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学生自らが寮の管理・運営に取り組む 一橋大学国際学生寮のチューター制度

2016年冬号vol.49 掲載

国立キャンパス、小平国際キャンパスに国際学生寮を備える一橋大学。これらの寮では、海外からの留学生も含め、多くの学生たちが生活を送っている。大学の管理下において、その運営の中心となっているのは居住する学生たち自身である。RA、CA、FLといった学生スタッフがおのおの役割を決め、寮生活における課題を自ら解決する。ここでは、留学生たちの生活サポートも含め、さまざまな運営企画の立案・実施を担う、独自のチューター制度について紹介する。

阿部氏プロフィール写真

阿部 仁

国際学生宿舎一橋寮・宿舎アドバイザー 国際教育センター准教授

渡辺氏プロフィール写真

渡部 由紀

国際交流会館留学生宿舎・指導主事 商学研究科講師

独自のチューター制度を導入し円滑な運営が続けられる国際学生寮

一橋大学には、三つの「国際学生寮」がある。このうちチューター制度を導入しているのは、一橋大学小平国際キャンパスの中にある「国際学生宿舎一いっきょうりょう橋寮」(以下、一橋寮)と、国立西キャンパス内の「国際交流会館留学生宿舎」(以下、国立国際交流会館)だ。
一橋寮は2002年に建設された学生寮であり、785の居住スペースで日本人学生と留学生が生活する学生寮となっている。その内訳は、約250世帯が一橋大学の日本人学部生・大学院生、約450世帯が海外からの留学生、残り80室が学生スタッフ及び臨時用となっているが、この一橋寮は一橋大学だけではなく、東京学芸大学、東京農工大学、電気通信大学に通う海外留学生を受け入れている。
一方、約80の居住スペースがある国立国際交流会館には、主に一橋大学の大学院で研究する留学生が生活しており、そのうち約20世帯が家族で暮らしている。
両方の国際学生寮に共通している特徴が、独自のチューター制度を採用して寮の運営に取り組んでいることである。ここでは、家族、夫婦、単身者、そして日本人と海外からの留学生など、多様な学生たちが暮らす国際学生寮の様子、そして大きな特徴であるチューター制度についてレポートする。

ISDAKチューター体制図

ISDAKチューター体制図

宿舎アドバイザーのもと、RA、CA、FLがいることにより、寮生全員が快適に暮らしながら国際交流ができるよう、体制を整えている。

RA、CA、FLなどさまざまな役割を担当し学生自らが企画・運営

このチューター制度の中心となっているのが、RA(レジデント・アシスタント)というポジション。このRAは日本人・外国人の両方から構成され、一橋寮では約40人、国立国際交流会館では5人ほどが選出され、学生たちが快適な寮生活を送れるようさまざまなサポートを実施している。一橋寮に自ら住み込みながら、現在は「宿舎アドバイザー」としてこのRAをサポートしているのが、留学生・海外留学相談室の室長も務める阿部仁国際教育センター准教授。2007年の着任当時からこのチューター制度の確立に取り組んできた阿部准教授に、制度の歩みについて伺った。
「私が着任した当時の小平国際学生宿舎は、留学生、日本人の学部生、大学院生と、担当する組織が別々に存在している状態でした。転機となったのは2010年で、大学の国際化推進に合わせて学生寮の国際化も進められることになり、既存の寮運営組織を解体。留学生寮と学部生寮を一つの枠で運営する体制をつくることになりました」(阿部准教授)
開始当時は学生スタッフが日本人寮生までを支援することに違和感を覚えるという声もあったものの、現在はチューター制度が定着。一橋寮の寮生組織であるInternationalStudent Dormitory Association of Kodaira(ISDAK)ではRAのほか、共有スペースを有するフロアのまとめ役となるCA(コミュニティ・アシスタント)、RAのサポート役となるFL(フロアリーダー)といった学生スタッフたちが一体となって、国際学生寮の運営を円滑に行っている。
国立国際交流会館の指導主事である渡部由紀商学研究科講師は、学生自らがRAといった運営スタッフを選考・採用し、自主的に運営方針の立案・実施に取り組むことに関し、次のように述べている。
「寮の運営の中心となるのはRAたちですので、その採用に関しても、チームで動くにはどういう人材が必要かを考えながら、RAが中心となって選考基準を決め採用選考を実施してもらっています。大切なのは、RAが自ら問題意識を持って、生活空間である寮をどうしていくべきかを考え、企画を実施していくことだと思います」(渡部講師)

