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‟The Bridge to the Future“ 創立150周年記念事業が始動

2023年12月27日 掲載

一橋大学は2025年に創立150周年を迎える。1875年に森有礼が銀座尾張町に開いた商法講習所を建学の起源とし、現在に至るまで一橋大学は、社会科学の総合大学として高度な専門性と深い教養を兼ね備えた多くの人材を社会に送り出してきた。その数およそ9万9000人。渋沢栄一をはじめとする支援者と各界で活躍する卒業生の強い思いと応援に支えられ発展してきた歴史を振り返り、「一橋大学らしさ」とは何か、次世代へ受け継ぐもの、そして構想されている記念事業について、中野聡学長と大月康弘理事・副学長(総務、研究、社会連携担当)が語り合った。

中野 聡氏プロフィール写真

中野 聡(なかの・さとし)

一橋大学 大学長

大月 康弘氏プロフィール写真

大月 康弘(おおつき・やすひろ)

一橋大学 理事・副学長(総務、研究、社会連携担当)

150年前から変わらぬ世界水準の教育機関

中野:一橋大学の起源は、1875年に森有礼が、当初は私設の学校として銀座尾張町に開いた商法講習所に遡ります。建学の原点は、世界水準の商業教育を通じて日本の近代化を担い、国際的に活躍できる人材を育成することでした。1884年に東京商業学校、1920年に東京商科大学となり、1949年には新制国立大学の発足にともない一橋大学と名称は変わりましたが、150年という歴史の中で創立当時の原形をとどめている大学は意外と少なく、これは一橋大学の大きな特徴だと改めて思います。

大月:確かにそうですね。一貫性は一橋大学の大きな特徴の一つだと思います。しかもその一貫性は、歴代の構成員の個性と意思と意欲によって紡がれてきただけでなく、社会の要請を一身に背負ってきた結果だとも思うのです。この150年という歴史は一橋大学単体の歴史というより、一橋大学が近代日本の歩みの中でその時代ごとのニーズを受け止め、期待に応えてきた歴史そのものだと言えるのではないでしょうか。

中野:創立150周年記念事業を進めるためにワーキンググループを立ち上げ、若手の先生方を中心に議論をしてもらっています。まず初めに話し合われたことは、これまでの150年を次の150年にどうつなげていくか、ということでした。こういうテーマが気負いなく出てくるところも一橋らしさだと感じました。

大月:「こうでなければいけない」というのではなく、柔軟にフォーメーションを変えながら続いてきたのが一橋大学の良いところです。わが国のニーズ、社会のニーズ、世界のニーズをうまく汲み上げる能力が本学にはあると感じています。我々世代もそうあるべきだし、そのスピリットを若い人たちにも共有してもらいたいと思っています。

中野:変化といえば、2019年、本学は総合大学や医療・工学系大学とともに、唯一の文系大学として指定国立大学法人に指定されました。指定国立大学法人は、国内の競争環境の枠組みから出て、国際的な競争環境の中で、世界の有力大学と伍していくことが求められています。本学には、社会科学分野における世界最高水準の国際的な研究・教育拠点に成長することへ大きな期待がかかっています。
2023年4月に新設したソーシャル・データサイエンス学部・研究科(SDS)も、一貫性の中で生まれました。本学はこれまでの150年、特に経済界への人材の輩出に強みを持ち、経済社会の適切な運営と発展に人材育成の面で貢献してきました。グローバルに活躍する「Captains of Industry」を人材育成の基本コンセプトとし、ゼミナール中心の少人数教育により、産業界を中心に日本社会を支える人材を輩出してきた歴史があります。

