一橋教員の本
親による子の拐取を巡る総合的研究 : 比較法・歴史・解釈
深町晋也, 樋口亮介, 石綿はる美編著 |
著者コメント
本書は、親による子の「奪い合い」と呼ばれる事例(例えば、婚姻中の別居のタイミングや離婚後の面会交流中に、親の一方が他方に無断で子を連れて行くこと)に対する刑法的規律のあり方を検討するものです。法律時報における連載「拐取罪を巡る比較法的・沿革的分析」89巻11号~91巻11号(2017~2019年)、2019年に一橋大学で行われた日本刑法学会第97回(2019年)大会ワークショップにおける成果を中心に、書下ろしの論稿も含む500頁を超える重厚な本です。
本書の検討の主たる対象は、略取・誘拐罪(以下、拐取罪)をめぐる比較法研究(日本法も含めて10の法域!)、沿革的な検討です。各国の制度を見てみると、親による子の引き離し・連れ去りが処罰される国、国外事案に限って処罰される国、処罰に慎重な国と、その内実は多様です。各研究者による比較法研究を一つにまとめた本というのは、多いですが、本書では、各執筆者の比較法研究を踏まえて、比較法研究の全体図が編者によって描かれていることが大きな特徴です(第1部「比較法の地図」(樋口亮介))。
また、本書では、子の「奪い合い」について、民事法の視点による分析が行われています。外国法も含めて民事法において、子の「奪い合い」についてどのような議論や法律の規定があるのか、ということを理解することが、刑法的な対応のあり方の検討のために必要だという考えに基づくものです。
多くの研究者による「共同研究」の成果である本書は、一つの問題を、多面的に検討するということの意義を示す書籍でもあると思います。本書が扱う主題に関心がある方のみならず、「研究」というものに興味がある方にも是非手に取っていただきたい一冊となっています。研究の世界を覗く一歩にしてみてください。(石綿はる美)