他大学に例をみない留学制度を多面的に支えるHEPSAの活動
2016年夏号vol.51 掲載
制度の開始から30年目を迎える「一橋大学海外派遣留学制度」は、近年では毎年100人近い学生を派遣する規模に拡大している。その支援を行う組織がHEPSAだ。本項では、他大学にはない手厚い支援の下で留学を経験できる制度、そしてその制度をサポートするHEPSAの活動について紹介する。
如水会、明治産業、明産が手厚く支援する一橋大学独自の海外派遣留学制度
グローバル化の進む現代において、社会に貢献する人材の育成を教育目標として掲げる一橋大学では、毎年数多くの学生を海外の大学に派遣している。短期研修、語学留学、長期留学を含め、複数の留学制度が存在する中、極めて高い独自性を持っているのが「一橋大学海外派遣留学制度」である。
この制度は、同窓会組織である如水会が「優れた人材が積極的に一橋大学を志願することへの一助」となることを目指し、1987(昭和62)年に設立した「如水会海外留学奨学金」としてスタート。当時の国立大学では、同窓会組織が留学制度を設立した例はほかになかったという。翌年の88(昭和63)年には、一橋大学OBである故・島村定義氏が創業した明治産業株式会社の協賛による「明治産業海外留学奨学金」が加わり、両奨学金が一体化して「一橋大学海外派遣留学制度」となった。現在は如水会と明治産業のほか、明産株式会社からの協賛による制度として規模が拡大し、これまでに1000人近い学生の海外留学を支援してきた。
現在この制度を利用する学生は増加傾向にあり、2015年度は93人の学部生が海外へと向かった。派遣先の大学は、アメリカ、ヨーロッパに加えアジア、オセアニアと世界中に広がっている。そのいずれもがトップクラスの大学であり、協定校数は67校に達している(2016年5月現在)。これらの大学は一橋大学と大学間学生交流協定を締結しており、一橋大学に学費を納めることによって現地での授業料の支払いは免除される。さらに「一橋大学海外派遣留学制度」を利用することで、往復航空券などを賄う留学準備金のほか、現地での生活で必要となる滞在費が奨学金として支給される(派遣先地域に応じて、月額6万〜10万円)という手厚い内容である。
留学経験者同士をつなぎ、後輩を支援し、卒業生、大学との連携を図る
さて本稿のテーマである「HEPSA」の活動だが、正式名称は、「一橋大学派遣交換留学生の会」(HitotsubashiUniversity Exchange Program Students'Association)であり、英文頭文字を取り「ヘプサ」と呼ばれている。この活動は、一橋大学の留学制度の設立20周年を機に2007年に活動がスタート、今年で10年目を迎える。組織の主体となったのは派遣留学から帰国した在学生の有志であり、その設立の目的は、留学経験者同士のネットワークの構築、一橋大生に対する留学情報の発信、大学や同窓会組織(如水会)への留学成果のフィードバックである。現在の組織体制は、同制度を利用し海外留学をした卒業生及び派遣留学内定者により構成されている。また留学を終えて間もない在学中の学生が学生事務局を担っている。
【1】活動方針
以下の3つを柱として活動しています
【2】組織
海外留学の魅力を発信し、グローバル人材の養成に寄与する
ではHEPSA学生事務局の主な活動内容について紹介したい。まず専用Webサイトを活用した情報提供がある。ここでは留学に関する各種イベントの開催告知を行うほか、OB・OGによる留学体験談を掲載している。また留学中の学生たちからの近況報告、留学先の大学についての情報なども入手することができる。留学関連イベントとしては、留学相談会としての役割を果たす「HEPSAランチ」、卒業生との交流を図る年次総会やセミナーなどがある。さらに派遣内定者へのメンター的な役割を果たすほか、如水会や大学(国際課)と連携を図るとともに、留学制度の改善に向けてアンケートも実施している。
「一橋大学海外派遣留学制度」が誕生してから30年、すでにHEPSAの会員数は1000人を超えている。HEPSAのWebサイトには「Bridge the People」というミッションが紹介されており、そこには「一橋大学海外派遣留学制度がかけはしをつくる」という思いがつづられている。このかけはしは学生同士という枠を越え、留学という貴重な体験をした者がお互いに刺激しあい自らリーダーとして社会を牽引するとともに、次代のリーダーを育てるべく協力するという意味を持っている。海外留学経験者の自発的な思いに支えられるHEPSAの活動は、一橋大学が標榜するグローバル人材輩出を支える礎として寄与しているのである。
2017年度一橋大学海外派遣留学制度 派遣先大学一覧(2016年5月12日時点)
- ペンシルヴァニア大学教養学部(アメリカ)
- ペンシルヴァニア大学ウォートン校(アメリカ)
- カリフォルニア大学(アメリカ)
- ミネソタ大学(アメリカ)
- ミネソタ大学カールソン・スクール・オブ・マネジメント(アメリカ)
