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中国に行って、世界に出会う

2017年秋号vol.56 掲載

一橋大学初の海外拠点として開設されて以来、13年の歴史を持つ「中国交流センター」

中国交流センター(以下、センター)は、「アジアの教育、研究機関等との教育面、研究面における交流を支援することにより、広い見識を持ち、国際的に通用するにたりうる人材育成と実践的研究に貢献すること。また情報発信や広義の交流活動を通じて、日中間の発展に寄与すること」を目的に、2010年5月に開設された。
センターの前身「北京事務所」は、2004年8月、一橋大学初の海外拠点として設置され、各種シンポジウムやセミナーの開催、留学生への支援など数々の実績を重ねてきた。その実績をもとに「中国交流センター」として新しいスタートを切っている。
現在運営に携わるのは、センター代表を教授職と兼任する青木人志法学研究科教授(以下、青木代表)と、北京にいる賈カ申シン代表助理(以下、カシン助理)。2人を学務部国際課の中山リカさんがサポートする。センターの歴史と実績、中国の大きさを考えれば、意外なほど小規模である。しかし、今回青木代表への取材を通して、中国との交流を絶やさないために、実に多くの人がセンターの運営を支えていることが分かってきた。

日本の大学のグローバル化を進めるうえで、中国との人的交流は不可欠な戦略

GDP世界2位の中国には、世界中から注目が集まっている。大学に話題を絞っても、世界中の大学が優秀な中国人学生の獲得競争にしのぎを削り、学術・学生の両面でさかんに交流を行っている。現在の中国とりわけ北京は、いわば世界のエリートが集う「ハブ」として機能し始めている。着任以来、毎月1~2回、中国に出張している青木代表は、その活発な人的交流についてこう語る。
「多くの国の大学が戦略的に中国と関係を持ちたい、学生を送り込みたいと考えていると、現地に行くと肌で感じます。今後、本学のグローバル化を進めるうえで、中国との交流を推進することは──好き嫌いの問題ではなく──絶対に避けて通れない不可欠な戦略なのです」(青木代表)

連綿と続いてきた人間的交流が国際シンポジウムやダブル・ディグリー等に結実

北京事務所開設から13年。センターはさまざまな活動を行い、人的ネットワークという無形の財産を形成してきた。
学術交流面では、北京事務所開設当初の中国国務院発展研究センターとの共催による大型国際シンポジウムを手始めに、日中両国において中国人民大学、吉林大学、中国社会科学院等との国際フォーラムの開催を多数サポートしてきた。学生交流面では、中国各地で開催される留学フェアへの積極的な出展や、北京の日本大使館での一橋大学留学説明会の開催を通じて優秀な中国人留学生の確保に努めつつ、中国人学生の来訪団の受け入れや学生交流会を積極的に実施してきた。そのほか運動部(卓球部やバレーボール部)の中国での交流試合のサポートや、北京に留学している一橋大生の相談相手もつとめてきた。さらに、如水会北京支部・留学生会と大学をつなぐのもセンターの重要な機能である。
これらの活動は、志波幹雄前代表(1972年経済学部卒)の時代からセンターが続けてきたもので、北京で精力的に活動しているカシン助理という人材を発掘したのも、志波前代表である。その基礎のうえに、現在のセンターの活動があり、商学研究科HMBAの北京会場での入学試験、経済学部の中国短期海外調査の授業のサポート、さらには、本年6月には中国人民大学法学院と法学研究科の間の修士課程ダブル・ディグリー協定の調印に漕ぎつけるなどしている。センターが長年にわたり北京如水会・留学生会との良好・緊密な関係を維持してきたことも実を結んでおり、上記経済学部の中国短期海外調査には如水会北京支部の和田健治支部長(1991年法学部卒)の協力を得たほか、本年2月には「一橋大学グローバル・ロー研究センター創設記念行事」として、かつて法学研究科で学んだ張青華弁護士の所属する北京の天達共和律師事務所と共催による国際シンポジウムの開催が実現した。なお、同事務所は本学法科大学院のエクスターン生も受け入れてくれているほか、国際企業戦略研究科の経営法務部門とも緊密な協力関係にある。

