409_main.jpg

コロナ下の就職活動をオンラインで乗り切る

2020年12月24日 掲載

新型コロナウイルス感染症の拡大で人々の外出行動が大きく制限される中、山場を迎えた2021年3月に卒業する学生の就職活動。どのような変化が生じたのか、それらにどのように対処したのか、そして今後の見通しについても、一橋大学学生支援センターキャリア支援室や、この期間に就職活動を行った学生及び企業の採用担当者から話を聞いた(敬称略)。

オンラインでの相談や情報提供体制を整備

新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、キャリア支援室はどう動いたのか。

「なによりも学生の皆さんの安全を第一に考えました」と竹内キャリア支援室長は言う。まず、採用広報解禁日の3月1日から6日間にわたって開催する予定だった学内会社説明会の形態を大きく変更した。例年は、西キャンパス本館全室を数日間貸し切り、約300社が参加する大規模な学内会社説明会を開催してきた。だが今年は、学生の安全を最優先し、参加企業にも協力を仰ぎ、企業情報をオンライン配信する形に変えた。

また、キャリア支援室にはキャリアアドバイザーが常駐し、学生からの個別相談を受け付けていたが、そのオンライン化を進め、3月上旬にはウェブ会議システムを使ったオンライン相談に全面移行した。オンラインに早期に移行できたことで、相談を利用した学生たちもウェブ会議を使った面接に慣れることができたという。

「例年通りのスケジュールに則した準備が役に立たなくなり、コロナ禍で採用方針がなかなか決まらず、学生への連絡もない企業への対処法といった相談などがありました」とキャリア支援室・坂田キャリアアドバイザーは語る。

そこで、オンラインでの就職活動のノウハウや注意点など、学生が知りたい情報をまとめて学内限定のウェブサイトで共有していった。学生もオンラインでの選考に慣れはじめ、当初の混乱は、少しずつ収まっていった。また、採用活動における感染症対策は企業によって異なっており、そうした企業側の対策を比較することで、志望先企業を改めて考える機会を持てた学生もいたとのこと。

入社の意思固めに悩む学生も

公務員試験は約2か月後ろ倒しとなり、公務員志望者の民間企業等の併願スケジュール管理は例年より難しくなった。「この状況となったことで、自分は本当に公務員を目指したいのか、何をしたいのか等を改めて自問自答した結果、納得感を持って公務員受験、民間企業内定承諾などの選択ができた学生が複数いました」と坂田は説明する。
結果的に、例年通りの就職状況に落ち着いたものの、学生の心理は例年通りとも言い切れないという。

「通常、学生の皆さんは就活で実際に企業に足を運び、その企業で働く人と対面する中で、親近感を持ったり働くイメージを形成したりします。しかし、今年はそうしたプロセスを経ずに内定を得た学生も多かったようです。リアルな接点が減ったことで、意思決定の決め手に欠けると感じる人もいました」と竹内は指摘する。

こうした課題もある一方で、オンライン行事のメリットもある。キャリア支援室は、10月から1年生から3年生を対象に「業界研究講座」をオンラインで開催した。企業側の講演者には一橋大学OB・OGも多く、受講者も本学学生限定である点が特徴だ。オンライン化もあって、企業の講演者は通常よりもリラックスしており、学生側から見ても親しみやすく質問しやすい雰囲気ができているという。また、学生は顔を出さずに匿名のチャットで質問できるようになったことで、リアルの時よりも質問が増え、対面とは違った形の積極的なコミュニケーションがとれる効果もある。

今後、キャリア支援室は、学生がキャンパスに来なくても気軽に相談できるオンライン体制を継続させるとともに、本年度に蓄積したオンライン就活のノウハウをマニュアルとして整備する。さらに、学生の履修内容や就職活動のデータを蓄積・分析し、より的確な就職活動に導くといった施策も検討する構えだ。

「今年は大きな混乱があり、就活の在り方も変わりました。それでも、一橋大学で育った学生の皆さんが自信と希望をもって社会に出ていくために、一人ひとりの就活を支えるというキャリア支援室の使命に変わりはありません」と竹内は話す。

採用活動の本質は、コロナ禍でも変わらない

画像:持田 恭平氏

三井住友銀行
人事部採用グループ長 持田恭平氏

学生を採用する側において、新型コロナウイルス感染症の問題はどういった影響をもたらしたのか、三井住友銀行人事部採用グループ長持田恭平氏に尋ねた。

「2021年4月入社の採用において、コロナによって採用人数や採用スケジュールを変えたということはありません」と持田氏は言う。

採用活動は、大きく採用広報と採用選考の2つのフェーズに分けられる。採用広報においては、就職情報サイトへの募集情報の掲載や自社採用サイトの設置、大学や就職情報サービス会社主催の合同及び自社単独のセミナー/説明会による情報提供等が該当する。これが一斉に始まるのは3月1日で、新型コロナウイルス感染症拡大が強く懸念された時期。同社が参加を予定していたセミナー/説明会は全て中止となった。その代わり、就職情報サービス会社がオンラインでの実施に切り替えた合同セミナーに参加したり、自社独自のセミナー動画を配信するなどオンラインによる情報提供に切り替えた。

「オンラインでの採用広報に関しては、むしろ学生や企業の双方に大きなメリットがあったと評価しています。会場に移動する時間や費用をカットでき、加えて企業側は1回の配信で何千人もの学生にアプローチできましたので、非常に効率化できました」

採用選考のほうはどうか。結果的に同社は、学生の安全を第一に考え、最終選考まですべての面接をオンラインで行った。このプロセスに関しては、学生側に従来のリアルな対面ほどの納得感が得られたかどうか、不安があるという。

