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留学生から見た、日本のコロナ対策

2021年3月5日 掲載

日本で新型コロナウイルス感染症が拡大し始めて1年が経つ。この間、2回の緊急事態宣言が発出され、2021年2月からはワクチン接種開始が見込まれるなど、日本でも国を挙げた対策が講じられている。こうした状況は、一橋大学で学ぶ留学生の目にはどう映っているのか。経営管理研究科の鷲田祐一教授のもとで学ぶ3人の留学生に、Zoom上で話し合ってもらった。

経営管理研究科博士後期課程 Chau Nguyen ベトナム出身

経営管理研究科博士後期課程 Yu Xiang 中国出身

経営管理研究科博士後期課程 Gao Jiawei 中国出身

Chan Nguyenさんの写真

Chau Nguyen

Gao Jiaweiさんの写真

Yu Xiang

Yu Xiangさんの写真

Gao Jiawei

――まず、自己紹介と一橋大学での研究テーマを紹介してください。

Nguyen:ベトナムのハノイ出身です。研究テーマは、サービスの自動化について。たとえば、ホテルの受付が自動化された時に、客は受付担当者がいないと不安に思うのか、便利になっていいと思うのかといった消費者心理と便益の関係などについて研究しています。現在のコロナ禍において、ウイルス感染を防ぐための非接触化や自動化が進展していると思いますが、ウイルスの流行は一時的なもの。日本ではこうしたことより、高齢化や就労人口減少というファクターのほうが大きいでしょう。研究成果は、日本よりも劣っている母国のサービスの発展に役立てたいと考えています。

Yu:中国の青島出身です。私が研究しているのは、企業の研究開発チームがいかに外部の力を吸収・活用するかということです。日本の大手メーカーはどこも自前の研究開発センターを擁していますが、自前だけでは限界があります。そこで、必要とされる情報や技術をどのように外部から調達し、いかに自社のものと融合させるかが課題となります。その考え方や方法論を研究しています。

Gao:中国の大連出身です。私は、新製品開発プロセスにおいて、ステークホルダーのニーズをいかに捉えて織り込んでいくかについて、AIを使ってシミュレーションしトップマネジメントの意思決定に役立てるモデルづくりを研究しています。

一橋大学のコロナ対応に感じること

――では、本題に入ります。Yuさんは他大学の学生とも交流していますが、コロナ対応において他大学と一橋大学との共通点や、違いについて教えてください。

Yu:共通しているのは、どの大学も授業はほぼすべてオンライン化していることです。違いは、一橋大学は学生証を見せるだけでキャンパスに入ることができますが、他大学では事前予約が必要な場合があることです。キャンパスに入る目的を申告して許可を受ける必要があるそうですが、一橋と比べてかなり厳しいと感じます。

研究論文をダウンロードするのに結構な費用がかかるので、平常時は大学のPCでダウンロードしています。ところが、通学がなくなり、自宅からは大学のPCにアクセスできません。そういう不便さは感じていますね。

Nguyen:私も他大学の友人がいますが、入構規制の仕方はどこも同じように思います。違うのは、授業のオンライン移行を知らせるタイミングが一橋大学の方が少し遅かった。他大学はかなり早い時期に告知していました。さらに、留学生への経済支援の決定も、一橋大学は他の私立大学に比べて遅かったように思います。私は奨学金を得ているので対象外ですが、周囲の友人がそう話していました。国立と私立の違いが大きいとは思いますが。もう一つあります。ベトナムの場合、帰国したい人は大使館で登録する必要があるということを、ベトナム人コミュニティで知りました。こうした情報も、大学から早く提供していただけると、留学生は安心するのではないかと思います。

留学生の精神的ストレス

――対応スピードにおいて、改善の余地があるということですね。では次に、Gaoさんは中国の家族と会えるまで1年近くかかるという大変な状況を経験しました。かなり辛い思いをしたのではないかと思います。

