一橋教員の本

戦後日本の満洲記憶

戦後日本の満洲記憶

佐藤量, 菅野智博, 湯川真樹江編 (佐藤仁史執筆)
東方書店 2020年4月刊行
ISBN : 9784497220042

刊行時著者所属:
佐藤仁史(社会学研究科)

著者コメント

 本書は、戦後日本社会において「満洲」がどのように記憶されてきたかについて、満洲引揚者およびその二世が結成した様々な団体が発行した「会報」の分析から検討したものです。第Ⅰ部「闘う記憶」では、戦後日本政府が満洲を忘却していくことを示す事例として恩給問題を取り上げています。第Ⅱ部「葛藤する記憶」では、引揚者団体内部での葛藤を経ながら自分たちの歴史を編んでいく姿を描いています。第Ⅲ部「周縁の記憶」は、女学生や台湾人などジェンダーとエスニシティの視座に着目した論考を収めています。


 戦後日本における「満洲」の記憶のあり方を問うということは、戦後日本がいかに加害の歴史や植民地経験を「忘却」してきたかを問い直すことであり、帝国の崩壊にともなう社会再編のあり方を再考することでもあります。これは今日にも連綿と続く「国民」と「他者」をめぐる包摂/排除に関する現代的問いであるともいえます。本書に収録された論文はみな何らかのかたちでこの問いを共有しています。


 本書の舞台裏に少し触れれば、本書の執筆陣に含まれる数人のグループが、満洲からの引揚者や中国残留邦人らへの聴き取り調査を2011年よりはじめたことに端を発しています。関係者との交流を進める中で会報の存在に気がつき、2013年7月に国会図書館で集中的に調査を行い、その有用性に気がついたことから本書に繋がる共同研究が始まりました。今後は、本書では十分に活用できなかった会報や満蒙開拓団による「開拓団史」を利用して分析を深化させたいと思っています。(佐藤仁史)



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