一橋教員の本

見証 : 一位普通農民的70年

見証 : 一位普通農民的70年

羅雪昌著 ; 杜正貞, 佐藤仁史, 陳明華 [ほか] 編
浙江大学出版社 2019年12月刊行
ISBN : 9787308196536

刊行時編者所属:
佐藤仁史(社会学研究科)

編者コメント

 本書は、中国の一農民(1941年生まれ)が人生を回顧して記した回想録です。これは、佐藤が進めてきた中国浙江省建徳市の山村におけるフィールドワークにおいて思いがけず得られた大きな「副産物」です。2007年8月から開始したある科研プロジェクトでは銭塘江流域の水上居民(特に「九姓漁戸」と称された賎民)の生業と生活に関するフィールド調査を進めていましたが、その中で林産物の生産や流通を取り巻く「流域社会」の連関をトータルに把握したいという願望が芽生え、その後、「流域社会」のうち、特に山村における共同性や慣行、1949年以降におけるそれらの連続性と断絶について掘り下げる必要性を感じるようになりました。そこで、浙江大学の友人の協力を得て、2013年8月より2016年8月まで合計4回のフィールドワークを建徳市・桐廬県・龍泉市で実施しました(フィールドワークによる成果の一部は、杜正貞・佐藤仁史編『山林、山民与山村:中国東南部山区的歴史研究』浙江大学出版社、2020年、として刊行予定です)。本書のもととなった回想録はその際に知り合った老農民から偶然提供されたものです。フィールドワークの主要な目的が問答方式によるインタビュー調査であった点から見れば、この方から回想録を提供されたことは「副産物」ですが、筆者が採用してきた調査の方法や人々の語り・回想との向き合い方を再考するという点においては、回想録との出会いは歴史との関わり方全体に渉る本質的な意義がありました。近年の中国近現代史研究においては、檔案(公文書)や基層社会に所蔵される様々な民間文書の発掘・整理が進み、これらを纏めた資料集や文書を活用した優れたモノグラフが数多く生み出されています。こうした動向と同時に、普通の人々の多様な語りが注意深く拾い上げられることで、より多面的で豊かな歴史認識が育っていくことを望んでいます。(佐藤仁史)



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