存分に知的探求ができる「知の楽園」としてのHIAS
2024年8月16日 掲載
研究の一層の高度化と国際化を推進し、社会科学における世界水準の研究を実行する「一橋大学社会科学高等研究院」(Hitotsubashi Institute for Advanced Study:略称 HIAS)。2014年の設立以来、「国際水準に基づいて研究成果を検証し、必要に応じてセンターの再編を行う」(中野聡学長)という宣言のもと、HIASはつねにアップデートを重ねながら現在に至っている。今回、HQではHIASの環境を活かして研究活動を行っている研究者4名の座談会を開催。それぞれのバックグラウンドやHIASに参加した経緯、HIASだからこそ実現できている学際的なプロジェクト、そして各研究者とHIASが目指すべきものについて、率直に語り合っていただいた。
角田 美穂子 教授
一橋大学法学部卒業、一橋大学大学院法学研究科博士後期課程修了。博士(法学)。亜細亜大学法学部講師、横浜国立大学大学院国際社会科学研究科助教授、一橋大学大学院法学研究科准教授を経て、2013年7月より同研究科教授。2023年4月より、社会科学高等研究院研究専念制度の適用を受け、一橋大学社会科学高等研究院教授。
青木 哲也 特任講師
一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院商学研究科修士課程研究者養成コース修了、同大学院経営管理研究科イノベーションマネジメント・政策プログラム修了、同研究科博士後期課程修了。博士(商学)。一橋大学大学院経営管理研究科特任講師を経て、一橋大学社会科学高等研究院特任講師。
須藤 美織子 講師
国際基督教大学教養学部アーツ・サイエンス学科卒業、英国オックスフォード大学社会科学部教育学科(M.S.,Education)、米国フロリダ大学心理学専攻(Ph.D.,Developmental Psychology)修了。シンガポール南洋理工大学社会科学部研究員を経て、一橋大学社会科学高等研究院講師。
津田 慧 特任講師
一橋大学法学部卒業。一橋大学大学院法学研究科博士後期課程修了。博士(法学)。弁護士、金融庁勤務(任期付公務員)、日本学術振興会特別研究員(DC2)を経て、一橋大学社会科学高等研究院特任講師。
各研究者の専門分野の紹介
角田美穂子教授(以下、角田):本日はお集まりいただきありがとうございます。HIASという組織の特徴は、専門分野に閉じこもらず多様な人が集い、新たなストーリーを生み出す場である、というのが私の認識です。座談会の定石として、まずはお互いの専門分野の紹介から始めたいと思います。では青木先生から。
青木哲也特任講師(以下、青木):私はプラットフォーム戦略、マーケティング戦略、リモートワーク組織など幅広く研究しています。一見すると関連性のない研究領域に思われるかもしれませんが、「資源制約の厳しい個人事業主を含む小中規模事業者の経営」に注目して研究しています。個人的には経営学者だと思っていますが、周りからはよく「マーケティング学者では?」と言われます。
角田:経営学とマーケティング学は違うのですか?
青木:私個人としては同じだと考えています。私の理解では、まず経営学は、経済学から分離・独立して「モノを売る」、つまり企業の経済活動にフォーカスします。その経営学から「消費者とどう関わっていくか?」という製品戦略や顧客関係管理戦略の部分が独立したものがマーケティング学です。その意味で、より詳細な区分けをする方からすれば、これまでの研究成果を踏まえると、私はマーケティング学者に見えるのかもしれません。
角田:なるほど、勉強になりました。では次に、須藤先生、お願いします。
須藤美織子講師(以下、須藤):私の専門は発達心理学です。子どもが、自分とは一見異なるように見える相手とどのように人間関係を構築するのか、というテーマで研究しています。具体的には、自文化の常識が必ずしも異文化の相手に通用しないと理解したうえでその相手の視点で物事を考える「文化的共感性」、異文化の相手と友好的な関係を築こうとする「異文化交流能力」、この2点が研究対象です。また、この感性や能力を幼少期から促進する手法についても研究を進めたいと思っています。
角田:「文化的共感性」について、たとえば幼少期に多様な文化に身を置いた経験によって共感力が育つ、といった研究はあるのでしょうか?
