一橋教員の本
日本経済論
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伊藤隆敏, 星岳雄著; 祝迫得夫, 原田喜美枝訳 |
訳者コメント
伊藤隆敏と星岳雄による本書の原著(The Japanese Economy, 2nd edition, MIT Press)は、海外の学部生向けの教科書ではあるが、同時に日本経済論、特に日本のマクロ経済学・金融論を長きに渡って牽引してきた二人の書かれた研究書としての性格を併せ持っている。中国では、我が国のバブル経済崩壊後の政策対応に対する関心が高く、さらに日本から四半世紀遅れて今まさに少子高齢化社会に突入しつつある。そのような日本経済の過去の経験への関心の高さを反映して、本書は日本語訳より早く中国語訳が出版されている。
日本経済という複雑で変化を続けている対象を扱っている以上、現在進行形の政策的な議論においては、原著者二人や訳者の間でも微妙なスタンスの違いはある。だが、そのような研究者間の意見の違いは、世間一般での経済政策論議における、度を越した極論と比較すれば、かなり小さなものである。過去数年に渡る円安の進行を、全て日銀の緩和的な金融政策「だけ」のせいにしてみたり、防衛費増強の議論に関連して国債増発は将来世代の負担増や財政危機には繋がらないという主張がまたもや繰り返されたりと、様々な非生産的な主張を振りかざす人々や、それを話題作りのために節操なく取り上げるマスコミの姿が目立った。
これに対し、本書の内容は国内外の研究者による日本経済に関する多くの学術研究の成果に基づいた、高いレベルの集合知の結晶である。読者が本書の記述を全て正しいものとして鵜呑みにする必要はない。しかし、真摯で生産的な日本経済に関する議論・検討を行おうとするならば、本書は外すことのできないベンチマークの役割を果たし、今後長きに渡って広範な政策論議の出発点であり続けると思う。(祝迫得夫)