学長見解 一橋大学強化プラン(3):文理共創と国際連携
- 一橋大学長蓼沼 宏一
2017年秋号vol.56 掲載
これまでに私は学長見解「一橋大学強化プラン」を2回発表し、一橋大学のミッションと教育研究の機能強化へのプランを包括的に述べました。今後も定期的に見解を発表し、全体プランの中で、特色ある新しい取組について広く社会に説明していきます。(2017年3月公表)
1 文理共創による研究・教育
一橋大学は、世界及び日本の社会、経済、法制等における諸課題の解決と制度改革に資する研究や、企業経営の革新に寄与する研究など、「真の実学」の研究に強みを持ち、社会イノベーションに貢献するとともに、実学の基盤である基礎・応用研究も重視してきました。
現代では、社会的課題の解決に人文学、社会科学、自然科学の多分野にわたる知見を必要とするケースが増えています。例えば、人口の高齢化に伴う医療・介護・社会保障に関わる諸課題の解決には、経済、財政、社会保障、会計、経営、法務などの広範な社会科学諸分野とともに、医療の実務や医療工学に関する知識も不可欠です。人工知能をいかに社会的に受容し、活用していくべきかという問題は、工学のみでは解決することができず、哲学、法学、経済学などの協働が必要です。
一方、人材に求められる能力も、文理双方に関わるようになってきました。情報化の一層進む社会において、企業や公的機関などで専門的な職業人として的確な判断を下すためには、経済、法律などの専門知識に加えて、情報を適切に処理し分析する能力も必要になります。また、新しい科学技術が創出されても、それによって消費者に恩恵がもたらされるためには、新製品・サービスへと事業化する人材が必要です。そのような人材には、科学技術に関する知見とともに、経営、会計などに関する専門知識とそれを基盤とする実務能力が求められます。
こうした社会からの要請に応えるため、一橋大学はこれまでも東京医科歯科大学、東京外国語大学及び東京工業大学と結成している「四大学連合」などを活用した研究と人材育成を行ってきました。
さらに、2016年10月には、特定国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下、産総研)と一橋大学は包括連携協定を締結しました。「技術を社会へ」をミッションとする産総研と、社会イノベーションを推進する「真の実学」を目指す一橋大学とは、将来構想の基本的方向で親和性が高く、今後、さまざまな領域において「文理共創」の連携・協力を強化していきます。特に、理系の修士号を持つ技術者を、技術とビジネスを橋渡しすることのできる「技術経営人材」へと育成する「イノベーション・マネジメント博士課程」の創設、人工知能やビッグデータの解析を含む研究領域に強みを持つ産総研の協力による本学の情報数理教育の強化、さらに、技術だけでなく事業戦略まで含めた「文理共創型コンサルティング」の実施などを具体的に構想中です。産総研との協働により、社会イノベーションへの貢献が一層、高い次元で実現できるようになると確信しています。
2 全学的な国際連携
「一橋大学強化プラン」の基盤を形成する3つの重点事項、「社会科学高等研究院を中核とする世界最先端の研究の推進」、「質の高いグローバル人材の育成」及び「世界水準のプロフェッショナル・スクールの構築」のいずれにおいても、国際的な大学間連携は極めて重要です。
一橋大学は、大規模総合大学ではなく、また単一分野に特化した大学(例えば医科大学)でもない、社会科学の研究総合大学であるという点において、ユニークな国立大学です。しかし世界には一橋大学と似た特色や強みを持ち、有力大学としての地位を確立している大学、あるいは近年その世界的地位を急速に向上させている大学が存在します。こうした社会科学系研究大学として経営、経済、法学、社会学を含む幅広い分野で高い研究・教育力を持つことで評価されている世界の8大学と本学は、2016年12月、大学連合SIGMA:Societal Impact and Global Management Allianceを結成しました。SIGMAという名称は、社会的インパクトを重視しつつ、グローバル社会における企業や政治・経済・法・社会システム全般のManagementに関する研究と人材育成で社会に貢献するという共通のミッションを表現したものです。さらに、SIGMAは数学では「総和」を意味することから、専門分野を横断し総合する学際的研究や、国境を超えた連携・協力を重視するという指向性も、その名称には込められています。この連携は、それぞれの大学における研究や人材育成の活性化に大変有益であるだけでなく、世界の社会科学系研究大学間で研究・教育や大学経営におけるさまざまな課題や優れた取組を共有し、相互に学ぶことができるという点でも重要です。
本学社会科学高等研究院の医療政策・経済研究センターは、SIGMAにおける最初の協働として、2017年に高齢化社会における医療問題等に関して、シンガポール経営大学及びコペンハーゲン経済大学とウェブベースの国際ワークショップを開催しました。今後も、SIGMAのメンバー校との間では、研究交流とともに学部・大学院のそれぞれのレベルにおける学生交流を拡充していくことで合意しています。
本学は、部局単位での連携も含め、こうした大学間連携を活用して全学的に研究・教育の更なる国際化を推進していきます。
(2017年10月 掲載)