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ライフイベントと研究活動の両立を目指す 未来に向けた「男女共同参画推進事業」の取り組み

2016年冬号vol.49 掲載

140周年記念企画~新しい時代へ~

女性活用やダイバーシティの推進が社会的な潮流となっている現在、男女共同参画の推進は大学や研究機関においても喫緊の課題となっている。一橋大学では、男女の差別なく優秀な人材が研究活動に邁進できる環境づくりを目指し、男女共同参画への取り組みを続けている。ここでは、2013年に男女共同参画推進事業の組織体制を整備し、未来にあるべき研究環境づくりにいっそうの注力を図る本学の活動内容を、2015年9月29日に開催されたシンポジウムの内容とあわせて紹介する。

四つのポリシーと組織体制を備える一橋大学の男女共同参画推進事業

一橋大学では、性別に関わりなく研究活動ができる環境づくりを目指し、男女共同参画に関する取り組みを続けている。意識醸成と啓発活動の推進、ハラスメントの防止と排除、ワーク・ライフ・バランス向上のための学内体制整備、均等な機会確保の四つを男女共同参画ポリシーとし、その推進を担う組織として、学長を本部長とする「男女共同参画推進本部」が設置されている。
2013年8月には、文部科学省の「女性研究者研究活動支援事業」に採択されたことを機に、男女共同参画推進室が開室、その後女性研究者研究活動支援事業ワーキンググループが発足。女性教員・研究者の増員と、女性が働きやすい環境・インフラの整備を主な目的として、さまざまな活動を開始することとなった。
男女共同参画推進本部は、本部長である蓼沼宏一学長、佐藤宏理事・副学長のほか、2人の役員補佐、6人の研究科長、研究所長等で構成(体制図)。規則に定められた業務推進に加え、採用や登用に関する数値目標設定や達成に向けたアクションプランの策定といった役割を担っている。その内容に沿った事業執行の総括や連絡調整を実施するのが男女共同参画推進室(室長/佐藤宏理事・副学長)であり、女性研究者研究活動支援事業ワーキンググループは、支援に関し実効性のある方策実施を担う役割となっている。

男女共同参画推進本部体制図

一橋大学男女共同参画ポリシー

蓼沼 宏一

一橋大学長
男女共同参画推進本部長
蓼沼 宏一

1999年に施行された男女共同参画社会基本法は、性別に関わりなくすべての人々がその能力と個性を発揮することができる社会の実現を、21世紀における我が国の最重要課題として位置づけています。
一橋大学研究教育憲章が掲げるように、一橋大学は、日本及び世界の自由で平和な政治経済社会の構築に広く貢献するリーダーの育成をミッションとしてきました。グローバル化が進む現代社会におけるリーダーにとって、人々の個性、多様性の尊重はとりわけ重要であり、一橋大学はこうした観点に立って、大学における男女共同参画を推進します。

  1. 男女共同参画社会への意識を醸成するため、様々な機会を通じて学内における啓発活動を推進します。
  2. 教職員・学生等が性別に関わりなく対等の人格として尊重される環境を享受できるよう、ハラスメントの防止と排除に努めます。
  3. 教職員・学生等のワーク・ライフ・バランス向上のため、学修・教育研究・就業とライフイベントの両立に向けて、学内体制を整備し、育児・介護支援などを推進します。
  4. 多様な人材の確保による教育研究活動の活発化のために、教職員の採用・昇進等において男女の均等な機会を確保します。

