一橋教員の本

百姓一揆(岩波新書, 新赤版 1750)

百姓一揆

若尾政希
岩波書店 2018年11月刊行
ISBN : 9784004317500

刊行時著者所属:
若尾政希(社会学研究科)

著者コメント

 2018年11月20日は、岩波新書が発刊(1938年11月20日に20冊点同時刊行)されてから、80回目の誕生日でした。 そんな特別な日に、創刊80周年記念の1点として、『百姓一揆』が刊行されたのは、とても光栄で嬉しいことでした。 その日、私は授業とシンポジウムのためにパリに滞在しておりましたので、悔しいことに、本書を手に取ることは叶いませんでしたが、現代フランスのガソリン税反対の闘争にじかに接して、改めて現代の視点から、近世の百姓一揆とは何だったのかを考えるという貴重な体験をしました。

 この本は、私にとっては4冊目の単著で、はじめての新書となります。新書という、多くの方々が手に取って下さる器物(うつわもの)に、どこまでの内容を盛り込むことができるか、手探りをしながら書きました。とはいっても、レベルを下げるような手加減していません。むしろ、いま述べたいこと、書きたいことを目一杯、思う存分、書きました。

 この本のなかに、しばしば、著者である「私」が出てきます。研究を始めてから35年、時代の移り変わりのなかで、私は、悩み葛藤し迷いながら研究の課題を見つけて取り組んできました。そのプロセスをどうしても書き込んでおきたいと思ったからです。また、歴史研究の醍醐味は、謎解きの楽しさにありますが、実のところ、謎が解決して一件落着となるのはわずかで、証拠が足らず行き詰まり「迷宮入り」で放置せざるを得ないことの方がはるかに多いのです。簡単に解けないからこそ、さらに奮起して、謎解きに挑むわけです。 そうした一人の歴史研究者の、たどたどしい足跡をも書き込んでおきたいと思って、あえて「私」を登場させました。

 手にとっていただければ分かりますが、本書は、百姓一揆だけを述べた書物ではありません。百姓一揆を語るには、日本の近世(江戸時代)という時代の全体を見ていく 必要があると考えました。結果的に、百姓一揆について書いた分野史であるとともに、近世という時代の全体を描いた総合史となりました。

 本書には、「あとがき」がありません。 私もそうですが、本を手に取ると「あとがき」を探して、そこから読み始める方も多いかと思います。「あとがき」がないと聞いて、がっかりされたかも知れません。 それでも、今回の新書には、あえて「あとがき」を書きませんでした。その理由は、尊敬する故安丸良夫さん(一橋大学名誉教授、私の前任者)の名著『神々の明治維新』(岩波新書、1979年)に「あとがき」が無く、常々、「恰好良いなあ」と思ったからです。くわえて言えば、「あとがき」を書くと、どうしても、いろんな言い訳をしてしまうのではと考えたからです。

 前の月には、同僚の貴堂さんの『移民国家アメリカの歴史』が岩波新書から刊行されました。アメリカはもちろん現代世界を考えるうえで、絶好の書物で、名著として読み継がれていくと思います。一橋大学の社会学部・社会学研究科の教員が続けて岩波新書を出すという機会は、そんなにあることではないと思います。喜びたいと思います。

 もう一点、本書45ページの図版(明和7年高札)は、一橋大学附属図書館岡田家文書中のものを撮影させていただきました。貴重な資料を所蔵し保存されている附属図書館に感謝を申し上げたいと思います。

 言い訳をしないと言いながら、結局、あれこれ言い訳を述べてしまったように思います。 是非とも本書を手に取って読んでいただきたいと思います。いろんな読み方ができる本だと思いますよ。



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