大月:実際、海外で活躍する卒業生も多く、同窓会組織である如水会には50近い海外支部があります。

次の150年に橋を架ける記念事業の実施

中野:創立150周年という節目の年を迎えるにあたり、これからの150年を見据えて卓越した研究力と優れた人材育成力をさらに発展させるため、テーマを「ひとつひとつ、社会を変える。The Bridge to the Future 」としました。そして、「Captains of Industryたる人材の育成」「総合知の創出と社会還元」「多様性に富む卓越した学術コミュニティの形成」という3つの柱のもとで、さまざまな事業に取り組むこととなりました。

大月:「Captains of Industryたる人材の育成」では、従来の教育プログラムに加えて、学生・卒業生への起業支援(インキュベーション拠点形成)やリカレント教育の拡充など、多様な教育機会の創出による人材育成につながる事業を行います。「総合知の創出と社会還元」では、文系・理系の区分けを超えた「総合知」の創出と活用に貢献し、地球と人類社会が直面する課題の解決に資する高度な研究を進めるとともに、企業や外部の機関・団体との積極的な連携等を通じて、得られた知見を社会へ還元します。「多様性に富む卓越した学術コミュニティの形成」では、世界の優れた研究者が集う国際的研究拠点としての活動を進めるとともに、若手・女性研究者の支援や学生・留学生の修学支援を拡充し、国籍、世代、性別を超えて多様な人々に開かれた卓越した学術コミュニティであり続けることを目指します。

中野:これらの施策を実現するためには、魅力と活力にあふれるキャンパス環境が不可欠です。DX基盤の構築や、ミッションを共有するステークホルダーとの共創を実現する産学共創の推進など、次の150年に向けた取組を加速するため、キャンパスの環境整備を進めていきます。

大月:すでに始まっているものとして、「学生活動応援企画『多様性に関する学生活動応援プロジェクト(通称サスプロ)』」があります。本学のDEI(ダイバーシティ、エクィティ及びインクルージョン)の推進に関する企画を公募し、採択したプロジェクトの活動を大学が支援します。

中野:サスプロは、行動する学生を支援する企画です。一橋大学はいつの時代も社会課題と向きあい解決策を見出すことに注力してきました。そしてまた、学生の自発性を伸ばすことは大学の使命でもあります。社会課題の発見と解決に向けた提案、そして行動までを支援するプロジェクトです。

大月:また、グローバルに活躍できる学生を育てる学生支援も充実させていきます。国際的に優秀な人材が集まる魅力に富んだ学術コミュニティの創造を目指し、外国および日本全国から最優秀層の学生を入学させるため、博士後期課程学生への独自の奨学金制度、東京圏外出身学生への支援制度を創設して修学支援の充実を図ります。
もう一つ、予定しているものに附属図書館の機能強化プロジェクトがあります。図書館は大学という組織の知的基盤を支えるインフラストラクチャーです。研究資料の充実、社会科学古典資料センターが所蔵する貴重書の保存修復およびデジタル化、アクティブラーニングスペースの整備などを構想しています。

学生が集う場を設け、活気あるキャンパス環境を整備

大月:キャンパスの環境整備も早期に進めたい事業です。コロナ禍を経て、授業のあり方や学生の行動も大きく変わりました。だからこそ、大学という場所(トポス)が大切だと感じています。私は最近、トポスに代えてコーラという言葉(構成員がそこで育まれる「母胎」といった意味で、プラトンにも見られるギリシア語の用語)を使っています。そのコーラが、まさに大学のキャンパスだと考えます。わざわざ集って学生が語らえる場所、コーラを早急に設置する必要があるという危機意識を持っています。

中野:これは本学だけの課題ではなく、他大学とも同様の危機意識を共有しています。同時代的な課題です。一橋大学の先輩方から伺うと、西プラザ(生協食堂)は1970年代にできた当初、学生のたまり場になっていたそうです。当時の学生のつながりのあり方だったのだと思います。登校すると教室へ行くより前に生協へ行き、友だちが来るのを待っているような、そういう学生が多かったのだそうです。
しかし、2020年代になりコロナ禍を経た学生のつながりのあり方は大きく変わっています。オンライン授業が増え、登校しなければならない回数がぐっと減っています。現在構想中ではありますが、学生がつながる仕掛けとしての空間をもつ建物をつくりたいと考えています。学生同士のつながりだけでなく、社会とつながったり、教員とつながったり、いろいろなつながりをつくりながら柔軟に使える場にしたいと考えているところです。