「本来の最終面接は、スーツを着て企業に行き、会議室に入って最終面接官と直に会い、入社の意思確認を行うという緊張感を伴う場があるわけです。それが、自室にいて画面上で行うということに対し、どこまで実感を伴うものなのかに疑問は残ります。また、当方にしてみれば実際に学生に対面することで感じ取れる雰囲気といったものは得られなくなりましたが、今年に関してそこは"割り切った"としか言えません」

そのほか、オンライン化のメリットとして、地方や海外に居住する学生とも楽に面談できるようになったことや、学生に同社の海外駐在の社員とコミュニケーションを取ってもらいやすくなったことなども挙げられるという。
来年度の採用活動について、持田氏は次のように総括する。

「今年、初めてコロナ禍環境における採用活動を行い、その本質はコロナ以前と何ら変わりはないといえます。ただし、方法論として面接はやはりリアルのほうが勝るので、来年度は状況を見ながら、リアルとオンラインを使い分ける方策を探りたいと思っています」

最後に、就職活動に臨む後輩に次のようなアドバイスを送ってくれた。

「ビジネスの世界は、テクノロジーの進展などで目まぐるしく変化し、今年はコロナでいっそう複雑な変化となりました。今後もこうした状況は続くでしょう。先々の予測が誰しも困難な環境にある中、就活に際しては断片的で表面的な情報に左右されることなく、自分の価値観や興味・関心に従った就職先探しをしてほしい。その結果、入社した会社でいい仕事ができ、成長できると思います」

オンライン面接にメリットを感じました

画像:羽衣 杉雄氏

社会学研究科修士2年 羽衣杉雄

コロナ禍の就職活動を学生はどう受け止め、どう動いたのか。

まずは、社会学研究科修士2年の羽衣杉雄の場合。修士1年の9月から、学内に毎回20社前後の企業を集めて行われた業界研究セミナーやインターンシップセミナーに参加し、リアルでの情報収集をスタートする。その後、関心を持った"現場×IoT"という軸に沿って、輸送機器や物流などの業界の30社ほどをピックアップし、3月1日解禁の会社説明会に備えた。

「それがコロナですべて中止となり、代替のオンライン説明会の予定も企業によっては不透明だったため、最初は困惑しました。オンラインの情報だけをもとに志望動機を考えることにも不安があり、キャリア支援室にも相談しました」と振り返る。

その後のオンラインによる選考過程では、企業によってウェブ会議システムが違い操作方法に戸惑うこともあったが、回を重ねるうちに慣れていったという。

「3月以前のリアルなインターンシップの選考でグループ面接があった際、自分と他の学生を比べて緊張したこともありました。一方でオンライン面接は1対1が多く、"ノックは3回"といったマナーも気にしなくてもよく、リラックスして臨むことができました。また企業訪問の必要がなくなったため、スケジュール調整もしやすかったですね」と話す。しかし、3月以降に初めてオンライン上で接触することになった企業の場合は、どう対応していいか悩むこともあったという。

「どの会社も、なるべく一度は実際に就労現場を見学して、そこで自分は何を何故やりたいのかという志望理由を組み立てるようにしていました。それがコロナで難しくなった後は、過去10年分の新聞記事を読んで情報を収集するなど、自分なりに工夫していました」
羽衣は、意中の輸送機器メーカーを含む2社から内々定を得ることができた。

「職場見学などはリアルで、選考はオンラインでも十分ではないかと思います」と結んだ。

「有事への対応力」について考えるきっかけになりました

画像:髙橋 岬希氏

経済学部4年 髙橋岬希

次に、経済学部4年の髙橋岬希の場合。入学当初から長期海外留学を志望し、5年かけて卒業する計画を立て、実際に3年次の9月から4年次の7月までフランスのエセック・ビジネススクールに留学する。帰国後、所属している体育会テニス部に復帰し、引退後の2019年9月から就職活動をスタートさせた。

「家庭の都合で8年間、海外で暮らしたこともあり、英語を使う仕事をしたいと総合商社や外資系のメーカー、金融機関などに的を絞り、30社にエントリーしました」と言う。複数のオファーの内、ある総合商社の内定を承諾した髙橋は、理由を次のように話す。

「コロナ禍で、学生への思い遣りが特に強く感じられた企業でした。たとえば、全体的にオンラインとリアルの面接が混在する中、学生が外出先でもオンライン面接ができる会場を確保してくださっていました。また、各面接後には面接官からのコメントや激励がマイページに届いていました。直接お話しできない状況だからこそ、積極的にコミュニケーションを取ろうと歩み寄ってくれる姿勢が嬉しかったです。こうした、相手を尊重するカルチャーに好印象を抱き、入社を決意しました」。髙橋は就職先を決めるに当たり、自分の評価基準に従って企業を観察し、有事における企業の行動を細かくチェックしたのだ。

髙橋の就職活動を支援してくれたのが、自らが所属するテニス部のOB・OGたちだった。コロナ禍の中、オンライン面接の練習相手になってくれたという。「特に最終面接を想定した面接を、部長クラスのOBが担ってくださったのは、とても助かりました」と言う。

また、「就活で知り合った他学生とのコミュニケーションも役立ちました」と話す。例えば、オンラインの特性を理解し、うまく活用できている学生が企業から高い評価を得ていた、といった情報だ。「Zoomなどに慣れていない学生にとって、こうしたテクニックの活用で相手に与えるインパクトが変わるというのは貴重な情報でした」

最後に、髙橋は後輩たちに次のようにアドバイスを送る。

「環境変化の影響でやりたいことができなくなり、『学生時代に力を入れたこと』が見つからないと思う人もいるでしょう。しかし、状況変化にどう対応したか、企業はそこを評価するのではないかと思います。"ピンチはチャンス"の精神で前向きに対処してほしいです」