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10周年を迎えるベルヘ(BERGĒ)社×一橋大学 International Talent Programmeの絆

2017年秋号vol.56 掲載

現在、一橋大学には数多くの海外留学プログラムが用意されている。その中で唯一"就業体験をする"プログラムが「短期海外研修(スペイン企業派遣)」であり、スタートした2008年から一貫して学生の受け入れ先となっている企業が「BERGĒ(ベルヘ)社」である。スペインの非上場企業の中でも有数の総合商社で、事業はエネルギーや金融分野などにも広がり、世界11か国以上に展開。そんなグローバル企業の最前線で5週間、学生は企業実習やマネジメント研修などに取り組む。国際的なキャリア形成支援を目指す目的で設立された"International TalentProgramme"の提携を結んで今年10周年を迎えるが、一橋大学との関係性は輝きを増していると聞く。あらためて同プログラムの狙いや成果、そして、途絶えることなく続く二人三脚の道のりにクローズアップしてみたい。

参加学生の約6割が卒業後グローバルな舞台へ

2017年4月6日、来日中のスペイン王国国王フェリペ6世陛下もご臨席になる中、第26回日本・スペイン経済合同会議が帝国ホテル本館(東京都千代田区)で開催された。「ビジネススクールと人材育成」をテーマとした会議には一橋大学が招かれ、ベルヘ社のInternational Talent Programmeに関するプレゼンテーションが行われた。この企業派遣プログラムに参加した学生や卒業生も出席し、コーヒーブレークではフェリペ6世陛下との対話の機会を与えられるなど、スペイン国民も羨む貴重なひと時を過ごしたという。同プログラムが両国の友好や交流促進に貢献するものとして、スペイン政府から評価されている証といえるだろう。
プレゼンテーションの場でベルへ社のホアキン・エウラテ氏(広報担当取締役)とともに登壇したのは、同プログラムのコーディネイターを務める一橋大学国際教育センター長の阿部仁准教授。まずはそのポイントについて話を伺った。

一橋大学国際教育センター長 阿部仁准教授

一橋大学国際教育センター長 阿部仁准教授

「当日はこのプログラムの成果を中心に発表させていただきました。2008年から毎年6人の学生を派遣し、すでに60人近くの卒業生を輩出していますが、約6割が国際的な舞台で活躍し、その約2割が海外で仕事に就いているという調査データがあります。一橋大学の学生の多くが金融・製造業・商社など日本の伝統的な企業に就職する現状を踏まえると、このプログラムが参加学生のキャリア観に少なからず影響を与えていることは確かです。5週間にわたるベルヘ社での就業体験や現地での生活は、スペインと日本における働き方や価値観などの違いに触れ、ワーク・ライフ・バランスのあり方を考える機会にもなっていると思います」

"化学反応"を起こしやすい環境だからこそ磨きやすい"四つの能力"

全学・各学部で実施されている一橋大学の海外留学プログラムの数は、現在14に及ぶ。語学研修や交換留学、留学期間や難度の違いなど内容は多彩だ。しかし、この海外企業派遣プログラムは英語力を駆使して企業実務に1か月以上携わるだけに、位置づけは極めてハイレベルだ。参加した学生は否が応でも異文化に揉まれ、困難を乗り越えながらスタッフと協同で物事に取り組むことになる。ハードルが非常に高いが、だからこそどのような国や環境下に置かれても、実力を発揮できる能力が磨かれると阿部准教授は胸を張る。
「どの海外留学プログラムであっても、狙いは四つの能力(問題発見・解決力、柔軟性、主体性、コミュニケーション力)を伸ばすことにありますが、この海外企業派遣プログラムで最も期待できるのは広い意味でのコミュニケーション力の向上です。それを発信力(自己開示・プレゼンテーション)と受容力(傾聴・他者理解)の両面から磨くことが重要だと考えています」
ちなみに、選考では英語によるグループ面談とグループアクティビティが行われ、状況に応じて自分の立ち位置を決める"バランス感覚"や、雰囲気に流されず周りに気配りできる"大人力"があるかを見極めるという。傾向としては、一橋大学の学生は、高い問題発見・解決力を備えている一方で、協働するためのコミュニケーション力に課題があると阿部准教授は指摘する。
「ベルヘ社での企業実習では英語でのやりとりが基本となりますが、スペインでは誰もが英語が堪能とは限りません。言葉が通じないという厳しい現実の中で、自ら仕事を取りに行く。上手く協働する方法を見出す。その中で、少しでも会社に貢献することが求められます。このプログラムには韓国の大学からも学生が参加しており、宿舎ではこうした学生たちと共同生活を送ります。このような経験を通じて、グローバル社会で通用する真のコミュニケーション力が磨かれていくのです」
スペインという国で過ごすことは、文化や風習の違いを体得するうえでも有効だという。企業文化も、従来の日本の企業文化とは大きく異なるからだ。そういう意味でも学生は、成長という"化学反応"を極めて起こしやすい環境に置かれるといえる。