須藤:バイリンガルの子どもは異なる言語・文化をまたいでいるので、相手の視点に立って物事を考える力がモノリンガルの子どもより早く発達するという研究結果もあります。
角田:ありがとうございます。それでは続いて津田先生、お願いします。
津田慧特任講師(以下、津田):私は民法を専門にしています。特に、いわゆる金融法に関心があり、最近の研究では暗号資産交換業者を素材として取り扱いました。
角田:津田先生は本学法学部を卒業後、いったん就職されていますね。
津田:はい。法律事務所に就職し、銀行分野における弁護士業務を経た後に任期付職員として金融庁に出向していました。その際にマネー・ローンダリングとテロ資金供与対策の問題と関わりました。金融機関に対する規制の問題を考えるには、金融、行政法、刑事法に関する知識はもちろん、国際機関であるFATF(金融活動作業部会)の動向のキャッチアップなど、さまざまな要素が絡んでくるので、非常にやりがいのある仕事でした。当初は、その研究を進めておりましたが、徐々に金融機関等にアセットを預けている利用者の法的地位にも関心が広がっていきました。特に、新たなアセットクラスである暗号資産はボーダーレスなものなので、より国際的な視点をもつことも必要になります。だからこそさらに面白いと思い、現在は暗号資産交換業者を対象に研究に取り組んでいるところです。
角田:皆さんありがとうございます。では私の自己紹介をさせていただきます。専門分野は民法ですが、法律の世界でちょっとした革命を起こそうとしている"はぐれもの民法学者"です(笑)。
経済社会においてはさまざまな変化が起きています。そして、変化によって不当に不利益を被っている消費者や市民がいます。私はその人たちが裁判においてゲームチェンジ、つまり逆転のチャンスをつかむためのロジックをずっと研究してきました。これは「経済社会の変化→法律問題」というベクトルですね。しかし、ケンブリッジ大学のサイモン・ディーキン、フェリックス・シュテフェック両氏と出会って共同研究の企画を練り上げる中で「変化の後始末ではなく、未来の法学を構想しよう」という方向性が定まりました。つまり、ベクトルを「法律問題→経済社会の変化」と逆向きにする発想をベースに、法学的に地に足のついた形で議論を進めていこうというわけです。
津田:具体的にはどのような議論なのでしょうか。
角田:法制度のど真ん中である司法も、AI・自動化などデジタルの波にのまれるのか、その中で人間が果たすべき役割とは何か、完全に自動化できないものをどうやって科学的に議論するか...といったテーマに直面しています。そこで、本学とケンブリッジ大学、JST(国立研究開発法人科学技術振興機構)、UKRI(英国研究・イノベーション機構)の研究助成を受けておこなった「法制度と人工知能」という学際的な研究プロジェクトでは、司法AIの開発実験を行っています。このプロジェクトを遂行する中で、私たちは「リーガルイノベーション」という言葉を生み出し、現在も発信し続けています。
HIAS参加に至るバックグラウンド
角田:次に、皆さんがどのようなバックグラウンドを持ってHIASに参加されたかを共有したいと思います。まず須藤先生のご経歴から教えていただけますか。
須藤:私は家庭の事情で幼少期からさまざまな国を渡り歩いてきました。アメリカ、フィリピン、サウジアラビア、カナダ、そして日本。各文化の「当たり前」に慣れるのに時間を要したり、日本で育った期間は短いにもかかわらず「日本の当たり前」を求められたり...。こういった幼少期の原体験と、研究者として4か国で研究を実施した経験を活かして、他者の多様性や個性を受け入れられる人材の育成に貢献したいと考えていました。そこで、国も分野も異なる研究者をつなげることで研究の高度化・国際化を目指すHIASの理念に共感して応募しました。
角田:私も父の仕事の関係でドイツの現地校に通っていました。須藤先生はその何倍も多様な経験をされているのではないかと。
須藤:実はどの国でも現地校かインターナショナルスクールに通っていたので、日本語教育を受けたことがありません。ですから母語は英語で、日本語は第二言語なのです。
角田:それはまさに、コスモポリタンですね。次に津田先生にお願いしましょう。卒業後に弁護士事務所に入られたのは、もともと法曹実務を志望していらっしゃったから?