Gao:私は結婚していて、中国に夫と子供がいます。子供に会えないことが何より辛かったですね。留学は自分で選んだことなので、コロナによって帰れなくなったのは仕方のないことですが。

こうした辛い思いをしている留学生はたくさんいると思います。このことについてSNSの留学生グループで話し合いましたが、異国の地で足止めを食らい、狭い部屋で一人過ごす留学生の精神的なストレスは、非常に大きいものがあると思います。大学側の支援がもっとあってもいいのではないかと感じました。

Yu:精神的なストレスが大きいという点は同感です。私は日本での生活が5年目になりますが、一人で研究生活を続けているとストレスも溜まります。そんな時は故郷に帰ることがリフレッシュになっていました。コロナで帰国ができなくなり、不調を来した時期がありました。また、私は奨学金を得られているので生活費の心配をしなくても良いのですが、アルバイトで生活費を賄っている留学生もいます。コロナでアルバイトがなくなったという留学生は、他のアルバイトを探すか親から仕送りをしてもらうしかありませんが、それもまたストレスの原因になっているのです。

アルバイトと生活費

――帰国したくてもできない、アルバイトしたくても仕事に就けないという問題は大きいですね。皆さんの場合、アルバイトはどんな状況ですか?

Nguyen:以前から続けているアルバイトがリモートワークになり、人と会わなくなりました。

Gao:私はしていません。

Yu:奨学金があるので、週1回塾で教える程度です。

――周囲のご友人の場合はどうですか?

Nguyen:コンビニで働いている友人の場合は、変わりはないようです。スーパーやコンビニは、コロナで子供が在宅学習に切り替わったことで家にいなければならない保護者が増え、留学生へのニーズが高まったと聞きました。

Yu:留学生向けの塾講師をしている友人は、留学生が減って給料も減ったと嘆いていました。

――なるほど、いろいろな影響がありますね。日本での生活費はどの程度必要ですか?

Yu:5年前の来日当初は月12~13万円しかなく、毎日もやし炒めの生活でしたが(笑)、アルバイトの給料が上がって徐々に良くなり、今は奨学金を含めて月20万円ぐらいで生活できています。

Nguyen:私も奨学金を得ていて、生活費は月12万5000円ほどです。かつて学生寮に住んでいた時は、家賃がとても安かったこともあり、暮らしは楽でした。現在も金銭面的には、あまり苦労はしていません。学生寮を出た友人の中には、安いアパートに移った人も多いと聞いています。

各国のコロナ対策について

――奨学金の有無の違いは大きいですね。さて、帰国したくてもできない状況からGaoさんはやっと帰ることができたわけですが、そちらの状況はどういった感じですか?

Gao:私は今、大連の隣の市にいるのですが、大連は感染者が増えて感染対策が厳しく行われています。ある大学では、学生を学内に滞在させ、逆に市中に行かせないという措置が取られています。その間、次の学期の授業を先に行って、感染が収まってから休みを取らせるということのようです。

――なるほど、学校に入れないのではなく、逆に学校から出さないという方法もあるわけですね。学生はずっと勉強しなければならないから、その方がいいかもしれませんね。Nguyenさんは帰国の予定はないのですか?

Nguyen:ベトナムは市中感染が収まっていて、感染が拡大している日本からの帰国者は制限されています。病気や妊娠している人、ビザが切れる人などの優先順位が高く、私の順番が回ってくるのはずっと先です。隣国から陸路で入国する人も厳しく取り締まっているようです。感染が収まっている国内では、みんな楽しそうにしていますよ(笑)。(脚注:取材後にベトナムでも市中感染が見つかり、状況が少し変わっている)

日本のコロナ対策は中途半端

――中国もベトナムも感染対策が厳しく行われているようですね。日本で生活していて、日本の対策はどう感じていますか?

