令和5年学長年頭挨拶

中野学長新年あけましておめでとうございます。

昨年の日本は、コロナ禍からの社会経済のリカバリーを模索する一年となりました。一橋大学でも、5月には商東戦(一橋大学・東京大学対校ボート競技大会)が3年ぶりに観客を入れて開催され、11月には一橋祭もまた3年ぶりに対面開催されて久しぶりに国立キャンパスが大いに賑わうなど、キャンパスや課外活動の正常化が進みました。

その一方、2月に始まったロシアによるウクライナ侵略戦争は大きな衝撃を国際社会に与え、世界経済においてもアメリカをはじめ各国でインフレ率が40年ぶりの高水準に達して「低インフレ時代の終わり」が語られるなど、時代はまさに転換点を迎えようとしています。

このような時こそ、まさに社会科学の出番です。「社会科学の総合大学」である一橋大学は、人材育成と社会科学研究の世界最高水準の拠点としてその役割を果たすべく、教育研究力の飛躍的強化に取り組んでいます。本年4月には、新学部設置としては1951年以来72年ぶりとなるソーシャル・データサイエンス学部が大学院修士課程と共に発足して、新入生を迎えます。社会科学からアプローチする文理融合に向けた大きな挑戦です。

1875年に開設された商法講習所を起源とする本学は、近代日本の建設のためには、教養豊かな世界で活躍できる指導的な人材を実業界において育成することこそ国家が担うべき事業であるという信念から創立され、20世紀を通じて日本を代表する社会科学の総合大学として成長してきました。最高水準の研究を展開する教員と優れた学生・院生がゼミナールに代表される少人数教育などを通じて対話し結びつくことで育まれてきた卓越した学術コミュニティとしてのあり方は、一橋大学ならではの歴史に裏づけられてきた伝統です。

このように一橋大学が社会に示してきた強みや質の高さを生かしながら、現在、私たちは、社会科学における世界最高水準の教育研究拠点に成長し、文理融合・文理共創による新しい社会科学の創造などを通じて日本の社会科学の水準全体を向上させ、地球と人類社会の課題解決に貢献していくことをめざして、指定国立大学法人構想を推進しています。昨年4月に始まった6年間にわたる国立大学法人の第4期中期目標・中期計画期間もまた、そのビジョンの実現に向けて、「開放性を高める=ひらく」、「多様性を高める=つどう」、「社会連携を強化する=つなぐ」という3つの目標を掲げて歩み始めました。

そして昨年は、指定国立大学法人構想の進捗状況について国立大学法人評価委員会指定国立大学法人部会から厳しい指摘を受けたことを真摯に受けとめ、国際競争力の強化を加速するための全学人事ガバナンスや、社会科学高等研究院HIASおよび各研究科・研究所の機能を強化するための構造改革を皆さんの協力のもとに全学で推進してきました。世界に開かれた先端的研究者集団の拠点形成に向けたHIAS Bridgesプログラム、多様な人材がファカルティに集うことを通じて一橋大学を強化していくための全学人事ロードマップの策定、国際業績加算制度の改善をはじめ、一橋大学の良さを伸ばしていくために出来ることは矢継ぎ早に着手していくという姿勢で、私たちは大学改革に取り組んでいます。事務組織も、国際競争力強化と財務基盤強化に向けて、大きくフォーメーションを変えて新年のスタートを切ります。

これらの改革がいずれも全学教職員の皆さんひとりひとりのエンゲージメントがあって初めて可能であることは言うまでもありません。昨年の教職員説明会でも申し上げましたように、教職員の皆さんには、一橋大学が魅力ある卓越した学術コミュニティとして発展していくことと、皆さんひとりひとりの自己実現が結びつくことが大事であり、私も学長としてそのための大学運営・大学改革を進めていかなければならないと心に銘じたいと思います。

さて、本学は、2025年、創立150周年を迎えます。一橋大学は、この期に展開する様々な150周年記念事業を通じて、建学以来、渋澤栄一をはじめとする支援者と各界で活躍する卒業生の強い思いと応援に支えられつつ、その時代時代の教職員・学生を担い手として発展してきた本学希有の歴史を、次の150年に向けて架橋していきます。これから様々なアナウンスをして参りますので、どうぞご期待いただきたいと思います。

ウィズ・コロナの社会となるなか、ひとりひとりの健康と社会活動の両立が、ますます大切になっています。どうか皆さん、くれぐれもお体を大切に毎日をお過ごし下さい。本年も、どうぞよろしくお願いいたします。

令和5年1月4日
一橋大学長 中野 聡



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