大月:当時の西プラザや東本館にはそういう雰囲気がありましたね。

中野:現在の東本館には、新設したSDSに理系出身の先生がいらしたりして、分野を超えて集う雰囲気があります。今の学生には特にそのような「集える場所」が必要だろうと考えています。DDP (Data Design Program)や、SDSと三菱地所が協働して新しくオープンした東本館の交流拠点なども、学生たちに大いに集ってもらいたい場所です。

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東本館に設置された交流拠点

大月:SDSは企業だけでなく、世界のアカデミアとも新しくつながりを持とうとしています。日常的にはオンライン上でやりとりをするとしても、リアルに集う場所は必要だと考えています。今決まっているのは、情報基盤センターにfMRI (functional magnetic resonance imaging)という脳機能の計測器の設置をすること。DDPとSDS、またHIAS脳科学研究センター(HIAS-BRC)が中心になり、この計測器を使って新しい分野の研究と教育を展開していくことになります。被験者の方も来校されるので、学生と社会とのつながりにも期待しています。

中野:さまざまな事業が動いていますが、一方で、DDPやSDSとは直接関係しない多くの学生にも、キャンパス内で気軽に集える場所が必要です。

大月:学生が気軽に集い、つながりを持てる場所の設置は、創立150周年記念募金を財源として、ぜひ実現させたいプロジェクトの一つです。

中野:現在構想中の西プラザ(生協食堂)の環境整備は、学生がつながる仕掛けをつくっていくものです。学生同士はもちろん、教職員、卒業生、如水会、地域、企業といったさまざまなステークホルダーと交流し共創できる拠点としても利用できる場所になればと考えています。

大月:兼松講堂、図書館などの意匠にも留意した一橋らしい建物を構想したいですね。

画像:東京商科大学学生食堂(清水建設株式会社所蔵)
東京商科大学学生食堂(清水建設株式会社所蔵)

画像:東京商科大学学生食堂内部(清水建設株式会社所蔵)
東京商科大学学生食堂内部(清水建設株式会社所蔵)

創立150周年記念募金会が本格始動

中野:国立キャンパスの兼松講堂、磯野研究館、如水会百周年記念インテリジェントホール、如水ゲストハウス、佐野書院、小平国際キャンパスの如水スポーツプラザ、千代田キャンパスの一橋講堂など、現在の一橋大学をかたちづくる多くの施設は、卒業生・在学生とそのご家族を中心とする個人、同窓会組織である如水会、各種団体・企業等の寄付・ご支援で建築・改修・取得がなされてきたものです。2004年に設立された一橋大学基金への個人・法人の寄付金が大学の収入に占める割合は約7.8%(2022年度)。これは、全国の国立大学でトップクラスであり、如水会に代表される卒業生と母校の固い絆も本学の大きな資産です。

大月:創立150周年記念募金会の活動も本格的に取り組む準備が整いました。ご寄付いただく資金は、創立150周年記念プロジェクトに充当し、未来を切り拓く人材育成を柱とした本学の教育研究活動全般の原資とさせていただきます。創立150周年記念募金会の創設には、如水会の皆様にもご協力をいただきました。会長には如水会相談役の松本正義さん、副会長には如水会理事長の杉山博孝さんにご就任いただいています。

中野:卒業生の交流を通じて新たに生まれる共創にも期待をしています。次の150年に向けた一橋大学の新しい挑戦に、力強いご支援、ご協力を賜わりますよう、よろしくお願い申し上げます。

図:創立150周年事業施策・取り組み・事業構想