津田:いえ、学部生の頃は法曹と研究、どちらの道に進むか迷っていました。そこでゼミの指導教官に相談したところ、「研究の道に進むのであれば、自分が熱を入れられるテーマを見つけていると良い」とアドバイスされてハッとしたのです。当時は満遍なく勉強するばかりで「この分野を突き詰めたい」という確固としたものがなく...。そこでいったん社会に出て、自分が熱を入れて取り組めるテーマを探すことにしました。その中で先ほどお伝えした金融規制の問題に興味を持ち、本学の法学研究科博士後期課程に入学しました。
角田:つまり修士課程を経ていないわけですね。
津田:はい。そのため基礎研究や外国語の能力に課題を感じていたところ、HIASの存在を知りました。HIASは最長5年間、教育負担がなく研究活動に専念する環境を提供していただけます。その期間を最大限に活用して自分自身の課題を改善しようと考え、応募しました。
青木:私も研究にじっくり腰を据えて取り組みたいと考えていました。特に海外ジャーナルへの投稿に耐えうる骨太な研究を実施し、出版に至るまでには、2年は欲しいところです。教育負担がなく、といって論文の本数のノルマがあるわけでもない。私もそんなHIASの環境に魅力を感じて応募しました。
角田:青木先生が「資源制約の厳しい個人事業主を含む小中規模事業者の経営」をテーマにされているのは、どういった経緯からですか?
青木:父が小中規模事業者に分類される企業を経営していまして、日々苦労している姿を見て育ちました。今学生が学んでいる経営戦略は、大企業向けのものが極めて多いですよね。一方中小企業は、年間10人も採用できない。単一事業だから複数の事業部制を敷くリスクはとれない。資金繰りも厳しい。そんな中小企業向けの経営に資する研究をしたいと考えたのです。
須藤:学生の頃からそのテーマを?
青木:はじめはEV(電気自動車)関連業界の研究をしていました。ただ、新聞や雑誌からの2次データで論文にまとめても、自動車業界に詳しい教授の情報量には敵わないわけです。悶々としながらYouTubeを流し見している時、「これは研究対象になる」と思いました。当時YouTubeは誕生したばかりだったので、まだ研究者がいない。一方で登録者数をはじめとするさまざまなデータを公開しているので研究が進めやすい...などのメリットがありました。一番重要なのは、YouTuberが消費者のアテンションを獲得し、登録者数を増やし、ビジネスとして成立させようとするプロセスは、実はあらゆる業界に共通する取組だ、ということです。特に中小企業が独自の製品を持ち、下請けから脱却しようとする取組と通底していると考えました。
角田:ありがとうございます。何が研究のきっかけになるかわからないものですね。私は学部生時代、大学院に進学するために勉強をしていたのですが、あるとき同級生から「どんな研究者になりたいか」と聞かれたんですね。その時一番楽しいと感じていたのが、当時若手だった沼上幹(つよし)先生(現:一橋大学名誉教授)の「イノベーション特殊講義」でした。そこで私はその質問に「いつかはイノベーションと法学をブリッジできるような研究者になりたい」と答えたことを思い出しました。イノベーション研究の世界では、野中郁次郎先生(現:一橋大学名誉教授)、竹内弘高先生(現:一橋大学名誉教授)をはじめレジェンドと呼ばれる方々が、社会が変化するたびに重要な発信をされています。その様子を目の端で捉え続けていたことが、現在の新しい研究の素地になっているのでしょう。
津田:リーガルイノベーションは、日本に先例はあるのでしょうか?
角田:それがないので、砂漠の中を彷徨う想いで進めています。幸いにも素晴らしいチームを組めて日本初の司法AIの開発実験を実現しました。このプロジェクトは私にとって新しい挑戦だったので、学部・大学院・法科大学院教育との両立に苦慮するようになっていたのが正直なところです。そんな時、先端研究に専念できるHIASのポストが創設されたので、渡りに船とばかりに応募し、採用していただきました。
異なる専門分野の研究者が生み出すストーリー
角田:ここで問題提起をしたいと思います。私は冒頭で、HIASは異なる専門分野を持った研究者が集まり、ストーリーを生み出す場である、という主旨の意見を述べました。その点について、先生方はどのようにお考えですか?
