447_main.png

SBAとICSがビジネススクール国際認証(AACSB)を取得

2021年12月22日 掲載

2021年7月、一橋大学大学院経営管理研究科・経営管理専攻/商学部(SBA)と、大学院経営管理研究科・国際企業戦略専攻(ICS)は、それぞれAACSB International-The Association to Advance Collegiate Schools of Business-(AACSB)国際認証を取得した。AACSBはハーバード大学やスタンフォード大学をはじめ世界58か国・910校(2021年7月現在)が認証を受けている世界的なビジネス教育の認証機関として知られ、日本国内では6校目、国公立大学としては初の取得となった。同機関の認証を受けたビジネススクールは世界全体で5%程度に限られている。そこで、その意義や取得プロセスについて、責任者であるSBAの加藤俊彦教授(専攻長)と松井剛教授、ICSの一條和生教授(専攻長)に話を聞いた。

AACSB国際認証取得の意義

加藤俊彦 経営管理研究科 経営管理専攻長の写真

加藤俊彦 経営管理研究科 経営管理専攻長

まず、国際認証取得の意義について、SBAの加藤教授は次のように語る。

「私たちが提供するマネジメント教育が国際基準に則ったものであることが裏付けられました。本学独自の要素とあわせて、教育プログラムの魅力をアピールできると思います。また、国際認証の取得によって、世界のビジネススクールとの間での交流協定を、これまで以上に結びやすくなります」

また、ICSの一條教授も次のように話す。

「グローバルに認知されるビジネススクールになるためには、世界のランキングに載る必要がありました。そのためには、AACSBなどの国際認証を得ている必要があります。この取得は、私が2014年に国際企業戦略研究科長(現在は組織改編により経営管理研究科・ICS専攻長)に就任した時からの悲願でした。国公立大学として一橋大学が第1号となったことは、本学の力量やレベルの高さを雄弁に物語っているものと自負しています。学生の学歴にステイタスが加わるメリットも大きいと言えるでしょう」

認証取得のプロセス

一橋大学ではSBAとICSがそれぞれ独自性をもって運営されているため、AACSBの認証プロセスも別個に進められた。また、SBAでは、大学院経営管理研究科・経営管理専攻と商学部が統合的に運営されていることから、一体としての認証となった。

認証取得プロセスは長期間に渡った。たとえば、SBAでは、2015年4月に当時の商学研究科として認証取得プロセスに入り、2021年7月の認証取得までに、6年以上を費やしている。その間には、認証取得済みの海外の大学で研究科長・学部長を務める「メンター」の訪問指導や、「学びの質保証」(Assurance of Learning)を確実にするための体系的な制度の確立、グローバルな基準に対応するためのカリキュラム再編、教育プログラムの内容や教員個人の研究成果から各スクールの戦略・財務的裏付けに至る広範囲の事項を詳細に記述した中間レポートの作成・提出、その中間レポートのフィードバックに基づく教育・研究体制の改善など、文字通り莫大な労力をかけてきた。このような高い負荷には、専任スタッフを含めた組織体制をSBA、ICSそれぞれで構築して、対応している。

この認証プロセスを進める一方で、一橋大学でマネジメント領域を担ってきた旧商学研究科と旧国際企業戦略研究科を2018年4月に経営管理研究科(一橋ビジネススクール:HUB)として統合・再編するとともに、ビジネスの最前線で働く人々を対象とする「経営管理プログラム」(平日夜間に千代田キャンパスで開講するMBAプログラム)を新たに開設するなど、変革の歩みを止めることはなかった。

「認証プロセスを着実に進めながら、従来の体制を大きく改革していくのは、本当に大変でした。しかし、トップクラスのマネジメント教育・研究機関として、本学が今後も発展していくためには、いずれも避けては通れない道でした」と加藤教授は振り返る。

多様な要求への対応

AACSBの認証プロセスでは、画一的な基準に照らして教育内容が単純に評価されるのではなく、各スクールが掲げるミッションに応じて、教育プログラムの妥当性が審査されるとともに、その裏付けとなる組織としての能力や体制も、綿密に検討される。

たとえば、教員の研究水準。一橋大学は、起源となる商法講習所開設以来、わが国のマネジメント教育・研究において、一貫して主導的な地位にある。しかし、優れた研究とされる基準は、国内でも海外でも、年を追うごとに変化する。近年では、社会科学の領域でもグローバル化が進むとともに、研究成果の発表媒体も、専門書から学術誌に掲載される論文へと重点が移行している。とりわけ次世代研究者の養成を担う一橋大学では、AACSBの認証プロセスでも、グローバルな基準で高い研究水準にあることが求められる。

その一方で、マネジメント領域の第一線に立つ大学として、狭義の学術的な領域で評価される研究だけに焦点を絞り込むわけにもいかない。MBAやエグゼクティブプログラムなどにおいて高度で実践的な教育を提供することも、一橋大学が果たすべき重要な役割である。また現実社会との関係やそこでの影響力も無視できない。矛盾しかねない異なる要求を同時に満たさなければならないのである。