Gao:外に出るのが怖いと感じました。中国は政府の規制が厳しいですが、だからこそみんな安心できるという面があるように思います。そのおかげで感染が収まっている地域では、マスクをしない普通の生活に戻っています。

Yu:中国はワクチン接種が進んでいて、人々の間に安心感が出ていますね。

Gao:中国では、人と接触せずに生活できる体制が整っています。新幹線に乗る時は顔認証で改札をパスできます。普段の買い物も、大抵はネットで済ませています。飲食も宅配サービスでなんでも注文することができます。外出する場合は、中国人は全員自分の健康状態を示すアプリを携帯しており、スーパーなどの入口には必ずQRコードを読み取る装置が置かれていて、アプリで感染していないことが認証されないと入店できないようになっています。

Yu:日本にはそういったシステムは導入されていませんね。陽性者との接触を確認する「COCOA」もあまり機能していないようです。

Nguyen:ベトナムは中国ほどテクノロジーが進んでいませんが、各家庭に色別のチケットが配布され、色に該当する曜日にしか人が集まる市場などの場所には行けないように、規制されています。さらに、ベトナムは文化としてご近所付き合いがかなり密接で、買い物に行けない場合は、気軽に隣近所に頼めるので、困ることはありません。日本にいて不思議に思うのは、政府と、企業や生活者の意識の違いです。日本の政府は外出自粛を盛んに呼びかけているのに、店舗ではバーゲンセールをやって懸命に人を呼び込んでいたりします。全面的に行動が制限されていない日本では、モヤモヤした状態が1年以上続いていて、少しずつダメージを受けている感じがしています。

――日本では、緊急事態宣言で飲食店の営業時間が制限され、人々の自粛と相まって飲食業が大きな打撃を受けていますね。中国やベトナムはどうですか?

Yu:どの飲食店も宅配に対応しているので、あまり変わりはないようです。そのデリバリーもロボットで行われるようになり、人件費の削減につながっています。また、感染者がいない青島などでは、バーやレストランは普通に営業しています。

Nguyen:ベトナムでは、医療機関などに地域の飲食店が弁当を届けるようにするといった対応で成り立たせているようです。

揺らぐ日本の医療への信頼性

――日本では"医療崩壊"の危機が叫ばれていますが、日本の医療についてはどう見ていますか?

Nguyen:コロナ以前はしっかりしているイメージがありました。ところが、最近は人手不足や病床不足といわれていて、ややイメージが変わりましたね。

Yu:コロナ以外の重い病気になった場合、ちゃんと医療が受けられるのかが心配です。また、日本は生理学・医学部門でもノーベル賞受賞者を5人も輩出し、医療水準もとても高いと思っていたのですが、国内でワクチン開発があまり進んでいないというのは驚きです。

Nguyen:私も同意見で、周りの友人とは日本で感染したら医療を受けられるかが心配だと話しています。

Yu:日本はイギリスのように集団免疫を目指しているのではないですか?中国のように陽性者を隔離するといったことは諦めているように思います。

Gao:私見ですが、日本と中国では、政府の国民に対する感染防止のPRの仕方や、それに伴う国民の意識が違うと思います。中国ではテレビなどで「基礎疾患のある高齢者は死亡リスクが高い」などとコロナ感染の怖さを徹底して喧伝し、大抵の国民もコロナを恐ろしいものと捉えています。特に後遺症が怖いと思っています。ちなみに中国に帰国した際に、空港で14日間、自宅待機14日間、合計で28日間の待機を強いられました。日本は、コロナをインフルエンザと同じようなものと軽く見ている人も少なくないのではないでしょうか。医療の問題もありますが、国民の意識の問題も大きいと思います。

Yu:中国では海外のSNSが禁止されているので、世界のニュースを見ることが比較的難しい状況にあります。新型コロナウイルス感染症が拡大し始めて1年以上が経ちますが、新しい情報に触れる機会のない多くの中国人は蔓延当初のイメージのままいるのではないかと推察します。私はサッカーが好きで、ヨーロッパのサッカーをテレビで見ますが、選手は感染しても2週間後には試合に出場することもあります。そのようなことは、中国では知られていないように思います。

