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ソーシャル・データサイエンス学部・研究科 教員による座談会

2022年10月3日 掲載

かねてより設置準備が進められてきたソーシャル・データサイエンス学部・研究科が、いよいよ2023年4月に開設される。そこで、ソーシャル・データサイエンス教育研究推進センターに所属する教員が一堂に会し、求める学生像や育成する人材像、本学部・研究科の未来像について語り合った。

渡部 敏明氏プロフィール写真

センター長 渡部 敏明教授

専門分野:統計学
研究内容:ベイズ統計学を用いた計量ファイナンス分析

七丈 直弘氏プロフィール写真

副センター長 七丈 直弘教授

専門分野:材料科学、科学技術政策
研究内容:データに基づく工学・社会における複雑現象の分析(科学技術政策、科学計量学、計算材料科学や、技術経営)

清水 千弘氏プロフィール写真

清水 千弘教授

専門分野:経済測定
研究内容:政府と民間のビッグデータを用いた経済統計の作成

檜山 敦氏プロフィール写真

檜山 敦教授

専門分野:人間拡張工学、複合現実感、ロボティクス
研究内容:超高齢社会を豊かにするための、多様な人材の社会参加を促進するICTプラットフォーム、心身を活性化するVRシステムの構築と社会実装

植松 良公氏プロフィール写真

植松 良公准教授

専門分野:統計学
研究内容:大規模な経済データを分析する手法の開発

加藤 諒氏プロフィール写真

加藤 諒准教授

専門分野:マーケティングサイエンス
研究内容:多様なデータを組み合わせて複雑な統計モデルを用いたマーケティング分析

欅 惇志氏プロフィール写真

欅 惇志准教授

専門分野:情報アクセス技術
研究内容:ユーザが知りたいと思っている情報を提示するための情報検索、情報推薦、質問応答、対話システムなどの技術開発

城田 慎一郎氏プロフィール写真

城田 慎一郎准教授

専門分野:統計学
研究内容:ベイズ統計学および空間統計学の活用

永山 晋准氏プロフィール写真

永山 晋准教授

専門分野:経営学
研究内容:創造性、概念、ウェルビーイング

福田 玄明氏プロフィール写真

福田 玄明准教授

専門分野:認知科学
研究内容:情報科学的なアプローチによる人の認知機能の解明

清家 大嗣氏プロフィール写真

清家 大嗣助教

専門分野:情報通信/情報ネットワーク
研究内容:ブロックチェーンに代表される分散システムの性能やセキュリティ評価、および実社会への活用

Q1:どんな学生に来てほしいですか?

画像:座談会の様子1

渡部:一橋大学は社会科学、つまり文系の総合大学ですが、ソーシャル・データサイエンス学部ができることによって理系の要素が加わります。そのため、入学後に数学を学んだり利用したりする機会が豊富にありますので、少なくとも数学に対して苦手意識のない学生に来てほしいですね。また、"ソーシャル"が付いているのは、社会科学への応用を前提としたデータサイエンスを意味しています。そこで、株価を例に挙げれば、その変動を数学的にモデリングして現象を記述するだけでなく、なぜ上下するのかといった現象の背後にある経済学的背景にも関心のある学生に来てほしいですね。

七丈:ソーシャル・データサイエンスとは、従来の社会科学や自然科学の枠を超える、新しい学問です。本学部は、新しいという点で、いわばスタートアップのようなものです。この新しい分野を一緒に発展させたいと思う気概や骨のある学生にぜひ来てほしいと思います。

加藤:数学にも、文系の領域にも興味を持ち、学んだ知識をビジネスに応用したいと考える学生に来てほしいです。

清家:私の専門であるブロックチェーンなどの分散システムを応用したものに暗号通貨やイーサリアムなどがありますが、関連技術は日進月歩しています。技術革新の早さに臆することなく新たな技術を自発的に身に付け、それを分析に応用できるような学生は魅力的です。