支援体制整備、意識啓発などを柱とする女性研究者支援のための活動

こうした推進体制の中、男女共同参画を目指した女性研究者支援のための活動は、主に四つの項目で構成されている。
一つ目は、女性研究者に対する支援体制と相談体制の整備。相談体制に関しては、相談室にカウンセラー資格を保有する相談員を配置し、専門的な見地から女性研究者や学生をサポートする活動を積極的に展開している。また、ベビーシッター利用支援事業では、事前に実施したアンケートの結果を踏まえることで、適切な支援体制を構築することに成功した。その他、ランチ交流会という形式で実施される「グループメンタリング」も、参加者となる女性研究者たちに有益な情報を提供し、研究科を超えたネットワークを形成する支援事業となっている。
二つ目は研究支援員の配置だ。出産、育児、介護中の女性研究者と、女性研究者を配偶者に持つ男性研究者の活動を支援する人材を募集。それぞれの研究者と支援員候補者をマッチングさせることで、研究とライフイベントの両立を実現するサポート体制を構築した。
三つ目は、研究組織の幹部、研究者等への意識啓発活動だ。この活動では、女性研究者の育成・支援をテーマとするシンポジウムの開催のほか、学内の各部局に対し女性教員採用促進の方針や数値目標に関する調査を実施し、女性研究者支援・採用に対する意識の向上を図っている。また、啓発推進セミナーの開催、本学附属図書館と連携した関連図書の貸出・展示イベントである推進フェア開催、ホームページ・ニュースレターによる広報活動といった意識啓発の取り組みにも注力している。
四つ目の柱となっているのが、女性大学院生に対するキャリアパス支援活動である。この活動は、ロールモデル集の発行による学内外の研究者紹介やキャリア支援室(大学院生担当)との連携で開催する、女性大学院生に向けたキャリア構築をサポートするセミナー「アカデミック・キャリア講習会」を中心に展開されている。このセミナーは、博士課程への復学、論文の出版など大学院生からの要望の多い、キャリアパスに関わる幅広いテーマを設定して開催されている。

介護問題など、男女を問わない幅広い支援活動に取り組む

今後の活動については、出産・育児といった女性研究者のキャリアに大きく関わるライフイベントに関するものだけではなく、男女を問わず大きな課題となっていく介護の問題などにも着目し、より幅広い層の研究者を対象とする支援にも取り組むということだ。
次ページからは、今後の取り組みの礎となったこれまでの3年間の活動を振り返る。活動報告として開催された9月29日のシンポジウムの内容に加え、制度を利用した女性研究者の声を紹介し、本学の男女共同参画の実情を明らかにしたい。

2014年9月に開催したグループメンタリングの様子

2014年9月に開催したグループメンタリングの様子

研究者ランチ交流会での育児支援セミナーの様子

研究者ランチ交流会での育児支援セミナーの様子

報告写真1

シンポジウムを開催する等、研究者への意識啓発活動を積極的に行ってきた

報告写真2

2015年8~12月、附属図書館と連携して男女共同参画推進フェアを開催

報告写真3

アカデミック・キャリア講習会では、研究者を目指す女性大学院生を支援

パネル展示の様子

パネル展示の様子

多様な研究者の活躍をめざして
女性研究者研究活動支援事業シンポジウム

女性研究者支援の活動内容を報告し3年間の取り組みを振り返る

2015年9月29日、一橋大学国立東キャンパスのマーキュリータワー7階ホールにおいて、「女性研究者研究活動支援事業シンポジウム」が開催された。「多様な研究者の活躍をめざして」と銘打たれたシンポジウムの会場では、エントランススペースに平成25年度から始まった事業を紹介するパネルが展示され、本学の男女共同参画推進への取り組みが紹介されていた。
シンポジウムでは、男女共同参画推進本部長である蓼沼宏一学長の開会挨拶に続き、来賓である文部科学省科学技術・学術政策局人材政策課人材政策推進室長・唐沢裕之氏が登壇。女性研究者の採用・登用等の現状及び女性の活躍促進に関する取り組みと文部科学省の関連施策の最新情報等について説明が行われた。
続いて壇上に立ったのは、九州大学理事・副学長である青木玲子氏。同氏は、本学の男女共同参画推進が始まった2013年度は本学に在任し、この取り組みに深く関わり、女性研究者研究活動支援事業ワーキンググループの副座長としてさまざまな制度立ち上げに関しリーダーシップを執った人物である。その青木氏が、昨年から男女共同参画推進室長として参画している九州大学での取り組みに関する特別講演を行った。

