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ソーシャル・データサイエンス学部・研究科 開設記念シンポジウム「ソーシャル・データサイエンスの未来へ」

2023年3月28日 掲載

2022年12月16日、一橋講堂にてソーシャル・データサイエンス学部・研究科開設記念シンポジウム「ソーシャル・データサイエンスの未来へ」が、令和4年度第1回政策フォーラムとして開催された。2023年度のソーシャル・データサイエンス(以下「SDS」)学部・研究科の開設を目前に控え、各界の第一人者がそれぞれの立場から熱い期待を表明するシンポジウムとなった。

杉山 博孝氏

杉山 博孝氏
一般社団法人如水会理事長/三菱地所株式会社取締役会長

竹村 彰通氏

竹村 彰通氏
滋賀大学長

正田 寛氏

正田 寛氏
パナソニック株式会社顧問/前環境省地球環境審議官

副島 豊氏

副島 豊氏
日本銀行金融研究所長

坪井 純子氏

坪井 純子氏
キリンホールディングス株式会社常務執行役員/一橋大学経営協議会委員

中野 聡氏

中野 聡
一橋大学長

青木 人志氏

青木 人志
一橋大学理事・副学長

渡部 敏明氏

渡部 敏明
一橋大学ソーシャル・データサイエンス教育研究推進センター長

七丈 直弘氏

七丈 直弘
一橋大学ソーシャル・データサイエンス教育研究推進センター副センター長

加藤 諒氏

加藤 諒
一橋大学ソーシャル・データサイエンス教育研究推進センター准教授

SDS学部・研究科の開設は「次の150年」に向けたステップ

開会の挨拶で登壇した中野聡学長は、会場となった神田・一橋講堂について、「1930年、国立に移転するまではここ神田一ツ橋が本学の地」と、まず言及。現在でもこの一橋講堂が入る学術総合センターに千代田キャンパスを置いていることから、「歴史ある『一橋揺籃の地』で、開設記念シンポジウムを開催できることを心から喜び、新学部・研究科の開設と本シンポジウムの実現を可能にしたすべての皆さんに心から感謝申し上げます」と謝意を述べた。また、2025年に一橋大学創立150周年を迎えるにあたり、SDS学部・研究科の開設を「次の150年に向けたステップ」と定義。社会科学とデータサイエンスの融合により、困難な課題を抱えている地球と人類社会の未来を切り開いていきたいと述べた。

イノベーションプロジェクトの創設に向けた拠点となってほしい

続いて、来賓挨拶として一般社団法人如水会理事長/三菱地所株式会社取締役会長の杉山博孝氏が登壇。中野学長の挨拶を受け、「今後学生が減っていく中で新学部設立は難しいという話も聞いていたが、本当に速やかに決定されましたこと、如水会としても大変嬉しいことだと思っている」と応えた。杉山氏は、とあるAI研究の第一人者との対話で、「AI研究に最も重要なことは倫理である」との発言に感銘を受けたことから、文理融合の時代に社会科学の殿堂ともいえる一橋大学にデータサイエンスの新学部ができた意義深さについても言及。今後はSDS学部・研究科と連携し、三菱地所株式会社が手掛ける大手町・丸の内・有楽町エリアについて、「人々に優しいウェルビーイングな街づくりのための共同研究を行いたい」と展望を述べた。産業界を巻き込みながら「イノベーションプロジェクトの創設に向けた拠点となっていただきたい」とのエールを送り、挨拶を終えた。

価値創造のヒントは大学ではなく、課題とデータを持つ企業側にある

その後、基調講演として、滋賀大学の竹村彰通学長が登壇。竹村氏はまず"一橋SDSへの期待"として「失われた30年といわれる中、一橋SDSには、データサイエンスの社会実装を進めることにより、日本を変革する人材を輩出してほしい」というメッセージを表明した。
アメリカ統計学会ニュースレターから、アメリカにおける統計学の修士・学士取得者数がともに5,000名に上る中、日本は基本的にその取得者数が著しく低いために統計学の教員不足が深刻である状況を紹介し、データサイエンスの重要性を訴えた。また、社会人のリスキリングからジョブ型雇用へのシフトにも触れながら、改めてデータサイエンスの3要素に言及。情報学(データ収集・加工・処理:データエンジニアリング)+統計学(データ分析・解析:データアナリシス)+価値創造という要素の中で、価値創造については「産学連携による教育が重要」と指摘した。
「価値創造のヒントは大学の中ではなく、実際に課題とデータを持つ企業側にある。大学では教えられない部分に産学連携が必要になる」とし、2017年にデータサイエンス学部を開設した滋賀大学での課題解決型学習(PBL)、及び卒業生の幅広い就職先を紹介。産学連携によって価値創造を学んだ学生に対する社会的な需要があることを示した。

