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世界各国の現場に出向き、諸問題の解決に資する人材を育成する法学部グローバル・リーダーズ・プログラム

2019年10月25日 掲載

高い専門性を持ちつつ、
ジェネラリストとしての素養も同時に備えた
グローバル・リーダーの育成に向けて

グローバルに活躍するための高い専門性を持ちつつ、ジェネラリストとしての素養も同時に備えた「リーダー」。法学部「グローバル・リーダーズ・プログラム(以下、GLP)」は、このような人材を育成するため、2017年度から始まった特別教育プログラムである。

大学1年次が終了した時点で10人程度の学生を選抜。「グローバル・リーダーズ選抜クラス」を形成する。GLP学生には、法律学・国際関係学を二つの大きな軸として、多くの専門科目を英語で提供すると同時に、海外大学との合同ゼミや海外留学などを効果的に組み合わせた学習の機会も提供している。そして同プログラムが定める単位を修得すると、卒業時にプログラム修了証書が授与されるという仕組みだ。

自身の専門性にとどまらず、人文・社会科学の幅広い素養を身につけた修了生は卒業後、国際機関、NGO、法曹界、学術界、ジャーナリズム、グローバル企業などで活躍することが期待される。プログラム初年度である2017年度に選抜された第1期生は、現在4年次の秋を迎えている。詳しくは後述するが、第1期生は2018年(3年次)8月~10月に海外留学に出発。それぞれ現地で1年間の留学生活を体験し、帰国したところだ。

今回HQでは、法学部GLPを統括している大学院法学研究科・青野利彦教授に取材し、同プログラムにおける具体的な取り組みや、選抜された学生の志向、「グローバル・リーダーズ・プログラム選抜クラス」の枠を超えた可能性について語っていただいた。

併せて、留学から帰国した第1期生への取材も実施。同プログラムを体現する学生たちの生の声を通して、法学部GLPを立体的に紹介していこう。

英語によるディスカッションや
海外の学生との合同授業を通して
留学の準備を行う

法学部GLPのコンテンツを、改めて時系列で紹介しよう。

1年次の冬、1月に選抜試験が行われ、2回にわたる選考を経て内定が出される。冬学期の成績が確定した段階で正式な合否が決定。選抜された学生は3月末、2日間のキックオフ・ミーティングに参加する。

2年次からいよいよ選抜クラスのメンバーとして、留学を前提にさまざまな「準備」がスタートする。前半の春・夏学期では、GLP Core Seminar(週1回)を履修。これは課題文献を読み込んだうえで、メンバーと英語でディスカッションを行う必修科目だ。

「留学先では必ずディスカッションが行われます。テーマを自分なりに消化した上で意見を発信する、という訓練は欠かせません。ですからGLP学生たちはかなりインテンシブに取り組んでいますね」(青野教授)

同じく必修科目であるGLP国際セミナーでは、韓国、台湾、香港、中国、英国、ベルギーの大学との合同授業が毎年開講されている。たとえば英国・ケンブリッジ大学、韓国・ソウル大学とは2017年度、2018年度と続けて合同セミナーが実施された。基本的にコミュニケーションは英語で行われる。

「たとえばソウル大学との合同授業では、東アジアの国際関係について設定されたいくつかのテーマをもとに、双方の学生によるプレゼンテーションと議論を行いました。その時はソウル大学の学生を本学に招きましたが、今年度(2019年度)は私たちが韓国を訪問する予定です。このように交互に行き来しながら、数ラウンドの議論に加え、ランチや夕食会などで交流を図ります。これも留学の準備の一環です」(青野教授)

なお、GLP国際セミナーについては、GLP学生以外の学生も参加できるようになっている。その意図については、本記事の最後に青野教授のコメントを通してお伝えする。

留学先について、教員からの指定はなし。
学生自身が受けたい科目を下調べし、
留学先を絞り込む

2年次の春学期からは、留学に向けた具体的な準備も始まる。

法学部GLPの留学は、「一橋大学海外派遣留学制度」を活用して行われる。その制度の助成を得て、ほとんどの場合は交流協定のある大学に留学することになる。そこでGLP学生は、応募に必要な自己推薦書や留学計画書などさまざまな書類を用意するのだ。ただしその時、教員が学生に留学先を指定することはない、と青野教授は語る。

「学生自身が留学したい大学に応募する、これが大前提です。GLP学生を見ていると、自分が興味のあるテーマを学べる大学をしっかり下調べしていますよ。『この先生の、この科目を履修したい』という明確な選択肢をいくつか持っています。我々教員がアドバイスをするのは、その選択肢をもとに応募する段階です。A大学よりB大学のほうが単位互換を活用できるね、というように。学生が自分で絞り込んだ上で応募し、ミスマッチはあまりないようです」(青野教授)