感染拡大は"意識"の問題も

――なるほど。それにしても、中国やベトナムより欧米の方が桁違いに感染者やコロナによる死者が多いのが不思議ですね。

Yu:アメリカの場合は、教育制度や貧富の差が一因ではないかと思います。お金がある人しか、良い教育を受けられません。高等教育が受けられない人の中には、コロナウイルスの存在を信じずにマスクをしないで街を歩く陽性者も少なくないのではないでしょうか。一方、中国政府は国民をコントロールする力があるので、教育レベルに差があっても行動を抑制できていると思います。日本は、教育レベルが比較的高く、医療制度も信頼されているので、感染してもそれほど心配ないと思っている人が多いように思います。Gaoさんのいうとおり、意識の問題が大きいと思いますね。

――ヨーロッパの感染者や死者が多いのも、意識の問題と考えますか? ヨーロッパは移民が多いことが大きな要因ともいわれていますね。

Yu:そもそも欧米人に感染者が多いのは、人種的に感染しやすいからではないかといわれていますね。逆にアジア人は感染しにくいファクターを持っているとも。

――そういう説もよく聞きますね。

Yu:これは私がイタリアに行って感じたことですが、人々の生活スタイルの違いがあると思います。ヨーロッパでは、働くことより生活を楽しむ傾向があるように思いました。中国人は1日10時間ぐらい普通に働きますから、医療現場も当たり前のように10時間働きます。一方、ヨーロッパの医療現場は、コロナで急に10時間働けといわれても対応できないのではないか、と。

日本への留学生が増える

――なるほど。そういう見方もあるわけですね。ところで、コロナ禍となった後の海外留学も変わっていくだろうと思います。基本的に減っていくと思いますか?

Yu:ウイルスはなくせないので、共存していくことを考えるべきです。そのうえでワクチンや治療薬は普及するでしょうから、私は元通りになると思っています。

――中国人の一番の留学先はアメリカですね。アメリカは感染が拡大しているので、留学生は減るように思いますが。

Gao:減っていますね。アメリカに留学するはずだった人が、日本に来ています。

――そう。日本に来る中国人留学生が増えているんです、ありがたいことに。

Yu:ハーバードに留学した友人は、レストランで危険な目にあってテーブルの下に隠れたことがあると話していました。その点、日本は世界で一番安全な国ですね。日本はアルバイトもしやすいし、生活水準も高いにも関わらず、500円で牛丼が食べられます。日本の外食チェーンが中国にも数多く進出していて、親しみがあります。さらに、中国人にとってアメリカは、国同士の政治的な問題もあります。バイデン新大統領の政策次第というところもあるのではないでしょうか。

Gao:中国と日本の歴史的な文化が比較的近しい点からも親和性があると思います。ただ、日本への留学は言葉の問題がありますね。私のように中国で日本語を選択して学んだ人はともかく、英語を選んだ人の多くは、アメリカに行けないならシンガポールや香港といった英語圏を選ぶと思います。

Nguyen:欧米に留学しているベトナムの友人がコロナで急きょ帰国しましたが、有事の際に欧米は物理的に遠いという問題があります。その点、日本は近いので比較的簡単に帰ることができます。また、日本ではベトナム人のコミュニティが発達しているので、日本語を話せなくても生活していけます。ベトナムには英語を話せる人は山のようにいて、第二外国語として日本語を学ぼうという人も増えてきているようです。アニメやマンガといった日本のカルチャーにも親しみがありますから。

Yu:中国では5年ほど前に外国語科目で日本語も選択できるようになり、日本語を教える学校が増えています。今後、日本に留学する中国人学生も増えると思いますね。

――日本の大学も英語で学べる授業が増えればもっと留学生は増えるかもしれませんね。私は、実状に合わせて中国語で学べる授業も増やすべきだと思います。本日はいろいろ参考になるお話を聞かせてもらい、ありがとうございました。