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誰もが気軽に立ち寄れる場所に~ダイバーシティ推進室

2023年10月2日 掲載

2023年6月、「LGBT理解増進法」が成立するなど、政府は誰もが生きやすい社会づくりに向けて、ダイバーシティを推進している。一橋大学においても、2022年11月、全学的な男女共同参画、多様性、公正性及び包摂性(ダイバーシティ、エクィティ及びインクルージョン)を推進することを目的として、副学長をトップとする「ダイバーシティ推進本部」を設置。この下部組織として「ダイバーシティ推進室」が新設されている。そこで、野口貴公美副学長(広報、ダイバーシティ担当)に、同室の位置づけや活動内容、およびどのように利用してほしいかなどについて話を伺った。

一橋大学に関わるあらゆる人が対象

画像:野口 貴公美氏

野口 貴公美副学長
(広報、ダイバーシティ担当)

ダイバーシティ推進本部は、これまでの男女共同参画推進本部を基盤として、対象を「男女」から、人種、民族、国籍、性別、性自認、性的指向、障がい・疾病の有無、年齢、言語、宗教、信条、出身、地位、家族関係など、さまざまな属性に広げ、ダイバーシティ担当副学長というポストの新設とともにスタートした。新しい推進本部の下に置かれるダイバーシティ推進室も、一橋大学に関わるあらゆる人を対象とした組織と言える。

同室は、国立東キャンパスの大学生協(東プラザ)1階正面という、誰もが気軽に利用できる便利な場所にある。同室では現在2名の職員が常駐し、学生や教職員に対応しているほか、ダイバーシティに関する本や資料も用意され、ダイバーシティについての理解が深められる環境となっている。

主催イベントとしては、年4回程度のペースで少人数の事前申込制による「グループ・メンタリング(情報交換会)」を開催。6月には「家族と離れて暮らすことで見えてくるもの」というテーマで行われた。また、月1回程度を基本に誰でも参加できる「フリーサロン」を開催し、ダイバーシティ理解について啓発に努めている。

「わかりやすい場所にあるので、通りかかった時でも気軽に立ち寄ってほしい」と野口副学長は話す。

誰にとっても居心地のいい環境をつくる

「ダイバーシティ」と聞くと、特定の人たちの問題で、「自分にとってはどのような関係があるのだろう」と思う人もいるだろう。ダイバーシティ推進室も、差別や疎外を感じたりした時に相談に行く特別な場所、と思われがちである。

「そんな"特別な場所"などではなく、誰にでも利用をしていただきたい場所です。『何をやっているのだろう?』といった興味から訪ねていただくことでも大丈夫です。職員と何気ない話をする中で、普段はあまり意識していなかった、自分の問題、あるいは自分のことではなく、友人のことについて、何か気づくことがあるかもしれません。自分と同じ個性を持つ人はどこにもいないわけですから、誰もが、それぞれの多様な個性を持っていると思います。大学の構成員の皆さんにとって居心地のいい環境をつくることがダイバーシティ推進室のミッションですから、ぜひ"普段使い"してほしいと願っています」と野口副学長は強調する。

ダイバーシティは、教職員の人事や出産・育児、学生のキャリアデザインから、キャンパスライフ全般にまで関わる非常に裾野が広い事案でもある。一橋大学に関わるあらゆる人が尊重され、居心地よく過ごせる環境づくりは、誰もが意識すべきことと言えるだろう。そのためにも、折に触れてダイバーシティ推進室を利用することには意義があると言える。

取り組みを研究材料にし、成果を社会に還元

今後のビジョンについて、野口副学長は次のように話す。

「一橋大学の優れた点に、研究力があると思います。ダイバーシティ推進室も、利用する人たちの居心地の良さの追求に加えて、その取り組みを学術的にも深く掘り下げ、広く社会に還元できるようにしていきたいと考えています」

一橋大学は社会科学の総合大学であり、ダイバーシティやジェンダーレスについては社会学などの研究テーマでもある。こうした恵まれた基盤を活かし、本学における取り組みを研究力と結びつけ、より高度な成果につなげていくという構想だ。

「ダイバーシティ担当副学長就任に当たり、広く他学の取り組みを調べてみました。本学のダイバーシティ推進体制はまだ日が浅く、後発的であり、予算や人員の規模も他学と比較するとまだ小さいのが現状です。ただ、規模などの"大小"を比較するというよりも、それぞれの大学の特性に則った推進のあり方を考えるべきではないかと思います。そこで、本学においては、本学の強みを活かした取り組みとして、ダイバーシティに知見の深い先生方に協力員となっていただき、知恵をいただきながら、連携して施策を進めていくという体制づくりに取り組み始めています」

ダイバーシティ推進本部ならびにダイバーシティ推進室の活動は、今後も注目に値するだろう。

2020年3月、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが宣言され、4月に緊急事態宣言が発出された。社会のあらゆる場所で人同士の接触が制限され、本学のキャンパスも閉鎖された。一方で、講義はオンラインやオンデマンドで行われ、大学の一つの目的である教育の場は確保された。しかしながら、もう一つの目的である、キャンパスに学生や教職員が集い、さまざまな交流を通じて人格形成を行うといった機会は、ほぼ2年間にわたって失われた。

「こうした初めての事態を経験し、キャンパスという場で学生と教員、学生同士がリアルに対面し交流することの価値を誰もが実感したと思います。コロナ禍を経て、改めて、人は一人で生きてはいけず、多様な人同士のつながりの中でこそ生きていけるということ、大学に集うことの大切さを、再認識できたのではないかと思います」と、野口副学長は結んだ。