如水会がプログラムの実現に大きく貢献

ベルヘ社で企業実習が行われるのは1日5~6時間。学生の配属先は、各事業部をはじめシステム部門や財務部門など多岐にわたる。携わる業務もオブザーバー的な内容ではなく、マーケティング戦略の検討、調査やデータ分析、マニュアル作成など、アウトプットの質が求められる。業務終了時には指導担当社員から業績評価を受けるので、海外における就業体験そのものである。
一方で、このようなプログラムの実施は、学生を受け入れるベルヘ社にとっても多大な労力や時間を費やすことになるはずだ。しかも、企業実習以外に経営学講座(週5時間)やスペイン語講座(週3時間)まで用意され、休日には文化体験ツアーなどさまざまなイベントが催されるという。全社を挙げての協力姿勢づくりやその情熱には頭が下がる。
学生にとっては至れり尽くせりの内容であり、ベルヘ社の負担によって費用面で参加しやすいことも注目に値する。このような海外企業派遣プログラムがなぜ実現し、十年来続いているのだろうか。これまでの道のりを尋ねてみた。
「このプログラムは、ベルヘ社の会長ハイメ・ゴルベーニャ氏のリーダーシップ、そして如水会の尽力によって実現したものです。会長は若かりし頃トヨタ自動車でインターンシップを体験され、人材育成における有用性を強く実感されたといいます。トヨタ自動車でゴルベーニャ氏のメンター的な役割を務めたのが、トヨタ自動車で海外営業畑を歩み、後に取締役副社長となられた一橋大学OBの石坂芳男氏でした。ゴルベーニャ氏が経営トップに立たれた後、恩返しの気持ちも込めてInternational Talent Programmeの実施を決意し、その受け入れ相手として話が来たのが一橋大学だったのです。その後如水会スペイン支部が架け橋となり、一橋大学とベルヘ社による短期海外研修プログラムとして2008年に企業派遣を共同運営する協定を締結しました」
グローバルな舞台で活躍する数多くの卒業生が育んできた信用。そして、後輩である現役学生の成長支援を惜しまない如水会の人的ネットワーク。これらが実現の鍵となっていたことに、一橋大学の魅力を再認識させられる。
インターンシップ・プログラムを実施している日本の大学は多いが、実施地が海外となれば数は限られるだろう。そして、さらに重要なことは、将来の糧として何を得ることに目標を置いているかだ。その点、同プログラムの目標は阿部准教授が語るように明確だ。
「身につけてもらいたいのは"アウェーで実力を発揮できる自信"です」
その願いや情熱は、ベルヘ社の人々や如水会の一橋大学OB・OGも同じに違いない。

短期海外研修(スペイン企業派遣)参加者Voice

篠田あゆみ氏プロフィール写真

人と違った道を選んでみた。
自由になれた。自信もついた

米国Western Michigan University(ウェスタン・ミシガン大学)大学院在学中
2013年商学部卒業
篠田あゆみさん

学内のビジネスコンテストで優勝し、ベトナムのハノイ貿易大学でプレゼンテーションをする機会をいただきました。その際に指導してくださった五味政信教授(当時の国際教育センター長)から勧められたことが、このプログラムに参加したきっかけです。就職活動中だったため参加するか迷いましたが、高校まで暮らしたアメリカで学んでいたスペイン語をもう一度勉強したいという思いと海外で働いてみたいという気持ちもあり、参加を決意しました。
ベルヘ社で主に取り組んだのは、選考時の面談でも希望したマーケティングに関わる業務です。社内で立てられたマーケティング戦略を、客観的に分析してプレゼンテーションする。自分なりの見解が求められました。資料や広告がすべてスペイン語だったため正確に内容を把握し分析できているか不安でしたが、グローバルな環境で働く自分をイメージすることができました。

滞在期間中に得たものは語り切れません。たとえば、ベルヘ社はスペイン市場で日本車の輸入販売事業も展開しますが、外から日本の企業やブランドを考察できる貴重な機会になりました。また、"英語はどの国でも通じる"という考えは甘かったと気づかされる5週間でした。スペイン語しか話せない社員の方も多かったからです。ただ、国籍を問わず多様な人々と協働する時に一番大事なものは、言語力よりもヒューマンスキルだと思います。相手を受け入れ、理解しようとする姿勢さえあれば何とかなる。そう実感し、自信にもなりました。企業を見る眼が変わったことも収穫の一つです。就職活動の時期と重なっていましたので、私はスペインから興味のある国内外の企業に幾つかアプローチしていました。印象的だったのは、私の事情や将来を思って面接日を調整してくださるなど、親身に対応してくれる企業があったことです。それ以降、社風や企業文化、人材育成方針なども企業選びの条件に加えました。
宿舎で寝食をともにした、韓国中央大学校からこのプログラムに参加した学生グループとは、現在も年に数回会うほど親交を深めました。職場から宿舎に戻ると声を掛け合って情報を交換したので、自分が携わっていない業務についても学ぶことができましたし、お互いの意見や考えを知ることで異文化に触れ、価値観を分かち合えました。

集合写真

各週に開講されていたビジネスセミナーの講師と本社で記念撮影。パワフルな女性が多いグループでした

卒業後は、米国に本社を置く多国籍コングロマリット企業に就職し、営業企画と営業に3年間携わりました。そして現在は、一度退職し、米国Western Michigan University大学院で組織学習の分野を学んでいます。
ベルへ社の企業派遣プログラムに参加し、気づいたことがあります。それは、「歩いている道から一度外れてしまえば、自由になれるし、自信になる」ということ。周囲に歩調を合わせたり、既成概念で自分を縛ることなく、可能性を信じて自分なりのキャリアを積みあげていきたいと思います。(談)

ベルヘ社の役員・社員と記念撮影

プログラム修了証書を貰い、日・韓の学生、ベルヘ社の役員・社員と記念撮影。あっという間の5週間でした

弾丸ツアー写真

週末を利用してグラナダへ弾丸ツアー

ビジネスセミナーの講師と本社で記念撮影

企業派遣先のInfinitiのメンター、上司と最終日にオフィスで記念撮影各週に開講されていたビジネスセミナーの講師と本社で記念撮影。

日・韓の学生と試合観戦

レアル・マドリードのホームスタジアムで日・韓の学生が試合観戦

(2017年10月 掲載)