須藤:おっしゃる通りだと思います。私は実験心理学を専門とするHIASの石川光彦先生と、「一橋大学こども発達ラボ」という研究室を立ち上げました。このラボでは、主に0~6歳の子どもたちを対象に、子どもの社会的認知、知覚、情動、学習といった幅広いトピックについて実験心理学的手法を用いて調べています。子どもの発達についての基礎科学的な解明を通じて、多様な発達への支援に貢献することが目標です。現在は西キャンパスの施設内にラボスペースを設けて、そこで子どもやその保護者を対象とした調査を行っています。
青木:これは私個人の見立てですが、HIASは組織外とのコラボレーションで学際的なプロジェクトを進めることも重視しているように思います。
角田:学際的である、ということも間違いなくHIASのキーワードですね。
津田:私は今年(2024年)4月に参加したばかりですのでHIAS内部での共同研究には至っていませんが、慶應義塾大学の新保史生先生や齊藤邦史先生の下で「ムーンショット型研究開発事業」に関する研究に協力させていただいております。この事業の中には「アバターを安全かつ信頼して利用できる社会の実現」というプロジェクトがあり、これは、身体・脳・空間・時間の制約からの解放を目指して、誰もが望めばサイバネティック・アバターを使って身体的・認知・知覚能力を拡張して生活することができる社会の実現を模索するというものです。
須藤:津田先生はこのテーマでどのような領域にコミットされているのでしょうか。
津田:アバターと実際に操作している人が同じなのかどうか、なりすましや乗っ取りなどによって違う人が操作している可能性はないか、といった点が問題になることが考えられます。そこに私の研究対象である金融規制におけるアイデンティフィケーション、モニタリングなどの知見によって協力できることがあればと考えています。
角田:青木先生もさまざまなプロジェクトを進めていらっしゃいますね。
青木:ありがとうございます。たとえば、明治大学の谷口諒先生とは、クラウドゲート社、ヒナプロジェクト社の協力のもとネット小説をデータサイトとして、流行の起こし方に関しての研究を進めています。また、武蔵野大学の松井彩子先生とは、AIリコメンドが消費者に与える影響に関する研究に取り組んでいます。この他、千葉大学の髙橋宏承先生とは、企業が狙う成果に応じてリモートワークと出社をどのように組み合わせることが効率的か、組織デザインに関する研究を行っているところです。
海外の研究者・学生・他学部から受ける刺激
青木:共同研究のパートナーには子育て中の研究者もいます。そういった方だと、夜は寝かしつけなどで21時頃までWEBミーティングの時間が取れない場合もあります。もし私が翌日1限の授業を持っていたら、育児込みのタイムテーブルで動いている方との共同研究はためらったでしょう。しかし教育負担がありませんから、WEBミーティングが0時近くまで続いても問題ありませんし、次回の予定も「いつでもいいですよ」と相手に合わせられます。その結果、なかなかコラボするチャンスがない方とも研究が進められるのです。
角田:同感です。私はケンブリッジ大学出版局の国際ジャーナル『Data & Policy』のエリア・エディターを拝命しているのですが、エディターは私以外にも世界中にいます。ですからWEBミーティングも23〜24時から始まるのですね。このミーティングは非常にインテンシブなので、普通に授業を受け持ちながらではなかなか難しい...というか不可能でしたから。
須藤:この流れだと言いにくいのですが...、実は私、授業を受け持っているのです。
津田:その授業にはどのようなミッションがあるのでしょうか。
須藤:英語で教えること、また一般教養ではなく専門性の高い授業にすること以外は、特に指定されておらず、内容については自由に決めることができました。そこで「Cognitive Development」という子どもの認知発達についての授業を行っています。社会学部の学部生、大学院生などを合わせて約40名のクラスですが、3分の2以上が留学生です。「相手の視点で物事を考える」という研究テーマにもつながるのですが、私が知っている・興味を持っているからといって、学生は必ずしもそうではありませんよね。そういった学生の立場で物事を考える力を育てるチャンスだと捉えています。