「もっとも......」と青野教授は付け加えた。

「仮に授業の内容が、ミスマッチというか、学生の関心から外れたものだったとしても、それはそれで一つの発見です。想定外のところから何かを学び、学生自身の考えや志向が違う方向に展開する。学生生活の中でそういうことが起こるのも良いのではないでしょうか」(青野教授)

その後、秋学期の初めまでには留学先が内定する。第1期生の場合は、米国・ハーバード大学、フランス・パリ政治学院、カナダ・ブリティッシュ・コロンビア大学、韓国・ソウル大学......など、そうそうたる留学先が名を連ねている。

そして3年次を迎え、GLP学生たちはそれぞれゼミに所属し、引き続きさまざまな科目を履修しながら、夏学期の後半から順次留学先へと旅立っていく。

「選抜されたメンバーのなかで、もまれてみたい」
そんな強い動機付けが、忙しさに埋没することなく
自らをマネージするための原動力に

言うまでもないことだが、選抜された学生たちは、法学部GLPの指定科目だけを履修しているわけではない。通常の授業があり、3年次になればゼミがあり、クラブ活動などにも参加している。その忙しさに埋没することなく、自らをしっかりマネジメントできるのは、初期段階で相当強い動機付けがあるからだろう。

「応募の段階ですでに学生のモチベーションはかなり高いと思います。志望理由については、提出された小論文を読み、面接で直接話も聞きますが、なんとか自分の言葉で伝えようとしている姿はまぶしいほどです。『発展途上国の開発の問題に携わりたい』『国際機関で働きたい』『ジャーナリストになりたい』などなど。大講義室で見かけるだけだったあの学生が、こんなことを考えていたのか、と感動すら覚えます」(青野教授)

そして、応募する学生に共通している志望理由は、「選抜されたメンバーの中で、もまれてみたい」というものだそうだ。

「実際、選抜された学生たちの接点は多いはずです。GLPの指定科目やゼミ、学部での通常授業が重なるメンバーは多いでしょう。セミナーでは英語で意見を交わし合い、お互いに少しずつ成長していく様子を確認します。留学先は一人ひとり異なりますが、SNSで状況を共有し合っているでしょう。それぞれ日本語が通じない環境で授業に参加し、友人をつくり、旅行をして......という経験を、今度は帰国後に持ち寄るわけです。全員間違いなく留学前とは変わっているでしょうし、相当刺激を与え合うのではないかと楽しみにしています」(青野教授)

GLP学生とは異なるモチベーションの
学生・大学院生とのインターアクションで、
スピルオーバー(波及効果)を生み出す

2019年度の夏からは、第2期生が留学に出発する。法学部GLPは今後もコンテンツを進化させながら、グローバルに活躍できるリーダーの育成を進めていく予定だ。青野教授は、進化についての重要なキーワードとして「スピルオーバー」を挙げる。

「法学部GLP本体の授業をさらに充実させるために、選抜メンバー以外の学生や大学院生たちへの波及効果=スピルオーバーを強く意識しています。先述のGLP国際セミナーにはぜひ一般の学生も参加してほしかったので、改めて予算を取り直し、参加費の補助に充てました。またベルギーのセミナーには、すでに2017年度から大学院生も参加していますが、今年度からは英国セミナーにもそれを拡大しました。

GLP学生たちとは違ったモチベーションを持った学生、専門的見地から意見を発信できる大学院生。こういった人たちが加わることによって、ディスカッションのレベルが底上げされるなど、お互いに良いインターアクションが生まれるはずです。

諸問題を抱える世界各国の現場に出向き、そこでバックグラウンドが異なる人たちと共同作業を行いながら、問題の解決に資する。法学部GLPがそんな人材を育成するためには、スピルオーバーというキーワードは欠かせません」(青野教授)

志を同じくする仲間と出会い、先生方の思いにふれ、
自分の将来を描くことができました

写真:室田 茉悠花さん

室田 茉悠花さん
(アメリカ・ハーバード大学留学)

私がGLPに応募した理由は、「同じ志を持つ仲間と出会いたい」と思ったからです。法学部は小規模とはいえ、170名の学生がいます。その中で、国際関係について深く学びたい、留学をしたいと考える仲間と出会う場が欲しかったのです。