SDS学部・研究科がそれぞれ養成する人材像・カリキュラムについて

続いて、一橋大学ソーシャル・データサイエンス教育研究推進センターの加藤諒准教授よりSDS学部•研究科の概要説明が行われた。
学部で養成する人材像を「社会に存在する課題を解決できるソーシャル・データサイエンスのゼネラリスト」と定義。学部カリキュラムにおける特徴として、「ビジネス領域、社会課題領域、データサイエンスの3領域の体系的な知識の修得」「PBL演習を通じた実践的な知識・スキルの修得」「他学部開講科目を通じた幅広い学び」などを紹介した。一方、大学院で養成する人材像については「最先端の知識を自ら活用し、新たな課題を発見し解決に導くことができるソーシャル・データサイエンスのスペシャリスト」と定義。主・副指導教員という2名以上での指導体制によって研究を進め、「社会科学とデータサイエンスが融合したSDSの知の修得を目指す」と紹介した。

パネルディスカッション「ソーシャル・データサイエンスの未来へ」

5分間の休憩をはさみ、「ソーシャル・データサイエンスの未来へ」というテーマでパネルディスカッションが行われた。パネリストは、日本銀行金融研究所長 副島豊氏、パナソニック株式会社顧問/前環境省地球環境審議官 正田寛氏、キリンホールディングス株式会社常務執行役員/一橋大学経営協議会委員 坪井純子氏、一橋大学SDS教育研究推進センター長 渡部敏明教授の4名。コーディネーターは、一橋大学SDS教育研究推進センター副センター長 七丈直弘教授が務めた。
ソーシャル・データサイエンスの未来についてパネリストがそれぞれの意見を表明し、ディスカッションが進んでいった。ここでは各パネリストの発言の要旨を紹介する。

副島氏「企業はコスト削減ばかりしていても豊かな世界は訪れない。いかに新しいサービスを見つけ出し企業収益や経済成長の源泉にしていくのかという社会課題を考える際に、SDSのポテンシャルがある。最近では金融データ活用推進協会など、企業がデータ活用に向けた課題を共有しソリューションを模索する場が産まれており、大学が社会課題を見出す場としても有用と思われる」

正田氏「環境行政とデータは、規制を行うという観点から元来不可分なものであった。今や経済と環境はかつてのような対立概念ではなくなっており、企業がESG経営を進める上で情報の開示は世界のトレンド。データ自体は無機質であるが故に、バックグラウンドの異なる者が議論をする際の重要な共通言語になる。創造的な課題設定ができる有用な人材を育ててほしい」

坪井氏「企業も社会もDX戦略を推進するには、データサイエンスやエンジニアリングの専門性だけでなく、事業や課題の深い理解と構想力が必須。SDS学部・研究科には、社会にバリュークリエイトをすることがゴールというマインドを持ち、出口を構想できる人材の養成を期待している。企業も大学と手を取り合い、社会に出てからも人材を育てていきたい」

渡部教授「我々の目的は、データサイエンスと社会科学を融合し、社会課題やビジネスの課題を解決していくこと。それには実際に企業や官庁の方々にお会いして、話し合わないと分からない。ぜひ今後は企業や官庁との連携を進めていきたい。学生にとっても、PBL演習などを通じて企業・官庁の方に実際の課題を共有してもらうことが大きな学びになる」

卒業生や社会が"付き合って良かった"と思えるような大学を目指して

閉会にあたって青木人志理事・副学長が登壇。副島氏、正田氏、坪井氏には「同じ話をぜひ新入生にもしてほしい」と改めて感謝の意を伝えた。各登壇者のコメントを振り返りながら、「卒業生や社会が"付き合って良かった"と思えるような大学にならなければ」との思いを強くしたことにも言及。最後に、中野学長が一橋大学の目指すべき方向の一つとして掲げる「ひらく」というキーワードに触れ、「ますます大学は社交性を発揮して、卒業生や社会と付き合っていこうと思う」と述べ、シンポジウムは閉幕した。

シンポジウム概要

日時

2022年12月16日(金)10:00-12:10

会場

一橋講堂(Zoom Webinarによるハイブリッド開催)

プログラム

開会挨拶

中野 聡 一橋大学長

来賓挨拶

杉山 博孝 一般社団法人如水会理事長/三菱地所株式会社取締役会長

基調講演

竹村 彰通 滋賀大学長

ソーシャル・データサイエンス学部・研究科の概要説明

加藤 諒 一橋大学ソーシャル・データサイエンス教育研究推進センター准教授
パネルディスカッション『ソーシャル・データサイエンスの未来へ』

<パネリスト>

正田 寛 パナソニック株式会社顧問/前環境省地球環境審議官
副島 豊 日本銀行金融研究所長
坪井 純子 キリンホールディングス株式会社常務執行役員/一橋大学経営協議会委員
渡部 敏明 一橋大学ソーシャル・データサイエンス教育研究推進センター長

<コーディネーター>

七丈 直弘 一橋大学ソーシャル・データサイエンス教育研究推進センター副センター長

閉会挨拶

青木 人志 一橋大学理事・副学長