独自の制度で女性研究者を支援する九州大学の取り組みを紹介する青木氏

青木玲子氏

青木玲子氏

2007年に女性研究者支援モデル育成のプログラムを開始した九州大学では、文部科学省の補助事業と独自施策の積み重ねで男女共同参画事業を推進してきたと、青木氏は説明。支援を受けた事業を維持し、それを発展させる形で次の事業へとつなげることで、制度の充実を実現してきたということだ。
また、同大学独自の部局人員管理方式を活用し、部局間で競争しながら優秀な女性研究者の確保を目指す「女性採用枠」という先進的な採用方式を紹介。

この採用方式により、部局における女性研究者採用への取り組みの進展があったこと、その効果として大学全体の女性研究者採用数が増大したことなどが報告された。また今後は、優秀な女性研究者の確保・育成の体制を充実させるために、配偶者の帯同雇用も検討課題とするなど、より先駆的な取り組みによる制度充実を図ると、青木氏は説明した。

さまざまな側面からの報告を受け取り組みを未来につなげるシンポジウム

シンポジウムの様子

青木氏の講演の後には、一橋大学における女性研究者研究支援事業に関する報告が行われた。南裕子役員補佐は、「一橋大学男女共同参画ポリシー」の公表、推進体制の説明、これまでの成果報告、活動内容及び今後の取り組みの方向性について全体報告を行い、続いて登壇した法学研究科・長塚真琴教授はグループメンタリングの実施内容を報告。ミャグマル・アリウントヤー助教(森有礼高等教育国際流動化センター)は研究支援員制度の活用状況をレポートし、青木深特任講師(キャリア支援室)は女性大学院生のキャリア支援についての説明を行った。その後に、山村康子氏(科学技術振興機構プログラム主管)による講評が行われ、司会役を担った佐藤宏理事・副学長の閉会挨拶によって、約3時間にわたるシンポジウムは幕を閉じた。

蓼沼宏一学長

蓼沼宏一学長

唐沢裕之氏

唐沢裕之氏

南 裕子役員補佐

南 裕子役員補佐

長塚真琴教授

長塚真琴教授

ミャグマル・アリウントヤー助教

ミャグマル・アリウントヤー助教

青木 深特任講師

青木 深特任講師

山村康子氏

山村康子氏

佐藤 宏理事・副学長

佐藤 宏理事・副学長

一橋大学 女性研究者研究活動支援事業
シンポジウム「多様な研究者の活躍をめざして」

日時 2015年9月29日(火)14:00~16:50
会場 マーキュリーホール
開会挨拶 蓼沼 宏一 一橋大学長
来賓挨拶 唐沢 裕之 文部科学省科学技術・学術政策局人材政策課人材政策推進室長
特別講演 青木 玲子 九州大学理事・副学長
全体報告 南 裕子 役員補佐、一橋大学経済学研究科准教授
個別報告 長塚 真琴 一橋大学法学研究科教授
ミャグマル・アリウントヤー 一橋大学森有礼高等教育国際流動化センター助教
青木 深 一橋大学キャリア支援室特任講師
講評 山村 康子 科学技術振興機構(JST)プログラム主管
閉会挨拶 佐藤 宏 一橋大学理事・副学長

研究活動支援制度を利用する
女性研究者の声

幅広いテーマで開催されるグループメンタリング、研究をサポートする研究支援員制度など、一橋大学にはさまざまな研究活動支援制度が存在する。この制度の利用対象には常勤の教員だけではなくポストドクターも含まれ、現在まで延べ9人の教員が制度を利用している。多様な考え方を知りながら、ライフイベントと研究活動の両立をあきらめることなく、研究者人生を歩んでほしい。そんな思いで推進される一橋大学の女性研究者研究支援員制度を利用し、また事業に深く関わっている2人の研究者の声を紹介する。