そして、実際にGLPには好奇心旺盛で問題意識の高い学生が集まっていました。要求水準が高く、ハードなことで知られるゼミに自ら進んで入り、関心のあるトピックについてしっかり自分の意見を持っているような学生ばかりでした。

出会えたのは、GLP生だけではありません。「GLP国際セミナー」という授業でケンブリッジ大学の学生と交流する機会がありました。彼・彼女らは、日本人である私たち以上に日本のことをよく知っていて、その勉強量には驚かされました。

また、先生方との距離が縮まることも、GLPの魅力の一つです。留学先に提出する推薦書を書いていただくため、それまで足を踏み入れたことのなかった先生方の研究室に伺い、普段の授業では聴くことのできない先生方の思いを知ることができたのも、私にとっては大きな収穫でした。

私がハーバード大学を留学先に選んだのも、ある先生から頂いたアドバイスがきっかけになっています。「アメリカでは学生同士のインタラクションが、イギリスでは教授と学生のマンツーマンの関係が重視される。あなたはどんな勉強がしたい?」という先生の言葉を受けて、漠然とした憧れを抱いていたオックスフォード大学ではなく、ハーバード大学に留学することを決めました。

写真:留学中の様子(室田 茉悠花さん)

室田 茉悠花さん
(アメリカ・ハーバード大学留学)

9か月間の留学を一言で表現することは難しいですが、日本での生活と大きく違ったのは、留学先では「自分の時間」が豊富にあったことです。自分の価値観とは何か、自分にしか発揮できない力とは何か、そして自分は何になりたいのか......。留学は「自分」と向き合う良い機会になりました。

そんな留学生活を通して、自分の進路が少し絞りこまれたように感じています。ハーバード大学の卒業生は、多くがコンサルティングや金融など各業界のトップレベルの企業に勤めますが、政治家やNPOの代表などパブリック・セクターで活躍する方も多くいて、よく大学に講演にいらっしゃいます。様々な進路を選んだ方々のお話を聴いていて、「私には、利潤を追求する仕事より、公にサーブする仕事のほうがきっと合っている」と気づいたのです。

GLP生、先生方、海外で知り合った学生たち...。すべての出会いが私に刺激を与えてくれました。留学から帰国した今、改めてGLPの魅力は「多くの人との出会い」にあると感じています。(談)

アイデンティティの模索から、社会問題の「現場」へ。
学び方に指針を与えてくれたプログラムです

写真:松山 英里香さん

松山 英里香さん
(フランス・パリ政治学院留学)

実を言うと入学当初、留学をする予定はありませんでした。高校卒業までの5年間、父の仕事の関係でカナダで暮らしていたこともあり、関心は日本にありました。

カナダでは市民権も永住権もないある種の「移民」的な立場でした。そして日本に帰国すると、ふつうの受験生とは違う位置づけだった私は、自らのアイデンティティの置きどころを模索することが先決だったのです。しかし、法学部のガイダンスでGLPの創設を知り、考えが変わりました。それでも、留学だ!と180度転換したわけではありません。「自分の学び方に指針を与えてくれるプログラムだ」と直感し、エントリーを決めました。

GLPの修了要件では、「法律学(法学部GLP指定科目以外)・社会学・経済学・商学・経営学のいずれかの分野で16単位の取得」が定められています。この枠組みを活かして、私は「移民」「難民」というキーワードから社会学を学んでみようと思いました。そしてフランスにおける「移民二世」とその排除の問題を研究されている森千香子准教授の科目を履修したのです。それがきっかけとなり、現地でのボランティア活動も視野に入れ、パリ政治学院への留学を決意しました。

パリでは勉強のかたわら、炊き出しや衣類の提供といった移民支援活動に参加しました。やってみて分かったのは、移民とホームレス化したフランス人の違いは、接してみるまで区別がつかないということです。問題の根深さや複雑さを目の当たりにしました。

写真:留学中の様子(松山 英里香さん)

また、留学期間中にヨーロッパ中を旅行できたことも大きな収穫です。ウクライナから来ていた学生と仲良くなり、キエフを案内してもらった時のことです。クリミア半島問題、チェルノブイリなど、ネガティブなイメージを持ったまま訪問した私を、友人は意外な場所に案内してくれたのです。オペラハウス、工芸品博物館、正教会大聖堂......その一つひとつに新鮮な感動を覚えました。

このような機会を得て帰国した今、私が感じているのは「現場を見なければ、何も分からない」ということです。このプログラムがきっかけとなり、さまざまな科目に触れることで、得られた発見だと思っています。今後は「現場を見に行くこと」を軸にして、残りの学生生活で自らの学びを体系化していくつもりです。(談)