「認証プロセスでは、トレードオフとなるような問題も少なくなく、その対応に労力を費やしました」(加藤教授)。

カルチャーを根本的につくり変えるインパクト

一條和生 経営管理研究科 国際企業戦略専攻長の写真

一條和生 経営管理研究科 国際企業戦略専攻長

この点においては、一條教授も「ICSのカルチャーを根本的に作り替えるほどの要求でした」と振り返る。なぜならば、ICSにおいては少人数の学生に対して100%英語でインタラクティブな授業を行うといった、教育の質を最重視してきたからである。

「したがって、研究に割く時間やパワーはなかなか持てず、教員のSA(Scholarly Academics)比率(博士号を有し、かつ高い研究成果を生み出す教員が教員全体に占める比率)は半数程度にとどまっていたのです。当初のメンター来校時に『少なすぎる』と指摘されたのは想定外でした。そこは当方の認識に甘さがあったと思いますが、SAを20%も増やすのは至難の業でした」(一條教授)。

少人数教育をモットーとするICSの専任教員は15名程度に制約されており、単純にSAを増員することはできず、かといってドラスティックに入れ替えることなどできなかったからである。そこは、非SAの教授陣に論文執筆を促すとともに、退任補充時にSAに限定して採用するなど時間と労力をかけざるを得なかった。

「教育だけでなく研究もハイレベルでなければ、世界トップレベルのビジネススクールにはなれないということが再認識できました。6年間苦労しましたが、結果的にSAになった教授にしてもICS全体にとっても、名実ともに世界トップレベルとして認められたわけですから、大きな成果につながったと思っています」と一條教授は話す。

「1年生からのゼミ教育」などが高評価

AACSBの認証プロセスで高く評価された項目もある。まずは一橋大学の伝統でもある「ゼミナール教育」だ。

「負荷の大きい少人数教育を学部の1年次からMBA、博士課程まで一貫して行っているのは世界的にも極めて珍しく、非常に高く評価されました」と松井教授は話す。

また、一橋大学は歴史のある日本のリーディングスクールであることや、如水会をはじめとする産業界との深いつながりも高く評価された。

「世界有数のビジネススクール32校が加盟する連携協定のGNAM(Global Network for Advanced Management)や、日中韓のトップビジネススクールによるBEST、ダブル・ディグリーといったグローバルネットワークによるプログラムなど、ICSの革新的な取組が高く評価されました」と一條教授も話す。

ミッション・ステートメントの具現策

AACSBの国際認証において重視されているのは、自ら掲げるミッション・ステートメントを具体的にどのように実現させているかということである。SBAもICSも独自のミッション・ステートメントを定めている。

たとえばSBAのミッション・ステートメントはこのようなものである。

We foster Captains of Industry who create value for business and serve communities in Asia.

このステートメントは、次の3要素から構成されている。
① LEADERSHIP/foster Captains of Industry:洞察ある知識と効果的なコミュニケーション・スキルを併せ持つリーダーを育成する。
② INNOVATION/create value for business:創造性と高度な専門的スキルを併せ持つプロフェッショナルを育成する。
③ INTEGRITY/serve communities:他者を思いやりグローバルな視野を持つコミュニティ志向の市民を育成する。

これら3要素を、どの授業でどのように育成・強化しているかを明らかにしなければならないのである。たとえば、"INTEGRITY"に関しては特定の講義で教えるのではなく、すべての授業に企業倫理や社会との関係に関わる問題を取り上げるコマを加えることにしている。

「もちろんCSR(企業の社会的責任)や企業倫理に触れる講義はこれまでにもあったものの、カリキュラムとして体系的に教えるという形ではありませんでした。そもそも日本人は一定の倫理性を備えていると考えていましたが、AACSBの基準からすれば甘いと指摘され、すべての講義で明示的に取り上げることにしました」(加藤教授)。

5年ごとに質を再検証する機会

松井剛 経営管理研究科 教授の写真

松井剛 経営管理研究科 教授

前述のように、AACSBの国際認証の取得プロセスに入って以降、SBAとICSが経営管理研究科(一橋ビジネススクール:HUB)に再編された。

「取得プロセスをともにする中で、ICSとSBAは頻繁に情報交換やサポートし合うことになり、結果的にAACSBが橋渡しの役にも立ったことは良かったと思っています」(一條教授)。

AACSBのメンバーであるビジネススクールは、海外で毎年行われる総会やカンファレンスなどに原則として参加する必要がある。こうしたコストや時間を割く負荷はあるが、ほかの世界トップクラスのビジネススクールとの交流や情報交換、自校のプレゼンス強化の点で意義がある。

なお、AACSBは5年ごとに再認証を受けなければならない。

「今回は初めてのことで分からないことが少なくなく、正直大変な思いをしましたが、2回目以降はもう少しスムーズに再認証取得を進めることができると思います。5年ごとに自校の教育・研究の質を再検証し高める機会になればと思います」と松井教授。

AACSB国際認証取得によって、国内外の学生や研究者、ビジネスパーソンに対してSBAとICSの教育・研究の質の高さをアピールできるようになった意義は大きいと言えるだろう。