GNAMアルムナイ・モジュール2025「ジャパン・モジュール」レポート
2025年12月22日 掲載
2025年4月14日〜17日、一橋大学大学院経営管理研究科国際企業戦略専攻(以下、一橋ICS)がホストを務めるGNAM(Global Network for Advanced Management)*アルムナイ・モジュール2025「ジャパン・モジュール」が開催された。GNAMアルムナイ・モジュールは、GNAMの長い歴史の中で、卒業生(アルムナイ)を対象に継続的な学習機会を提供するという新たな取組である。その第1回となったジャパン・モジュールは、GNAM加盟校の卒業生30名を対象に、対面形式で一橋ICSを拠点とし、鎌倉の円覚寺や日本橋の分身ロボットカフェDAWN ver.βなどでのフィールドセッションを交え、4日にわたり行われた。
*GNAM:世界有数のビジネススクール33校(2025年現在)が参加するネットワーク
日本型ステークホルダー資本主義にフォーカスした背景
経営管理研究科国際企業戦略専攻(ICS)
藤川 佳則教授
プログラムのテーマは「Japan As Stakeholder Capitalism -Then, Now, and Future-」。長期的な価値創造を重視する日本型ステークホルダー資本主義の過去・現在・未来について、講義、ゲストスピーカーとの質疑応答、フィールドセッションの組み合わせにより、効果的な洞察を得ることを目的としている。
ファカルティ・ディレクターを務めた一橋ICS・藤川佳則教授は、まずアルムナイ・モジュールの企画意図について以下のように語っている。
「GNAMはこれまで、在校生向けのグローバル・ネットワーク・ウィーク(GNW)やグローバル・ネットワーク・コース(GNC)といった学習機会を創出してきました。しかし『卒業生に対しても生涯学習の一環として同様の機会を設けるべきだ』という議論をきっかけとして、このアルムナイ・モジュールがスタートしました。賛否両論ありましたが、『まずはやってみよう』というGNAM協定校が共有する文化のもと、一橋ICSを含む5校が集まりパイロット・プログラムとして実施するに至りました」(藤川教授)
また、ジャパン・モジュールのテーマを設定した背景については、日本型ステークホルダー資本主義=「超調整型資本主義(Hyper-Coordinated Capitalism)」のこれまでとこれからを伝えることにある、と説明。
ステークホルダー資本主義は、戦後の高度経済成長期に従業員や顧客、取引先といった「顔が見える相手」を重視する形で発展した。そして、インサイダー(正規雇用、終身雇用、年功序列のシステム内の人々)にとっては素晴らしい仕組みだったと言える。その一方で、女性、若年層、外国人、性的マイノリティ、定年退職者など、インサイダーのシステムから排除された人々を犠牲にして成り立ってきた側面があることを、藤川教授は指摘する。
ジャパン・モジュールの参加者の大半は欧米諸国出身で、シェアホルダー資本主義(株主重視型の資本主義)のバックグラウンドを持つ経営者層である。そこで、参加者に向けて「このような世界があるんだ」と日本の成功と課題を伝えることで、参加者が自身の世界観や価値観を振り返り、これからどう生きていきたいのかを考えるきっかけを提供することを狙いとしている。
「企業の社長や幹部となっている参加者たちのマインドセットが変われば、組織にすぐにその影響が及びます。インパクトが直接与えられるという点で、GNAM在校生向けのプログラムとは異なる価値があると思います」(藤川教授)
藤川教授とともにパイロット・プログラムの企画・運営に携わった一橋ICSのキャサリン・ウォレス特任准教授は、別の観点からパイロット・プログラムの意義を認識している。倫理学を専門とするウォレス准教授は、倫理と日本のステークホルダー資本主義の親和性の高さを指摘しつつ、「別の観点から議論を行う必要性に気づいた」と語る。
経営管理研究科国際企業戦略専攻(ICS)
キャサリン・ウォレス特任准教授
「参加者が日本について学ぶことがあるように、日本自体も参加者から学び、ステークホルダー資本主義をアップデートしていく必要があります。そのためにはさまざまな観点から日本のステークホルダー資本主義について議論していかなければならないと感じました」(ウォレス准教授)
藤川教授、ウォレス准教授の問題意識をベースにした講義やセッションは参加者から高く評価され、「(両教授とその講義は)一橋ICSの真の財産である」「パイロット・プログラムとは信じがたいほど高い水準で提供された」との感想が寄せられた。
日本文化ならではの価値観を実体験する、特色あるフィールドセッションの様子
プログラムには、一橋ICSでの講義・セッションに加え、日本文化や社会問題の最前線を体験するフィールドセッションも組み込まれた。
円覚寺での坐禅体験(鎌倉)
初日、参加者は、「2025年の日本」と題したセッションシリーズを通じて、日本の経済社会の実際について理解を深めた後、2日目に行われた臨済宗・円覚寺でのフィールドセッションにおいて、「日本文化を解き明かす」というテーマのもと坐禅を体験し、円覚寺の内田一道老師との対話を行った。
坐禅では「自分が今感じ、考えていること」をありのままに受け入れる、日本人としての生き方や自然に対するアプローチを体感する機会を提供。内田老師の教えは「望まない思考や感情を抑圧するのではなく、そこにいることを認識して手放す」という哲学に基づき、多くの参加者にとって自らの視野が大きく広がる体験となったという。実際に参加者からは「非常に興味深く、日本の文化を理解するのに役立った」との声が上がっている。