- ミシガン大学教養学部(アメリカ)
- サウスカロライナ大学ダラーム・ムーア・スクール・オブ・ビジネス(アメリカ)
- ハワイ大学マノア校(アメリカ)
- ワシントン大学経済学部(アメリカ)
- ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン人文学部(イギリス)
- バーミンガム大学(イギリス)
- ロンドン大学アジア・アフリカ研究院(イギリス)
- マンチェスター大学人文学部(イギリス)
- ニューカッスル大学(イギリス)
- グラスゴー大学(イギリス)
- ボッコニー大学(イタリア)
- トレント大学(イタリア)
- インドネシア大学(インドネシア)
- オーストラリア国立大学(オーストラリア)
- クイーンズランド大学(オーストラリア)
- モナッシュ大学(オーストラリア)
- ウィーン大学(オーストリア)
- マーストイヒト大学人文社会科学院(オランダ)
- エラスムス大学ロッテルダム経済学部(オランダ)
- フローニゲン大学経済・経営学部(オランダ)
- ヨーク大学(カナダ)
- マギル大学(カナダ)
- ブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ)
- ソウル大学校(韓国)
- 成均館大学校(韓国)
- 西江大学校(韓国)
- 延世大学校(韓国)
- 高麗大学校(韓国)
- シンガポール経営大学(シンガポール)
- ローザンヌ大学経済経営学院(スイス)
- ルンド大学経済・経営学部(スウェーデン)
- ストックホルム経済大学(スウェーデン)
- マドリード・コンプルテンセ大学(スペイン)
- チュラロンコン大学商学・会計学院(タイ)
- タマサート大学(タイ)
- 国立台湾大学社会科学院(台湾)
- 国立政治大学(台湾)
- 国立台北大学(台湾)
- 中華人民大学(中国)
- 北京大学(中国)
- 上海財経大学(中国)
- 吉林大学(中国)
- 香港大学(中国)
- 香港中文大学(中国)
- 清華大学(中国)
- コペンハーゲン経済大学(デンマーク)
- オーフス大学商学・社会科学院(デンマーク)
- オスナブリュック大学(ドイツ)
- ベルリン・フンボルト大学(ドイツ)
- マンハイム大学(ドイツ)
- ケルン大学(ドイツ)
- ハイデルベルク大学(ドイツ)
- ミュンヘン大学(ドイツ)
- アールト大学経営学院ミッケリキャンパス(フィンランド)
- アールト大学経営学院ヘルシンキキャンパス(フィンランド)
- パリ第一大学(フランス)
- HEC経営大学院(フランス)
- パリ政治学院(フランス)
- ハノイ貿易大学(ベトナム)
- ブリュッセル自由大学ソルヴェイ経済経営学院(ベルギー)
- ゲント大学(ベルギー)
- ルーヴェン・カトリック大学経済・経営学部(ベルギー)
- マラヤ大学(マレーシア)
- メキシコ大学院大学(メキシコ)
- ロモノーソフ・モスクワ国立総合大学(ロシア)
HEPSA学生事務局代表
リアルな留学体験を
学生目線で後輩たちに伝える
商学部4年
岡田 莉菜さん
(2014年イタリア・トレント大学に留学)
HEPSAの存在は、私が留学前に参加した「HEPSAランチ」で知りました。これは、海外留学から戻ってきた先輩たちが後輩に向けて情報提供を行うという催しです。私自身もこのイベントで得た情報をもとに留学先を絞り込んでいきました。HEPSAの活動の優れたところは、学生目線で渡航先の様子が聞けることです。パンフレットやWebなどに載っているような通り一遍の大学情報だけではなく、留学先での大学生活やタイムマネジメントの方法、授業の雰囲気といった情報を入手することで、生活の場としての留学先のイメージが膨らんでいきます。こうした現実的な情報がこれから留学に向かう学生たちの安心感につながるのです。
今後学生事務局代表として私が取り組んでいきたいのは、学内でHEPSAの認知度を上げるということ。それは単にHEPSA自体の知名度を上げることではありません。利用してみて初めて分かる「一橋大学海外派遣留学制度」の独自性や特殊性、卒業生とのつながりが自分たちの将来にとっていかに貴重かといったことを、実感を持って丁寧に伝えていく必要があると思います。つまりこの留学制度が内包する他大学にないさまざまな魅力を多面的に伝える工夫が必要なのだと思います。そのためには、潜在的な留学希望者も視野に入れたイベントをもっと多く企画したいと思っています。そしてHEPSAのファンを増やしていく。そうすることでHEPSAの求心力が高まるのではないでしょうか。(談)
2014年HEPSAランチ
2015年度卒業祝賀会
「留学」という
共通の体験を持つ人々をつないでいく
そんな取り組みに期待しています
2001年商学部卒業
MHD モエ ヘネシー ディアジオ株式会社 パブリックアフェアーズ マネジャー
牧 陽子氏
(1999年フランス・HEC経営大学院に留学)
