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学長からのメッセージ

写真:一橋大学長 蓼沼宏一
一橋大学長 蓼沼宏一

 一橋大学は、その長い歴史の中でわが国の社会科学研究をリードする大学に発展してきました。特に、日本や世界の社会、経済、法制等における諸課題の解決・制度改革に資する研究や、企業経営の改善に役立つ研究など、実学としての学問研究に強みを発揮するとともに、社会における諸課題の解決へと導く理論的基盤として、基礎・応用理論研究も同様に重視してきました。

 一橋大学はまた、少人数のゼミナール制度をはじめとするユニークな教育システムによって学生ひとりひとりを大切に育成し、数多の有為な人材を社会に送り出してきました。教員が高い水準の研究に日々真剣に取り組むだけではなく、学生数平均7~8人のゼミナールなどにおいて教員と学生とが近い距離にあって、密度の濃い教育が行われていることに本学の最大の特色があります。その恵まれた教育環境の中で、それぞれの学生は深い専門知識に基づいて課題を発見し、解決する力と、豊かな教養を身につけて巣立っていき、日本および世界の社会、経済、学術、文化の発展に寄与してきました。そうした本学の卒業生たちは、実業界をはじめ各界から高い評価を得ています。一橋大学は、この歴史と伝統を継承しつつ、グローバル化の進む社会にあって、さらに一段進化した研究・教育の最高学府を目指します。

 現代の世界では国家間、組織間、あるいは個人間の競争が激化し、富の格差と貧困、経済の不安定性、環境汚染、国家間や企業間の紛争、人口の高齢化などの問題が深刻になっています。その解決には、社会科学の英知が不可欠です。一橋大学は、世界の諸問題の解決と、社会・企業・共同体などのシステムの改善に結び付くような先端的研究を推進していきます。そのため、21世紀COE・グローバルCOEプログラムなどの大型プロジェクトを通じて形成された国際的な研究ネットワークを活用し、共同研究をさらに活性化させます。2014年には新たに社会科学高等研究院が設立されました。ここを拠点として研究の一層の高度化・国際化を進める方針です。一橋大学はまた、全国に誇り得る充実した大学図書館を有していて、学術研究と教育の基盤を形成するとともに、研究成果の国際的な情報発信の機能も果たしています。

 一方、人材育成にも新たな工夫が必要な時代になりました。一橋大学は、グローバル化の進む社会に柔軟に対応することができ、現代の社会に貢献し得る人材を育成します。そのため、コミュニケーションスキルとしての英語教育はもちろんのこと、海外調査や海外インターンを実施し、世界の実態を学生が実体験として理解する場を提供しています。これらのプログラムでは、充分な事前準備や調査を踏まえた上で、先進国や発展途上国の企業人、教員、学生等と直接交流し、議論する機会が豊富に設けられています。

 また、期間の長い1年間ないし半年間の留学プログラムも充実しています。一橋大学同窓会である如水会の支援などによる海外留学制度では、2014年度は90人を超える学生が奨学金を得て、海外の交流協定大学を中心に中長期の留学を果たしました。今後も、中長期の派遣留学生数は増加させていく方針です。一方で、受け入れる留学生数も多く、2014年度には48の国々から700人以上の留学生が在籍し、国際色豊かなキャンパスを作り出しています。

 このように一橋大学は社会科学における研究と教育の両面で現代の日本を代表する大学ですが、その起源は小さな講習所でした。1875年、森有礼が私塾として商法講習所を開設し、その後、東京商業学校、東京高等商業学校へと学校の形態を拡大しつつ、明治維新後の近代化の過程において、商業に関わる日本の実学教育の主要な担い手へと成長しました。1920年に東京商科大学に昇格し、その前後から、商学だけでなく経済学、法学、社会学、さらには哲学、歴史学など、広く人文社会諸科学にも研究と教育の領域を広げて、独自の個性を備えた商業・経済系大学として発展の道を歩み続けました。第二次世界大戦後、一橋大学と名称を変え、名実ともに社会科学の総合大学となりました。現在の一橋大学は、商学、経済学、法学、社会学の4学部・研究科と言語社会研究科、国際企業戦略研究科、および経済研究所、さらに専門職学位課程として法科大学院と国際・公共政策大学院を擁しています。

 一橋大学では、社会科学のほとんどすべての分野を専門として学ぶことができます。加えて、伝統的に学部間・研究科間の垣根が低く、学生は自分の所属学部の専門科目だけでなく、自由に他学部の科目も履修することができます。さらに、東京医科歯科大学、東京外国語大学、東京工業大学との四大学連合や、多摩地区国立大学等との連携により、自然科学を含む他大学の科目の履修も可能です。これらの仕組みによって、深い専門知識と共に幅広い教養を身につけることができるのも本学の大きな特色です。

 2015年に創立140年を迎える一橋大学の歴史は、研究と教育の領域を広げ、その内容を深化させる発展の過程でした。未来に向けても、この発展の歩みを止めることなく、グローバル化の進む世界の中で、「最先端の研究を推進しつつ、ひとりひとりの学生を大切に育成する大学」という本学の特色をさらに強め、先端的研究・教育拠点としての役割を果たしていきます。



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