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Now and Beyond【特別版】

2013年夏号vol.39 掲載

一橋大学を卒業し、キャリアを積み上げてきた女性たちは、今どんな地平にいるのだろう。
グローバルビジネスの中で女性がリーダーになる道は、視界良好になったのだろうか──。
それぞれの場所で活躍している女性たちがふと抱く、こんな問いかけが一つの「場」を生み出した。ゴールデンウィークまぢかな2013年4月26日、「Facebook」で始まった呼びかけは、50人を超える女性たちが集う拡大女子会「Now and Beyond」として結実した。「集まってみようよ」と呼びかけたのは、シリコンバレー在住の海部美知さん(ENOTECH Consulting代表/1983年社会学部卒)。
会場の手配からタイムキーパー、茶菓まで、準備は有志がボランティアで務めた。「久しぶり!」「今、何してる?」。開場前、笑顔の交換から始まった会は、定刻の午後7時スタート。その模様を誌上に採録した。

女性たちの今、これから

第1部

第1部「Now」のテーマは、「ガラスの天井は曇っているのか」。「一橋の女性たち」で聞き手を務めてきた山下裕子商学研究科准教授に、クリスティーナ・アメージャン商学研究科教授が『HQ』での連載を通じて見えてきたものをまず問いかける。

左から、山下裕子商学研究科准教授、浅野浩美さん、クリスティーナ・アメージャン商学研究科教授、大町容子さん、沖田千代さん、海部美知さん

左から、山下裕子商学研究科准教授、浅野浩美さん、クリスティーナ・アメージャン商学研究科教授、大町容子さん、沖田千代さん、海部美知さん

山下准教授

「『一橋の女性たち』の連載が始まったのは2003年。男女雇用機会均等法世代が中間管理職の年齢に達し、10年後には女性の取締役が多く生まれるのだろうなと期待していました。ところが10年後の現実は、違っていた。日本企業に勤務している方で誌面に登場してくださる方が少ないんです。若い方は、『私なんてまだまだ』と謙遜されるし、30代、40代で会社を辞める方が多い。『ガラスの天井』の問題以前に、そもそも、『ガラスの天井』を見ている人が少なすぎるのではないでしょうか」(山下)

アメージャン教授

「ガラスの天井は、日本だけの問題ではありません。女性管理職の登用が法律で義務づけられているノルウェーを除くと、先進国でも1桁のパーセンテージにとど まっています。多くの国では、公的な仕事や政治などビジネス以外のところで活躍しているケースが多いんです」(アメージャン)

女子会の様子

「一橋の女性たちは、大企業を辞めた後に仕事をしていないわけではない。個人個人で見れば、資格や専門を活かして独立したり、転職をしたり、と自分なりの働き方を探し出して、魅力的で幸せな働き方、生き方を実現している。けれども、女性全体として見た時に、日本の企業社会を変えるようなパワーにはなっていないのではないでしょうか」(山下)

「女性登用の先進国と呼ばれている国々でも、20年前は日本と似た状況でした。それを変えたのは女性の力です。優れた企業経営者は女性の必要性を知っています。女性には変わる責任がある。声に出していくべきなのです」(アメージャン)

第2部

第2部「Beyond」のテーマは、「これからの私たちの戦略」。海部さんをモデレーター(司会者)に、浅野浩美さん(厚労省職業能力開発局キャリア形成支援室長/1983年社会学部卒)、大町容子さん(NTTコミュニケーションズ アプリ&コンテンツサービス部Saas タスクフォース担当課長/1989年経済学部卒)、沖田千代さん(日本スペンサースチュアート リサーチディレクター/1992年社会学部卒)によるパネルディスカッション。海部さんはこう切り出した。

海部さん

「今回のパネリストは人選が非常に難しかったです。なぜなら、仕事を続けている女性は、GDPならぬGJP、つまりGaishi(外資)、Jiei(自営)、Professional(弁護士などの専門職)が多いためです。企業の管理職というバルクゾーンには女性が少ないことがあらためて分かりました」
まず、浅野さんが厚生労働省の調査データと国の施策を紹介した。

女子会の様子2

「日本は管理職の女性が少なく、国際的に見て最低レベルです。課長級以上に占める女性の割合が6.9%、部長級だと4.9%です。その理由として『知識・経験の不足』や『勤続年数の不足』といったことが挙げられています。目先の訓練は受けていても、将来に向けての訓練を受ける機会は男性に比べて少ないようです。男女の賃金格差は、男性100に対して女性70.9ですが、これは、勤続年数や職階(管理職か否か)をコントロールすると、差が縮まって先進国並みの男女差になります。