私は今、MHD モエ ヘネシー ディアジオという外資系企業で広報の仕事に携わっています。学生時代、英語は得意ではありませんでしたし、大学に入学するまで海外留学を具体的に意識していませんでした。フランスへ旅行したこと、また、大学で周りの友人から留学体験を聞き、海外留学を目指すことになりました。大学在学中に留学を経験したことにより、後にグローバルなフィールドでキャリアを築くことができ、自分の生き方が大きく変わりました。このように、今の私があるのは、一橋大学で海外留学の機会をいただけたからです。そんな思いもあり、留学生を支援するHEPSAの活動には積極的に参加するようにしています。恩恵に報いるという意味と、これから海外に出る後輩たちに私の経験が少しでも参考になれば、という思いがあるからです。また、後輩たちとの交流を通して海外の新しい情報を得たり、つい忘れそうになる学生時代の熱い志を思い出し奮起することもできたり、留学OB・OGとの新しいネットワークもできたりと、HEPSAへの参加が私にとって良い刺激になっています。
今後のHEPSAに期待することは、留学内定者だけではなくて、留学するかどうか迷っている人に対するサポートです。私のように海外に出ることで新たな可能性と出合える学生さんもいるはずです。語学や勉強のことだけでなく、失敗談や苦労話も含めた広い意味での海外留学の魅力を伝えていってほしいと思います。そのために私の体験をお話しするなど、協力は惜しみません。視野が広がるとはどういうことなのか、私の留学体験が後輩たちの将来に少しでも役に立つのであれば、これほど嬉しいことはありません。(談)
HEPSA第三代会長
それぞれの立場でできる支援を行い
学生たちのロールモデルとなる
一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 教授
阿久津 聡
(1988年アメリカ・カリフォルニア大学バークレー校に留学)
私が一橋大学の留学制度(当時は「如水会海外留学奨学金」という名称でした)を活用して、アメリカのカリフォルニア大学バークレー校に行かせてもらったのは1988年でした。その後の大学院生時代にも同制度のお世話になりました。当時はHEPSAという名称も組織化された団体もありませんでしたが、留学経験者が後輩たちの相談に乗るような取り組みはしていました。それは一橋大学に「後輩を思う」という文化が当然のように根付いていたからです。その文化が脈々と受け継がれ、結果として組織化されたのがHEPSAだと思っています。
学生時代の同期である服部正純・第二代会長の後を受け、私が第三代会長となりましたが、服部会長の時代に、自分たちがお世話になった留学制度に対し、何かしら恩を返していこうという思いから「HEPSA交換留学生基金」が立ち上がりました。この取り組みは今も継続しています。このようにHEPSAの卒業生として現役の学生たちのための支援方法を考えることも、私たちの役割だと認識しています。しかし、最も重要なのは留学を経験した私たち一人ひとりが後輩たちに憧れてもらえるようなロールモデルになっていることだと思います。「一橋大学海外派遣留学制度」がスタートしてまだ30年目です。初めて制度を利用した人でも50代の前半でしょう。多くは40代以下です。社会的にいえば働き盛りの世代です。一人ひとりが自分に与えられた職務に励み、組織的にも社会的にも影響力のある存在として輝いていること。その姿を通して、海外留学と一橋大学の派遣留学制度の魅力を伝えていく。HEPSAのOB・OGたちの活躍が広く世間に認知されれば、一橋大学の留学制度を求めて日本中から優れた人材が集ってくることでしょう。その結果としてグローバルに活躍する人材が一橋大学から継続的に生まれていく。好循環の出発点になることが、卒業生の務めだと思っています。(談)
「後輩を支援することをつねに考える」という如水会とHEPSAに共通するDNA
一般社団法人如水会/理事・事務局長
岡田 円治氏
一橋大学の同窓会組織である如水会のレーゾンデートルは、「母校と在学生、そして卒業生を支援し、社会に貢献する」というものです。この精神を、留学という共通体験でつないでいくのが、HEPSAという組織であると理解しています。例年、如水会では学生事務局よりHEPSAの活動報告を受けるとともに、「後輩のために」という視点からのさまざまなアイデアとそれを実現させるために必要な支援について議論しています。それは経済面のサポートに限ったことではありません。たとえば一橋大学の卒業生は、世界各国に駐在しており、それぞれの地域で支部をつくっています。また国内にも数えきれないほどの海外経験者がいます。こうした同窓会の資産を活用すれば、多層的なサポートが可能です。学生たちには、この環境を上手に利用してHEPSA発展のために、さまざまな施策を考えてほしい。それが私たちの願いです。そして母校が掲げる優秀なグローバル人材の養成に向けて、学生たちと一体となり最善を尽くしていく。その活動の中心的な役割を果たすのが、HEPSAなのです。(談)
(2016年7月 掲載)