城田:ソーシャル・データサイエンスは新しい分野であり、未開拓な領域を多く含む分野であると言えます。これに関わるさまざまなトピックに対し、自ら新しい課題を発掘し、問題を定義・解決していくことに喜びを見出せるような学生なら学べることが多いと思います。

清水:国の統計が不正により歪められたという事件が起きています。統計を恣意的に誘導することがあってはなりません。統計作成には高い倫理観が求められるのです。高い倫理観を持ち、データサイエンスの力を得て新しい価値を創造していく意欲のある学生に来てほしいです。

檜山:自らが生きる社会を自らデザインしていきたい学生、特に、テクノロジーを駆使し、テクノロジーをうまく社会の中で作動させられる制度設計についても学びたい学生に来てほしいです。

永山:どんな分野でも結果を残そうとすれば、忍耐力は不可欠ですので、好奇心と粘り強さを持った学生にぜひ来てほしいです。

画像:座談会の様子2

植松:データ分析手法の背景には数理的基礎がありますので、基礎学力、特に数学力が高く、さらに背景理論まで含めて学修するような姿勢を持った学生に来てほしいです。

福田:まずは人間に興味がある人ですね。人間社会には脳レベル、個人レベル、社会レベルといったさまざまな層で捉えることができますが、どの層も対象とした分析を行うにしても、複雑な人間について文系的にも理系的にも興味を持ち、自発的に理解したいと考える人であってほしいです。

欅:情報アクセス技術に興味がある学生であって、新しい知識や技術の修得に積極的であり、教員と密なコミュニケーションをとることができる学生に来てほしいと思います。困っているときや悩んでいるときに教員に相談できるのは一つの能力でもあり、学修を深めるためには極めて重要です。

Q2:社会でどんなふうに活躍する人材を輩出したいですか?

画像:座談会の様子3

渡部:以前、国際学会の自然言語処理や機械学習を用いた経済予測のセッションに参加した際に、発表者に対して発表された現象の理由について質問すると、「自分はデータサイエンティストであってエコノミストではないから答えられない」と回答がありました。分析するだけでなく、その結果を理解できてこそ科学として成立すると思います。この学部で育てたいのは、広い視野を持ち、データサイエンスも社会科学も分かる人材です。

七丈:とにかく社会に対してインパクトを与えることができる人材に育ってほしいと思います。社会科学とデータサイエンスの両方を使いこなし、官公庁でデータドリブンに政策をつくる、企業で戦略意思決定を行う、そのような社会の第一線で活躍できる人材を養成したいと思います。

画像:座談会の様子4

加藤:データ収集や理論適用の手法は、目的や条件で異なります。課題に対するアプローチの仕方は、それぞれ全く異なるものと言えるでしょう。そうした状況を踏まえ、新たなやり方を試すことに抵抗感がなく、柔軟に対応できる人材を育成したいですね。

清家:情報技術は急速に変化しています。変化し続ける技術を表面的に追いかけていくのでは多くの労力を要してしまいます。しかし、何か核となるディシプリンをしっかりと持っているならば、それを基軸として変化に対して柔軟に対応していくことが可能でしょう。

城田:本学部は少数精鋭です。同学年、あるいは学年間のコラボレーションを通じて共創性を養っていきたいと思います。卒業後も交流を継続し、ネットワーキングのイニシアティブを執れるような人材を輩出したいです。

清水:これからの学生が生きる時代では、50年近く働くことになると思います。先端技術だけが未来を切り拓くわけではありませんが、日進月歩の世界では学び続ける力を身につける必要があります。学ぶ力が身についていれば、常に社会や企業の課題を的確に把握し、デザインし、解決することができます。

檜山:ソーシャル・データサイエンスを駆使して新しいビジネスを起こし、人の暮らしを良くする社会制度設計を実装できる人材を数多く輩出したいです。

永山:本学部で学ぶのはデータを活用しながら社会の諸問題を解決するというアプローチです。このアプローチを活用し、社会課題の解決に挑んでいける。そんな人材を養成したいと思います。