中国人留学生が留学生全体の45%を占める一方で、一橋大生の中国留学はなかなか進まない現状

一橋大学への留学を希望する中国人学生は多い。中国人学生は毎年40万人以上が海外に留学している。2017年5月1日現在の集計では、一橋大学に在籍する中国人留学生は358人。一橋大学は世界各国から796人の留学生を受け入れており、留学生比率の高さは日本の国立大学の中でもトップクラスであるが、その約45%を中国人が占める。
しかし、その一方、一橋大学の日本人学生は欧米の大学への留学志向が強く、中国の超一流大学(北京大学、中国人民大学、清華大学)でさえも、学生交流協定に基づく留学枠が全部は埋まらないという問題がある。世界中から中国に優秀な人材が集まっている現状にかんがみると、この状況は改善すべき喫緊の課題である。そのための有効な対策は、とにかく一度、短期間でもいいので、学生に実際に中国を体験させることだと青木代表は考えている。
「中国は、一度行けば一気にハードルが下がる国です。学生はマスコミの報道により、大気汚染のひどいちょっと怖い国というイメージを持ちがちですが、実際に連れていくと認識をあらため、大きな刺激を受けます。北京の一流大学では、優秀な中国人学生のみならず世界中から集まった人材に出会う。語学力、向学心、知識、......一橋大生はさまざまな面で刺激を受け、例外なく発奮して日本に帰ってきます」(青木代表)

「中国を知ろう、中国へ行こう」に垣間見える、愛情あふれるサポートの数々

一橋生の中国への関心を喚起するために、センターはさまざまな取り組みを行っている。たとえば、昨年6月から「中国を知ろう、中国へ行こう」という連続イベントを開始。第1回は《「知らない中国」が、「行きたい中国」になる》というテーマのもと、志波前代表、王雲海法学研究科教授、笹倉一広経済学研究科准教授の講演が行われた。以来、同イベントは定期的に開催されており、2017年6月までに7回を数えた。各回の講演者は、中国ビジネスの経験が豊富な本学OBである井田武雄さん(1976年商学部卒)、木元哲さん(1974年法学部卒)や一橋大学で博士号をとった楊東中国人民大学法学院副院長らが、ボランティアで引き受けてくれた。

第3回と第7回の講演者はカシン助理。「カシン姐さんの北京においでよ」というテーマで学生たちに北京の魅力を語った。過去7年にわたって現地スタッフとして交流を支えてきた同助理は、如水会北京支部・留学生会の信頼も厚く、中国での交渉や出張者のアテンドに加え、中国版SNS「微信」(WeChat)で一橋大学の動向を発信、来日時には中国語を学ぶ一橋大学の1・2年生に向けて現代中国社会の話もする。中国語クラスでの活動ができるのは中国語担当教員たちの協力の賜物である。
ところで、このイベントの斬新なポスターは毎回キャンパスの注目を集める。青木代表がキャッチコピーを考え、学務部国際課職員の河野由佳さんがデザインする。河野さんもボランティア協力者である。昨年はポスターを見た中国人留学生会(中国学友会)から「ぜひ私たちにも手伝わせてほしい」との申し出を受け、中国人留学生が企画・運営する交流会も実現し盛況だった。デザインの持つ力である。

第3回「中国を知ろう、中国へ行こう」ポスター(カシン姐さん)

第3回「中国を知ろう、中国へ行こう」ポスター(カシン姐さん)

第4回「中国を知ろう、中国へ行こう」ポスター

第4回「中国を知ろう、中国へ行こう」ポスター

人と人とのつながりが緊密な連携を生む。
国際交流は、生身の人間同士の付き合いである

協力者のサポートは運営の直接の現場にとどまらない。センターが培った人とのつながりは、一橋大学の知名度向上に尽くしてくれる。如水会北京支部・留学生会のメンバーは中国を訪れる教員・学生を手厚くもてなしてくれる。北京支部の会員たちは、カシン助理のデスクがある日本学術振興会北京研究連絡センターを次々と訪れ、同助理を励ましてくれる。
国際交流等担当の中野聡副学長もセンターに期待を寄せる。同副学長は着任早々の2017年2月に青木代表とともに中国人民大学を訪れ、同大学の王利明常務副学長、陳建経済学院教授(一橋大学経済学博士)、徐飛図書館党委書記兼副館長らとの会談に臨んだ。その際には、如水会北京支部が中野副学長の歓迎会を開いてくれたうえ、同支部の中心メンバー(当時)の瀬川拓さん(1980年法学部卒)が、最新の中国事情をブリーフィングしてくれた。本誌第55号でも既報の通り、中国人民大学とは「SIGMA」の協定校として連携をしていることもあり、今後一段と、中国との提携関係を深化させていくことになるだろう。
「すべて人と人とのつながりで生まれた連携です。私が代表の仕事をお受けしたのも、志波前代表の志を継ぎたい、カシン助理の活躍を多くの人に知ってもらいたいという、人への思いからでした。国際交流の本質は生身の人間同士のお付き合いにほかなりません。これからも、皆さんのサポートのもと、社交力の限りを尽くして奮闘していくつもりです」(青木代表)

中国人民大学王利明常務副学長らと撮影

中国人民大学王利明常務副学長らと

如水会北京支部瀬川会長と撮影

如水会北京支部瀬川会長と

(2017年10月 掲載)