一橋教員の本

雇用差別と闘うアメリカの女性たち : 最高裁を動かした10の物語

雇用差別と闘うアメリカの女性たち : 最高裁を動かした10の物語

ジリアン・トーマス著 ; 中窪裕也
日本評論社 2020年12月刊行
ISBN : 9784535524828

刊行時訳者所属:
中窪裕也(法学研究科)

訳者コメント

 本書は、2016年3月に刊行された、Because of Sex: One Law, Ten Cases, and Fifty Years That Changed American Women's Lives at Workという本を翻訳したものです。

 アメリカでは、1964年に制定された公民権法の第7編が、雇用上の性差別を禁止しています。この法律は、いわゆる公民権運動の中から生まれたもので、人種差別の禁止が主眼とされていました。そのため当初の法案には、性差別の禁止は入っていなかったのですが、法案審議の最終段階で、ひょんなことから「性」という文言の追加が提案され(成立阻止を狙った南部出身の議員の策略だったと言われています)、そのまま成立してしまいます。

 けれども、性差別を禁止する法律の制定は、実は出発点にすぎません。以後に連邦最高裁の判例が積み重ねられ、徐々にその内容が明らかになって行きます。セクシュアル・ハラスメントや性的ステレオタイプによる差別などの法理も、その中から生まれてきました。本書は、制定から50年以上にわたる第7編の歴史の中から、10件の有名な連邦最高裁の判決を取り上げて紹介し、初期の頃から最近に至るまで、法理の発展や社会の変化を分かりやすく教えてくれます。

 しかし、本書の最大の魅力は、それぞれの事件を、原告となって最高裁まで闘った女性の立場から、まるで「物語」を読むように、生き生きと描き出していることでしょう。人間ドラマという言葉が、まさにぴったりです。著者のJillian Thomas氏は、自分でも雇用差別の事件を扱っている女性弁護士ですが、大きな構想力と、ウィットあふれる巧みな叙述で、ぐいぐいと引き込んでくれます。

 私にとって本書は2冊目の訳書になりますが(∗)、今回の翻訳には前訳書との不思議な縁もあります。そのあたりは本書の「訳者あとがき」に書きましたので、機会があれば、ぜひご覧ください。


 (∗) https://www.hit-u.ac.jp/academic/book/2014/140212.html



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