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SDGsをテーマに、第3期を迎えるSIGMAオンライン講義

2020年6月22日 掲載

一橋大学は2019年度より、グローバルな大学連携『SIGMA』が開催するオンライン・アクティブ・ラーニングのメンバーとなった。初年度は16人の一橋大学生が参加。SDGsをテーマに、海外の学生と4人一組のチームを組み、ショートビデオの共同作成を行った。
HQでは、SIGMAが開催したオンライン講義の内容と、その講義に一橋大学生がどのように向き合い、成果を出していったかをレポートする。また、別稿ではショートビデオで優秀賞を獲得した法学部生のコメントも併せて紹介する。

SIGMAのフラッグシップ・プロジェクトに一橋大学が参加

『SIGMA』(Societal Impact & Global Management Alliance)は、大学が発信する知の社会的なインパクトを重視するとともに、狭義の経営管理を超えて社会・経済・政治・地球環境をも含めた広義のグローバルな領域におけるマネジメントをめぐる諸問題を考究しよう、という目的のもとに実現した大学連携である。

参加校は、一橋大学のほか、パリ第9ドフィーヌ大学(フランス)、シンガポール経営大学(シンガポール)、コペンハーゲン経済大学(デンマーク)、ウィーン経済大学(オーストリア)、ESADEビジネス・スクール(スペイン)、ザンクト・ガレン大学(スイス)、ジェトゥリオ・ヴァルガス大学(ブラジル)、中国人民大学(中国)の計9校。

いずれも、エグゼクティブ・プログラムを含めた強力な経営系学部・MBAコースを擁していること。それらをコアに持ちながら、社会科学系大学として研究・教育力を備えていること。そして、世界的に高い評価を得ていること......といった共通点を持っている。

オンライン講義「SIGMA Global Virtual Course: Managing the SDGs」は、SIGMAのフラッグシップ・プロジェクトとして、2018年度に6大学でスタート。一橋大学は、蓼沼宏一学長の強い意向のもと、第2ラウンドとなる2019年度から7校目として参加している(一橋大学での講義名は「Managing the SDGs - SIGMA Global Active Learning」)。

7つのリレー講義と、学生メンバーによるショートビデオ作成

オンライン講義の内容には大きく二つの軸がある。

一つ目の軸は、参加校の教員による7つのリレー講義だ。「SDGsとは何か」「社会問題からビジネスモデルまで」「SDGsの文脈における汚職防止のスキーム」など、講義(Module)は多岐にわたっている。一橋大学からはクリスティーナ・L・アメージャン教授(一橋大学大学院経営管理研究科)が、Module 7にあたる「Partnerships for gender equality in business: The role of ESG investment」の講義を担当した。

これらの講義はあらかじめ動画として収録、「Coursera」 というオンライン・プラットフォームに作られた独自の講義コースに格納される。2019年度の場合は、10月2日のKick Off Webinar(ウェビナー:オンラインのコンファレンス)開催後、11月中旬までの1ヶ月半の間に、学生は自分のPCからCourseraにアクセスして受講。その後、講義ごとに設けられた締切までにCoursera上でディスカッションを行い、ショートテスト(Quizzes)に解答する...という流れだ。

一般的なオンラインコースと大きく違うのは、二つ目の軸として、同じチームの学生らでショートビデオを作成する、共同作業の期間が設けられていることだろう。
参加した学生は4人一組のチームに振り分けられる。チーム内には同じ大学の学生はいない。メンバーはインターネットを使い、国境や時差を超えた意思疎通を行うことが求められるという仕組みだ。

各チームは、SDGsというテーマに最適なグローバル企業をピックアップ。その企業の現在までの取り組みから、今後克服すべき課題などについて約2分間のショートビデオにまとめる。
ショートビデオ内でのプレゼンテーションは、参加チームの創意工夫に委ねられる。メンバーが交代で説明する、全編イラストレーションでまとめる、ドキュメンタリー風のビデオにする......など、20を超えるチームが、多種多様なプレゼンテーションを行った。

そして作品の中から優秀なショートビデオが選ばれ、優秀賞を授与されることでプログラムは締めくくられる。

図:オンライン講義の内容

一橋大学から参加した16人の学部生が、大きな成果を上げる

一橋大学側の参加状況と結果についてもふれておこう。

開催時期は一橋大学の秋・冬学期に該当する。多くの学生にとって履修しやすいであろうとの判断から、すべての学部・大学院を対象に募集を行ったところ、20人の学生が応募。その中にはGLP(グローバル・リーダーズ・プログラム)生の応募も多かったという。最終的には16人に絞られたが、今回は全員学部生だった。

内訳は、学年別では4年生・2人、3年生・1人、2年生・13人。学部別では商学部・4人、経済学部・1人、法学部・8人、社会学部・3人という構成になっている。

なお、ほかの大学からはMBAコースの大学院生の参加が多かった。大学院生たちとの共同受講は、一橋生に何らかのハンデキャップを生じさせるのでは......との見方もあったが、終わってみれば、16人中11人がショートテストで満点。さらに、ショートビデオの優秀賞に選ばれたチームには、法学部の大原有貴さん(別稿)が参加していた。

SIGMA側からも「一橋大学の学部生はきわめて優秀」と太鼓判を押されたという。

今回取材を行った山田敦副学長(国際交流、広報、社会連携担当)は、SIGMAオンライン講義の意義について、「バックグラウンドが異なる学生と、英語とインターネットを駆使し、目に見える成果を出すというプロセスを通して、グローバルに活躍するとはどういうことかを疑似体験できる」と語った。