分身ロボットカフェDAWN ver.β訪問(日本橋)
3日目には、社会的包摂(Social Inclusion)、テクノロジー、アントレプレナーシップという文脈で、日本橋の分身ロボットカフェDAWN ver.βへの訪問を実施。参加者は、身体障がい者など社会参加が難しい方々がOryLab(株式会社オリィ研究所)が開発した分身ロボット「OriHime」を通じて、自宅や病院から遠隔操作でカフェの「パイロット」として働き、顧客とコミュニケーションを取る様子を体験した。
分身ロボットカフェDAWN ver.βは、孤立と人材不足という社会問題の同時解決を営利事業として確立することを狙いとしている。参加者は共同創業者である結城明姫氏の話を聞き、ロボットカフェでの体験をとおして、現代のステークホルダー資本主義を実践している企業が日本に存在することを実感。「非常に感動的な体験だった。ブランドの背景にあるストーリーと意味を知り、深い感銘を受けた」とのコメントが寄せられた。
多彩なゲストスピーカーとのセッションに対する反応
今回のプログラムにおけるもう一つのハイライトは、多岐にわたる分野の実務家を招いたスピーカーセッションである。
Day 1
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(左写真)高津 尚志氏/スイスのビジネススクール・IMD(International Institute for Management Development)北東アジア代表
テーマ「2025年の日本-資本主義の目的とステークホルダー・エンゲージメントの変化-」 -
(右写真)住山 アラン氏/ソニー株式会社 技術戦略部シニアゼネラルマネジャー、一橋ICS非常勤講師
テーマ「2025年の日本-日本の多国籍企業からの視点-」
Day 2
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(左写真)猿丸 雅之氏/YKK株式会社 特別顧問
テーマ「ステークホルダー・エンゲージメントの変化 -人口統計、DEI、企業イニシアティブ-」 -
(右写真)<左>西坂 美奈氏/一般社団法人WaNavi Japan共同代表、<右>木村 素子氏/一般社団法人WaNavi Japan創設者兼共同代表、
テーマ「日本文化を解き明かす」
Day 3
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慎 泰俊(Taejun Shin)氏/Gojo & Company, Inc. 共同創業者兼CEO
テーマ「ステークホルダー・エンゲージメントの風景の変化 -文化、企業、貢献-」
ゲストスピーカーによるセッションに対しては、それぞれ数多くの感想が寄せられた。たとえば、YKKの特別顧問である猿丸氏のセッションについては「民間企業が90年以上にわたりESGの概念を体現し、超調整型資本主義がどのように機能するかを示す好例」「社員を大切にする姿勢が際立っている」など、参加者がプログラムのテーマをしっかりと受け止めた様子がうかがえる。
プログラム全般についても、参加者の感想は総じて好評だった。
「エグゼクティブMBAプログラムの学習経験の中で最高のモジュールの一つであり、素晴らしい体験だった」
「ここで得た知見は、日本市場への参入や日本企業との協業を目指す外国企業にとって有益であるだけでなく、日本の高齢化問題がもたらす機会や課題に対応するためにも役立つ。このコースを友人に強く勧めたい」
「日本の経済発展の軌跡と人口構造の変化は、他の国々、特に非常に似た問題を抱える中国にとって参考になる」
特に藤川教授のセッションは「日本のコンテクストを得るために絶対に不可欠だった」と高く評価されていた。
今後のアルムナイ向けプログラムの展開
今回のジャパン・モジュールを通じてGNAMにおけるアルムナイ向けプログラムのニーズを確証した藤川教授は、2025年5月にメキシコで開催されたGNAMのミーティングにおいて、ジャパン・モジュールの結果を報告。先述した参加者の満足度の高さや笑顔あふれる写真を見たディレクターたちの反応は非常にポジティブなもので、「我々もやりたい」と申し出るスクールが続出したという。
この結果を受け、今後は参加校を「雪だるま式に増やしていく」計画であると藤川教授は語る。短期的には、2026年度には7〜8校が参加する見込みであり、年間を通じて約2か月に1回、GNAMのいずれかのパートナー校でアルムナイ・モジュールが開催される予定だ。
長期的には、在校生向けのGNWのように十数校から二十数校へと規模が拡大していけば、毎月どこかでアルムナイ向けプログラムが提供されるというビジョンがある。これにより、GNAMの卒業生は、卒業後も世界中で学び続ける機会を得られることになり、これはMBAプログラムを選ぶ際の大きなメリットとなることが期待されている。
このGNAMアルムナイ・モジュールは、パートナー校の卒業生たちに生涯にわたる学習機会を提供し続けるという責務を果たすものであり、GNAMの価値を高める戦略的な取組である。一橋ICSは今回、GNAMのネットワークと、日本という独自のテーマを組み合わせることで、実務家として活躍する卒業生に次のキャリアステップや組織への影響について深く考える機会を直接的に提供することに成功した。これからも一橋ICSならではの切り口や人的ネットワークをもとにした、高品質なアルムナイ・モジュールが推進されていくことに期待がかかる。