女子会の様子3

働き続ける上では、出産・育児は大きな問題です。出産前に有職だった女性の6割が出産・育児を機に離職しています。夫の家事・育児時間が短いことも日本の特徴です。厚生労働省においては企業におけるポジティブ・アクションの取り組みの促進、育児・介護休業法の施行やイクメンプロジェクトなどの取り組みを進めているところです」
次いで沖田さんが、幹部人材スカウト業の専門家として、日本企業における女性管理職についてのデータを紹介した。
「働き続けている女性の特徴としては専門性がはっきりしているということがいえます。HR(人事)やPR(広報)、ファイナンスなどで働く人が多いです。女性役員については、TOPIX100社について取締役会に占める女性の割合を弊社で調べたところ、2.4%という結果が出ています。そのうち、社内取締役は1名のみで、海外にて買収した会社の社長で、日本人ではありません。残りは全て社外取締役です」
大町さんは、女性を応援する制度ではトップクラスと評価の高いNTTグループの制度を紹介。
「確かにNTTグループには昔から女性活用の制度はありましたが、管理職への女性の登用が必ずしも進んでいるとはいえません。女性役員がいたこともあるのですが、なかなか後が続かないのが現状です。女性管理職はいますが、独身だったり子どもがいなかったりする方がまだ多いのです。グループでは、ダイバーシティを推進していて、管理職候補の女性たちへの研修を行い、ネットワーキングづくりに取り組んでいます」
ディスカッションは女性リーダーを目指すための「私たちの戦略」に移り、以下のような意見が交わされた。

浅野さん

大町さん

沖田さん

「天井」を曇らせるさまざまな要因は何か?

  • 企業の管理職の働き方
  • 30代の子育て時期に就業率がへこむM字カーブによる中間管理職層の薄さ
  • ジャングルジム型キャリアパスの未成熟
  • 成功する女性に対するネガティブ・イメージ
  • ダイバーシティの実体化の遅れ
  • 家事も完璧な「できる女」の呪縛

心の中で、もやもやしているさまざまな問題。もっと話し合って、具体的にどう解決すべきかを明確にする必要がありそうだ。

私たちは何を目指すべきか?

  • Speak outの責任は女性の側にもある
  • 個人の成功から、集団の成功へ
  • GJPは、文化とキャリアのかけ橋になれる
  • 新しい家庭のマネジメント
  • 知恵と勇気を共有するネットワーキング

女子会の様子4

独立心が旺盛で、わが道を行くのが得意な一橋の女性たち。一人ひとりが積み重ねてきた経験の蓄積の深さと広がりを繋いでいくと、ものすごい力になるのではないだろうか。
終わりに、モデレータの海部さんによる、「日本の『リーダー』のポジションに一番近いところにいる一橋の女性たちが、前向きに『LEAN IN』することができれば、日本も世界も良くなっていくと信じています」という言葉で、会は閉じた。
「Now and Beyond」の1時間40分は、あっという間。議論をさらに深め、会場を埋め尽くした女性たちが相互に意見交換を行うには、あまりにも時間が少なかったが、その後の懇親会でも、さらに、活発な議論の輪が広がった。「一橋の女性たち」は、知恵とパワーの宝庫だという確信を得た会となった。今後の展開が楽しみである。

女子会の様子5

女子会の様子6

「Now and Beyond」を終えて「It is time to talk.」

「一橋の女性たち」の連載を始めてから実に10年の月日が流れた。企画を立ち上げたときの方針は三つ。第一に、功をなし名を遂げた「偉い女性」ではなく、今まさに働いていて、読者とアクチュアリティを共有している、「私たちのような人」の話を聞くこと。第二に、男性たちも共感を感じられる内容にしよう、ということ。日本の企業社会の大きな転換期の中、ライフワークバランスという制約下でタフな選択を迫られつつも、しっかり人生を多面的に味わいつくしている女性たちのほうが、昔の男性の働き方よりも参考になることもあるかもしれない。第三に、男女雇用機会均等法後の女性の働き方のスナップ写真のような記録になればよいな、ということ。そのため、許す限り、表面的ではなく、困難や課題についても掘り下げて話を聞かせてもらう。
しかし、10年も続ける中で、少し、胸のつかえを感じていたのも事実だ。登場していただいた女性たちは、素敵な方ばかり。しかし、個々のサクセスストーリーと、この10年間に女性が全体として体験してきたことに、微妙に違和感がないだろうか。仕事と家庭のどちらか、ないしは両方を犠牲にしてきたビターな気持ち、未だに男性社会の中で感じている壁、といった、私たちが直面している現実と、「一橋の女性たち」の場は、少しずれていやしないだろうか。
そこに登場したのがFacebook。今回の発起人である海部さんとアメージャンさんが、スタンフォードMBAでの同窓生だと判明したり、さまざまな接点で、地下茎のようにネットワークが繋がり、その中で、例えば、2011年のAnneMarie Slaugterのアメリカ国務省政策企画本部長辞任の話題等がシェアされた。Anne Marieの言葉でいえば、「It is time to talk.」。一度話したいよね、という呟きから、あっという間に、企画がネット上で進んでいく。一橋の女性たちはやっぱり凄かった! 絶妙のタイミングで出版された『LEAN IN』も皆読んでいるし。詳細は、FacebookのOpen Group、Hitotsubashi Women Leaders for Innovationに。もちろん、男性も大歓迎ですよ!

山下 裕子

(2013年7月 掲載)