一橋教員の本

名宛人なき行政行為の法的構造 : 行政法と物の法, 序論的考察

名宛人なき行政行為の法的構造 : 行政法と物の法, 序論的考察

土井翼
有斐閣 2021年11月刊行
ISBN : 9784641228177

刊行時著者所属:
土井翼(法学研究科)

著者コメント

 われわれは道路や公園といった公共空間がなければ自由に生きていくことができません。たとえば、私が自宅から大学に行く途中で必ず誰か他の人の土地を通らなければならないとすると、私が大学に辿り着けるかはその人の意のままです。自分の土地に誰を入れるかは、基本的には所有者が自由に決めることができるからです。こんなことでは、学問の自由は絵に描いた餅でしかなくなるでしょう。このように公共空間はあらゆる自由のインフラともいえる存在ですが、これに関する法学的な考察は意外にも少ないのが現状です。


 本書は、公共空間に関して法学的な考察をするための前提となる言語を作り上げる試みです。これまで、さまざまな行政活動の特徴を比較検討する際の「ものさし」としての役割を果たすこととされてきたのが、行政行為という行為です。そして、通説は、特定の名宛人の権利義務や地位に変動をもたらす行為こそが行政行為だとしてきました。しかし、その通説は、公物の公用開始行為という誰の権利義務や地位にも関わらない行為をも行政行為としています。この謎から出発して、人ではなく物に対する行為こそが行政行為の範型なのだという理解を提示し、行政行為論の視座を転換すること、これが本書の目的です。


 ただちに解釈論や立法論に役立つというタイプの書籍ではありませんが、行政法学の楽しさや懐の深さを感じながら私は執筆しましたし、読者の皆さんにそれが伝われば嬉しく思います。ぜひお手に取ってみてください。



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