津田:私も学生との接点は重視しています。本学の博士後期課程に在籍していた関係で大学院ゼミに継続的に参加しているのですが、中国からの留学生の論文を読ませてもらうと、中国法の制定状況や、都市部と農村部における社会状況の違いなどについて学ぶことが多いです。学部生や大学院生から学びの刺激を受ける構造は、将来的に授業を担当し始めてからも変わらないと思っています。
青木:刺激という意味では、ソーシャル・データサイエンス(SDS)学部との交流もお勧めです。私はよく七丈直弘先生の「MANGAサロン」に顔を出しているのですが、そこには漫画・アニメーション・ゲームという最先端のクリエイティブ産業から錚々たるメンバーが集まってきます。HIASもそういう集まりを主催できるようになるといいですね。
HIASという「知の楽園」をフル活用する
角田:話は尽きませんが、今、青木先生が触れられたように、HIASは今後どうなっていくべきか、そこで私たちに求められるものは何か、最後に皆さんのご意見を共有したいと思います。
津田:HIASに参加したばかりで全体像がつかめていないのですが、一つ言えるのはどんなに良い研究も机の上で完結してしまったらもったいない、ということです。特に私が過去に研究対象としてきたのはマネー・ローンダリングや暗号資産交換業者などですから、実務や一般消費者へのリーチが重要であると思います。そこで、社会への還元という観点からも方策を検討していきたいと考えています。また、机の外を意識することは、これから法学を学ぶ人にとっても必要な視点です。勉強して試験に受かることだけをゴールとせずに、受かってから何をしたいか、実際に何をするかが重要な時代を迎えている。そのことを伝えていきたいですね。
須藤:私は「文化的共感性」「異文化交流能力」などに関する研究を進めることで、他者の多様性や個性を受け入れ尊重できる人材の育成に貢献したいと思っています。さらに、今日お話しさせていただいて感じたのは、私の研究で得られる知見は、子どもの発達や人材育成への貢献にとどまらないということです。私たちのように専門分野が異なる研究者同士が、いかにお互いの常識や当たり前を超えてコミュニケーションをとるべきか、ということにも活かせるはずですし、HIASの発展にも資するのではないかと感じました。
青木:私は誰かが「HIASはこうあるべき」と定義して引っ張っていくより、研究者が集う「場」を用意すること自体がとても良いことだと考えています。かつて大河内正敏先生が理化学研究所を研究者ひとりひとりが自由な創意を育む「場」として位置付け、そこに集まった科学者たちがノーベル賞をとっていきました。同じようにHIASも、研究者が自由に活動できるスペースを担保して、10年経ったら「HIAS出身者、面白い人ばっかりじゃないか」と言われるようなインキュベーションセンターになればいいのではないかと。そんなパラダイスに住まわせてもらっている以上、自分の専門分野でトップをとれる研究をしっかりやらなければいけませんね。
角田:そう、HIASは知的探求を自由に、存分にできる「知の楽園」なのですね。しかし、より重要なこととして、生成AI革命という言葉があるように、これまでの常識が日々更新される事態が今まさに起きています。そういった変化に「適応」した社会科学を社会は求めており、一橋大学はその要請に応えることをミッションとして掲げています。HIASは教育負担が免除されることで、そのミッションにまっすぐ向き合う気概を持った研究者が集う「場」なのです。もちろん、実は私たちの研究を支援してくださる大学職員の方々の存在も大きいです。たとえば私は以前、50名近くの方に8,000件ものアノテーション※を依頼したことがあります。その謝金対応が大変だったのですが、すべて職員の皆さんがサポートしてくれました。物理的な事務処理を超えて、研究の意義や目的を理解して併走してくださったのです。そんな支援体制が充実しているという意味でも、やはりHIASは「知の楽園」と言えます。ですから皆さんにはこの環境をフルに活用していただいて、画期的な研究成果を上げてほしいですね。「青木先生、須藤先生、津田先生がいるから応募しよう」という研究者が増えていく...。HIASがそんな組織に育っていってほしいと願っています。今日はありがとうございました。
青木・須藤・津田:ありがとうございました。
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