学研究・教育拠点となることや、地域社会と連携する中心機関としてポジションを確立することも期待されている。また、東京西部圏の地域ネットワークの中心となり、中核的資料センターとしての機能を確立することも目標の一つという。
当センターによる「韓国と日本の発展的な関係づくり」に今後も注目してほしい。
韓国学研究センターの基本的なミッション、推進戦略の方針
1.ミッション
日韓両国の「歴史的な和解と共生」のために能動的に対応できるセンター
2.推進戦略
研究と教育能力の画期的な強化、韓国学の基礎データ集中収集、韓国学の社会的な疎通性の拡大
3.ビジョンの具体
韓国学、中核的人材の育成
- 実証性と普遍性を兼ね備えた韓国学研究者
- 市民社会の要求に対応する実践的な知識人
- 歴史、文学、哲学、科学の境界を横断する創造的な知識人
2017年5月13日(土)に開催された、韓国学研究センター設立記念国際シンポジウム(第2部 韓国の音楽と舞踊の世界)の様子
(2017年7月 掲載)