一橋教員の本

The Rohingya crisis and the international criminal court

The Rohingya crisis and the international criminal court

Hitomi Takemura
Springer 2023刊行
ISBN : 9789819927333

刊行時著者所属:
竹村仁美(法学研究科)

著者コメント

 本書は、筆者が執筆した国際法学会のホーム・ページ掲載のロヒンギャ問題に関するエキスパート・コメントの内容を基礎として、国際刑事裁判所とロヒンギャ問題の関わりについて、2022年までの動向をまとめた文書です。本書のタイトルにあるロヒンギャ危機とは、仏教徒が9割を占めるといわれるミャンマーで、少数派イスラム教徒であるいわゆるロヒンギャの人々が軍、政府当局による迫害を受け、人権侵害を受けているのではないかという国際的関心の高まりと迫害を受けている可能性のある人々の危機のことを指します。
  この事態は、ロヒンギャといわれる人々の非人道的扱いについてミャンマー当局にいる個人の国際法上の犯罪の嫌疑を生じさせるのみならず、ミャンマーがジェノサイド条約に入っていることから、ミャンマーの国家としてのジェノサイド条約義務違反の問題をも生じさせます。ジェノサイド条約違反の問題についてはイスラム協力機構を代表してガンビアがミャンマーを国際司法裁判所へ提訴しました。国際刑事裁判所もこの問題について検察局が自発的に職権で取上げて、捜査を開始しており、国際司法裁判所と国際刑事裁判所で同一の主題が係属している初の事態となっているのです。
  ミャンマーは国際刑事裁判所規程という条約に入っていないものの、ミャンマーで迫害を受けているとされるロヒンギャが隣国バングラデシュの難民キャンプに追われていることから、人道に対する犯罪のうちの追放が国際刑事裁判所規程に入っているバングラデシュの領域内で完成していると国際刑事裁判所の裁判官により判断されて、捜査が許可されているのです。本書を書いている間に、ミャンマー国内ではクーデターが、世界的にはコロナ・パンデミックが起き、国際司法裁判所の訴訟手続や国際刑事裁判所の捜査も順調とは言い難い状況です。実は、2023年末現在、国際刑事裁判所からは誰にも逮捕状が出されていません。しかし、この問題を忘れないためにも、国際刑事裁判所が初めて東南アジアの問題に取組んでいるということからもこの問題を注視していくことは重要であると考え、この問題を英語でまとめました。



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