オンライン講義によってさらに強化されるSIGMAのネットワーク

参加した7校が大きな手応えを感じたことで、SIGMAオンライン講義は引き続き行われることになった。第3ラウンドとなる2020年度は、各大学20人ずつと参加人数を増やしての開講となる予定だ。単純計算で140人の学生が参加、35チームがショートビデオの作成に向け、国境や時差を超えて取り組むことになる。

山田副学長によれば、オンライン講義参加校同士は「ワンチーム感がとても強い」。年5~6回のオンラインミーティングに加え、学長クラスのトップ会議も年1回行い、密に連絡を取り合っているとのこと。一橋大学にとってもこのネットワークはとても重要だ、と山田副学長は強調する。

「本学には、海外の大学との"一対一"の交流はたくさんあります。それはもちろん大切ですが、今後はマルチなネットワーク構築も重視していきたいと考えています。オンライン講義でのつながりも含め、SIGMAをその拠点の一つにすることが当面の目標です」

ネットワーク構築に意欲的なヨーロッパの各大学も、SIGMAへの関与を強化しているとのこと。思いを同じくした大学同士のグローバル連携に、大きな期待が寄せられている。

※ プロジェクトで製作したビデオは、以下からご覧いただけます。

https://padlet.com/johanna_warm/CaseCast

お互いの納得感を大事にする、欧米流のグループワークを学んだ

大原 有貴さんプロフィール写真

一橋大学 法学部3年生

大原 有貴さん

自分の視野を広げ、選択肢をたくさん持っておくために

SIGMAに参加したのは、自分の視野を広げ、選択肢をたくさん持っておこうと考えたからです。

私はもともと、自分の視野を広げることを意識してきました。高校時代の専攻は理数科で、「科学の甲子園」全国大会にも参加しました。しかし科学一辺倒になるのではなく、法学、倫理学など社会科学の知見も蓄積したいと思い、一橋大学への進学を目指しました。入学後も幅広い分野の履修を意識し、経済学を副専攻として履修しながら統計学の学習にも励んでいます。

また、英検一級に合格し、英語にも興味があったので、国際関係学の講義を中心に履修を組み、2年次には英語により開講される講義も積極的に履修しました。1年生の夏休み、春休み、そして2年生の春休みに語学研修や海外研修にも参加。2年生からはGLPがスタートし、海外で行われる国際セミナーに参加する過程で、オンラインでグループワークを体験できるSIGMAの講義に興味を持ち、応募しました。

チーム内最年少、非ビジネスメジャーという立場を逆に利用

グループワークが始まった当初は、戸惑うこともありました。

私のチームのメンバーはシンガポール経営大学、ウィーン経済大学、ザンクト・ガレン大学の学生、または大学院生。名のあるグローバル企業でインターンをするなど、ビジネスメジャー(専攻)ならではの知見を持っている人たちばかりでした。

私はチーム内最年少で、ビジネスメジャーでもありません。しかし逆に、素人としての意見を提供することによってチームに貢献しようと考え、ディスカッションのリソースの収集・共有などで自分の役割を果たしました。

語学力の面でも、最初は議論に追いつくので精一杯でしたが、しっかり準備をしてショートビデオ作成のためのオンラインミーティングに臨み、会議中は集中して議論を行ったおかげで、かなり上達したと感じています。

率直にフィードバックし合い、お互いの納得感を高める議論を展開

一番の収穫は、欧米流のグループワークを学べたことでした。

日本でのグループワークは、誰もが賛成できる妥協点を見つけることに注力しがちですが、海外の学生とのグループワークは少し勝手が違いました。

「資料をつくってくれてありがとう。でもここはこう直したら?」と率直にフィードバックし合います。意見を反映させると、確かにより良いものになるのです。もしその意見に納得できなければ、改めて自分の意図をしっかり説明します。そうすれば相手は納得してくれます。

ビデオプレゼンのテーマとして私が提案した複数の企業の中から、グループディスカッションを経てIKEAをケーススタディとして採用することに決まりました。はじめは異論もありましたが、IKEAの良い取り組みはしっかり紹介し、改善が必要な部分については対策を提案すればいいと説明したところ、メンバーの理解を得られました。

「オンラインによる学び」は、自分と相性の良いもの

SIGMAのオンライン講義は、人によってさまざまな活用方法があると思います。

ネイティブ並みに英語が話せる人は、グループワークの運用能力を鍛える機会になります。英語に自信がない人でも、講義やディスカッションで英語力を伸ばすことができます。社会科学の知見を深めたい人には、SDGsについてグローバルな視点から学ぶチャンスとなるはずです。

また、「オンラインによる学び」自体が、自分と相性の良いものでした。

私は学部の科目は大学で学びつつ、興味のある分野は独学で学んでいました。今回、オンラインを活用するノウハウを身につけたことで、海外の大学のオンライン講義も積極的に受けようと考えています。

その延長線上で、海外のオンライン学習サイトにてR(統計解析向けのプログラミング言語)やPython(人工知能や機械学習の分野で活用されるプログラミング言語)を学んでいるところです。SIGMAオンライン講義での経験は、当初の狙い通り、私の視野を広げてくれました。(談)