活動を通して得られる国際感覚と大学側からの評価

大学側の教員という立場から、RAにいかに接しているかを聞いたところ、阿部准教授、渡部講師から共通して「RAのサポート役、相談役」という答えが返ってきた。
「日常的な管理は学生であるRAが担い、私たちはそのスーパーバイズ役だと思っています。月に1回のミーティングでも学生たち自らが報告し、事例について議論しています。また、毎年実施されるイベントやパーティなども、皆がどんなものを求めているかを考えながら、RAが中心となって企画しています」
そうした活動を報告書としてまとめ、大学側に提出することで、国際学生寮での取り組みが評価されるという結果も生み出している。RAの役割を一定期間全うした学生たちの活動に対し、国際学生宿舎主事の沼上幹理事・副学長より毎年感謝状が授与される。この活動は、問題意識を持って課題を解決する力、組織マネジメント能力といったものを学生に与えるだけではなく、一人ひとりの国際化に対する考え方にも良い影響を与えていると言えるだろう。
「このチューター制度によって、生活の中でも国際感覚を身につける実践の場を得ることができると思います。学内でのアカデミックな国際教育、派遣留学プログラムに加え、国際感覚を肌で感じたいという学生には、この一橋の国際学生寮は最適な場所なのではないでしょうか」(阿部准教授)

ISDAK・RA会議写真

定期的に行われるISDAK・RA会議。寮をより良くするため、さまざまな議題について話し合っている

メンバー写真

日頃から寮生とコミュニケーションを取り、一緒に問題を解決するのもRAの大事な役割

一橋寮写真

一橋寮(外観)

商店街ツアー写真

留学生への街案内も兼ねる、商店街ツアー。地元商店会の協力で実現している

ISDAK・RAメンバー写真

宿舎アドバイザーの阿部准教授と国際課職員・五嶋春奈氏、ISDAK・RAメンバーたち

行事参加写真

正月などの季節の行事では、日本文化を体験できるようにしている

国立国際交流会館写真

国立国際交流会館(外観)

ウェルカムパーティ写真

新入居者を迎えるウェルカムパーティは特に盛り上がる

導入研修写真

RAとして必要な知識を習得する導入研修。高尾山に登ってメンバー間の交流を深めた

顔さんプロフィール写真

個性を尊重して
"家"のような環境をつくりたい

国際交流会館留学生宿舎・RA
商学研究科博士後期課程2年
顔 菊馨(イェン・ジューシン)さん

私は日本に住んで3年になりますが、来たばかりの頃はやはり言語的な障壁を感じていました。これは皆も感じるはず、その経験をシェアしながらサポートしたい......と考えたことが、私がRAになりたいと思った理由です。もちろん私自身もRAの方々にお世話になったということもきっかけになっています。
RAの仕事で苦労するのは、これまで別々のバックグラウンドで生活してきた学生たちが、毎年入れ替わりながら入居してくる部分にあります。大事なのは、それぞれの入居者の個性や性格、生活習慣に気を配りながら、押し付けることなく、課題解決のための最善の策を見つけていくことなのではないでしょうか。
これからRAになる方々にも、入居者の個性を尊重しながら、皆が安心して、楽しく暮らせる環境づくりに取り組んでほしいと思います。1人では難しいことも、渡部先生や職員の方々、他のRAや寮生と協力しながら解決を目指して、居心地の良い"家"のような寮をつくってほしいですね。(談)

源さんプロフィール写真

人間関係を学べたRAの経験が
人生の糧に

国際学生宿舎(一橋寮)ISDAK・RA
経済学部4年
源 道直さん

入学時にISDAKに入居した私は、当時のRAやCAの人たちと仲良くなる中で、その仕事がとても楽しそうに感じていました。同時に、同じ入居者で環境に不満を持つ同級生がいたこともあって、自分が寮を変えていきたいと思うようになり、2年生になるタイミングでRAになりました。
RAになって3年目になりますが、留学生とのコミュニケーションは、英語で聞かれたことに対して日本語で答える、自分の英語力では対応できない時などはほかの留学生にフォローしてもらう、といった形で行っています。言葉での意思疎通だけではなく、日頃から共有スペースをきれいにして皆が集まりやすいようにすることで、コミュニケーションは円滑に進みますし、とてもいい関係を築くことができると思っています。
2016年の春には卒業して就職します。このRAの経験は、将来自分が海外で仕事をする際にも役立つはずです。学校での勉強だけではなく、人間関係を学べた経験は、今後の人生における糧になるのではないでしょうか。(談)

遠藤さんプロフィール写真

プレッシャーを感じない、
より良い生活環境を目指す

国際学生宿舎(一橋寮)ISDAK・CA
商学部2年
遠藤桃香さん

小さい頃から海外での生活経験が長かった私は、英語力を活かした国際交流がしたいという思いがあって、ISDAKのCAに応募しました。現在は6人がスペースを共有するフラットに住みながら、1年間の交換留学で一橋大学に来る学生たちと一緒に生活しています。
留学生たちとともに生活してみると、人それぞれの性格がライフスタイルに出るということが分かりました。メンバー間で問題が生じることもありますが、国籍よりむしろそれぞれの性格に起因することも多いのです。そんな時は皆でルールを確認しながら、プレッシャーを感じさせないように改善を目指すのが大事だと思っています。
私は来年の秋から1年間、ベルギーに留学することになっています。皆と別れるのは少し寂しいですが、これからいろいろな思い出をつくっていきたいと思っています。そして帰国した折には、またCAやRAといった役割で、すてきな寮の環境づくりをお手伝いできたら嬉しいですね。(談)

(2016年1月 掲載)