植松:最近は、データ処理を作業として行うためのツールが豊富にありますので、それを使えば誰でもある程度のことはできます。しかし本学部では、統計などの本質を理解し、意思を持ったデータ分析ができるようなスキルを身に付け、社会で活躍できるような人材を養成したいと思います。

福田:大学には、社会に送り出す学生の可能性を広げる機能と、専門領域を決める機能があると思います。自分自身は、可能性を広げる側に立ちたいと思っています。高校時代まで身に付けることがなかった考え方をこの学部で身に付け、社会に出て活躍してほしいですね。

欅:周りの人をうまく巻き込んで、チームで素晴らしいものをつくっていけるような人材になってほしいと思います。ソーシャル・データサイエンス学部では文理の垣根を越えて幅広い知識を学び、大学院では専門的な知識を獲得します。一人でも十分活躍できるような人材になっていることが期待されるものの、どんなスーパーマンでも一人でできることは限界があります。人を巻き込む力のある人材になってほしいですね。

Q3:ソーシャル・データサイエンス学部を、どのような場に育てていきたいですか?

渡部:他大学でもデータサイエンス系の学部ができ始めており本学としての独自性を打ち出していく必要性があります。本学部の最大の特長は社会科学とデータサイエンスを融合した学びにあります。これが社会に認められ、多くの学生が入るようになり、企業や官公庁の人にも参画していただき、共同研究などを実施していきたいと思います。社会との接点を常に意識して学部や研究科を発展させていきます。

七丈:国際性のある、外に開かれた学部でありたいと思います。行政や民間企業、市民を含む多様なステークホルダーを引き込み、議論し、課題を解決できる実践の場として機能させ、外部との関わりの中で学問を醸成していきます。

加藤:企業や公共機関などでデータを使って社会課題を解決していくための学部として、在校生だけでなく卒業生も交えて研究していける場であることが望ましいと考えます。そういう意味で、卒業生がいつでも戻って来られる拠点、基地のような存在でありたいです。

清家:学生が自由自在に教職員と相談し合い、課題を解決していける場にしたいです。

画像:座談会の様子5

城田:PBL(Project-Based Learning)演習では、実社会における問題を扱うことになります。学生自らも積極的に新たな課題を創出して解決へのアプローチを研究し、その成果に対して企業などからのフィードバックを得てさらに研究を進化させるといった、いい循環が生まれる場にしたいと思います。

清水:本学部は、18名の教員に、学生が加わったチームとしてスタートします。そして、学生の卒業後も、必要に応じてここで学び直して再度社会に出ていくという、生涯学び続けられるアルムナイ組織となって、世界と戦えるチームにしていきたいと思います。

檜山:教員や学生だけでなく、さまざまな分野でビジネスや公共サービスを実践している人や社会政策の受益者である市民といった、現場感覚を備えた、実践的な研究を行っていけるような組織でありたいと思います。

画像:座談会の様子6

永山:大学界は世界ランキングや、査読付き論文の本数といった目標への圧力にさらされがちな環境にありますが、本学部の教員のチームワーク力が有機的に機能すれば、大きな成果を創出することができるでしょう。したがって、学生も含め、極めてフレンドリーな学部や研究科でありたいと思います。何が人生の最期の光栄を高めるかと言えば、それは最期まで付き合ってくれる友人の存在であるという話があります。そんな仲間が集う場にしたいです。

植松:学部は1学年60名、大学院修士課程は1学年21名という小規模な組織です。教員も学生もお互いの距離が近くお互いに切磋琢磨できる環境を整えたいと思います。

福田:どんな学部・研究科になるかは学生が決めることでもあると思います。とにかく個性的な学生がたくさんいて、社会的に影響力のある学部・研究科になれるように努めたいと思います。

欅:ソーシャル・データサイエンス学部にはさまざまな学問分野に取り組む教員が集まります。その利点を活かして構成員同士で気軽にコラボレーションできる場所にしたいと思っています。お互いの分野を尊重する空気を醸造することが非常に重要だと思います。