研究支援員制度がある環境に心強さを感じながら研究に取り組めます

西野史子

社会学研究科准教授
西野史子

私は2006年に一橋大学に着任し、その後2人の子どもに恵まれました。制約なく研究ができる時期は本当に短いということを実感させられましたが、家族だけでなく周りの先生方からサポートをいただき大変感謝しています。同じ分野の先生には産休・育休の際のゼミ指導を引き受けていただいたり、復職後も何かと気にかけていただきスムーズに仕事と育児を両立することができました。また、共同研究でお世話になっている先生からは、子どもが小さく研究の進めにくい時期に叱咤激励していただき、なんとか教育・研究を軌道に乗せることができ、本当にありがたく感じています。
現在は、長男が小学校2年生、長女が4歳になり、一番大変な時期を越えたので少し仕事の量を増やしています。昨年より、知り合いの先生から勧められて応募した研究支援員制度を利用しています。支援員の方には、今のところ資料収集やデータ整理などの仕事をお願いしています。

私が研究を進めている科研費の若手研究に関しては、すぐに成果が出るものではありませんが、こうした支援制度自体は大変ありがたい存在で、次なるチャレンジへのエネルギーが湧いてきます。私が産休・育休を取得した際は、社会学研究科では前例がなかったため、周囲の方のご協力のもと手探りで大変な時期を乗り切ってきましたが、大学が組織として女性研究者の研究支援をしてくださるのはとても心強いです。
一橋大学の男女共同参画推進事業の一つであるベビーシッター制度も、小さいお子さんを持つ研究者の方には非常にお勧めだと思います。また、グループメンタリングのランチ会もとても有意義な時間になっています。私は、たまたま研究会で知り合った先生の紹介で参加しましたが、普段の行動範囲では知り得ないことや、他学部の先生のライフスタイルや考え方を知ることができるのは、本当に有意義ですね。

多くの研究者の声を聞き、多様な考え方を知る有意義な機会

臼井恵美子

経済研究所准教授
臼井恵美子

2014年1月、私は、アメリカ経済学会が毎年開催するCeMENT for Ju niorFacultyという、メンティー対象者を若手女性研究者に限定したメンタリング・ワークショップに、オブザーバーとして参加しました。米国でも大学の経済学部の女性教員は比較的少数の場合が多いのですが、このCeMENTでは、数多くの大学からシニア・若手女性研究者が集まって、論文の書き方から教育手法、ネットワーキング、キャリア発展の仕方やワーク・ライフ・バランスなど、幅広いテーマで話し合います。
その場で、若手研究者は多くの先輩研究者の研究や女性としての生き方に関するアドバイスや意見を聞き、さまざまな考え方を知ることができるので、研究者としてだけでなく1人の女性としても、とても有意義な時間になっていました。私はその様子を見て、日本でも同様のメンタリング・ワークショップを開催してみてはどうかという思いを持つようになりました。

私が本学の男女共同参画の取り組みに関わることになったのは、青木玲子先生(前一橋大学教授、現九州大学理事・副学長)を中心とするJ -WEN(JapaneseWomen Economists Network:経済学者の若手女性研究者支援組織)が主催して経済学分野の若手女性研究者を対象としたメンタリング・ワークショップを同年(2014年)5月に一橋大学で開催することになった時、その企画に加わったことがきっかけでした。そのワークショップに参加した若手女性研究者から、「多様な考え方を聞いて非常に勉強になった」という声をいただきました。その後、青木玲子先生と佐藤文香先生(社会学研究科教授)が中心となって、同年9月末、一橋大学としても独自に全研究科の若手女性研究者向けのメンタリング・ワークショップが開催されることになり、そこに私も参画させていただきました。
今後は、より多くの女性研究者や学生の声を聞き、その声から彼女たちのニーズを広く深く知り、必要だと思うことがあれば積極的に発信していけたらと思っています。

『ジェネラル・パーパス・テクノロジーのイノベーション:半導体レーザーの技術進化の日米比較』書影

【「男女共同参画推進室」ホームページのご案内】

男女共同参画推進室は、イベントや支援制度のご案内等、 随時ホームページから情報を発信しています。ぜひご覧ください。

(2016年1月 掲載)