一橋教員の本

日常の読書学 : ジョゼフ・コンラッド『闇の奥』を読む

日常の読書学 : ジョゼフ・コンラッド『闇の奥』を読む

中井亜佐子
小鳥遊書房 2023年2月刊行
ISBN : 9784867800089

刊行時著者所属:
中井亜佐子(言語社会研究科)

著者コメント

 多くの人にとって、読書というのはとても日常的な行為です。わたしたちは日々、社会や生活の雑音をBGMとして聴きながら、さまざまな場所で、さまざまな書物のページをめくっています。本書のねらいは、わたしたちの日常の読書、とくに「文学作品」と呼ばれるような書物を読むことの意味や方法について、『闇の奥』(1899年)という一冊の小説の読解をつうじて考察することです。


 『闇の奥』の作者、ジョゼフ・コンラッドは、ウクライナ生まれのポーランド人で、のちにイギリスに帰化した英語作家です。小説家になる前は船乗りとして、世界各地を訪れました。『闇の奥』は、ベルギー王レオポルド2世の統治下にあったコンゴに赴任したときの経験をもとに書かれた作品です。刊行後120年ものあいだ、この小説はいろんなふうに読まれ、解釈され、批評されてきました。植民地支配の残酷な現実を告発する書だとみなされたこともあれば、普遍的な人間心理を描いた物語だと解釈されたり、物語理論や批評理論にとって絶好のテスト・ケースとして活用されたりしてきました。女性差別的、人種差別的な本だと批判を浴びたこともあります。本書では、この『闇の奥』といっしょに考え、そこから学びながら、「読むこと」とはいったいなんなのか、あれこれ模索しています。


 小説を一冊読んだところで、わたしたちの住まう現代社会の諸問題がいますぐどうにかなるわけではありません。けれども本を読むことは、日常のなかにありながら少しだけ日常を離れることでもあります。読み終わったとき、これまでは見過ごしてきた問題がはっきりと見えてくることもあるでしょう。そうやって日常を再発見することが、わたしたちが行動を起こすきっかけになるのではないでしょうか。



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